花の写真と撮影ポイント


春の花 1


 桜の花が咲くころには 雑木林の林床にも多くの小さな花が咲くようになります。虫の目線を持って地面近くで花を眺めてみましょう。

 

 この時期に咲く花の中には雑木林の木々の葉が展開し、林床の植物も背丈を増して林の中が暗くなる前のわずかな期間だけ姿を現すものがあります。スプリング・エフェメラル(春の妖精)と呼ばれています。代表的な花にカタクリがあります。光合成で栄養をつくれる期間が短いので、種子から発芽して、花をつけるまでに10年近くかかるといわれています。大切に見守っていきたいものです。

 

 春に花をつける植物はもともと高緯度地方起源のものが多いといわれます。秋に花を咲かせると、冬までの期間が短い高緯度地方では実をつける時間的な余裕がないからだというのです。ですから多年草では前の年に光合成で稼いだ栄養は地下部に蓄えておいて、春咲く花と初期成長につぎ込むのです。一年草では秋に発芽し、冬にも光合成をして春に花をつけ、種子を結ぶという生活スタイルが多いのです。もっともこの生活様式は雪に覆われない温暖な地方でないとできませんね。

 

* このサイトで紹介している画像は、すべて管理者が撮影したものです。学校の教育目的以外一切の複製は禁止します。


目次(掲載順)

1-1    ちごゆり     1-2    かたくり                1-3    しなまんさく

1-4    たちつぼすみれ      1-5    じゅうにひとえ       1-6    ひとりしずか

1-7    おおあらせいとう      1-8    いかりそう      1-9 しだれさくら

1-10    くまがいそう 1-11    光の円舞(つばき)1-12    すいせん

1-13    しゅんらん 1-14    かたくり

1-15    じろぼうえんごさく,やまえんごさく    1-16    おきなぐさ

1-17    むらさきけまん 1-18    やまぶきそう 1-19    おおじしばり 

1-20    ほうちゃくそう 1-21    おにたびらこ  1-22    うらしまそう 

1-23    きんらん    1-24    おどりこそう  1-25    さぎごけ 

1-26    つぼすみれ   1-27    さわおぐるま 1-28    そしんろうばい 

1-29    ふくじゅそう  1-30    いろはもみじ 1-31    くさのおう

1-32    ぎんらん    1-33    ささばぎんらん

1-35    こせりばおうれん 1-36    はなねこのめ やまねこのめそう

1-37    おおみすみそう(雪割草) 1-38    ほとけのざ 1-39    つくし

1-40    あまな     1-41    きじむしろ  1-42    のげし

1-43    けきつねのぼたん  1-44    あけび、みつばあけび

1-45    みつばつちぐり      1-46    まるばすみれ     1-47    あかねすみれ          1-48 あおいすみれ     1-49 においたちつぼすみれ 1-50 ふき

1-51 かんとうたんぽぽ 1-52 げんげ(れんげそう)

1-53 いちりんそう  1-54 にりんそう  1-55 せつぶんそう

1-56 ふでりんどう  1-57 はまだいこん 1-58 みつまた

1-59 うわみずざくら 1-60 はまえんどう 1-61 あかやしお

1-62 クリスマスローズ 1-63 しょうじょうばかま 

1-64 ふたりしずか   1-65 くさぼけ  1-66 からすのえんどう

1-67 はるじおん  1-68 ジャーマンカモミール  1-69 はなもも

1-70 みやまきけまん 1-71 きぶし  1-72 あせび

1-73 こぶし  1-74 うめ      1ー75  ミモザ         1-76 みつがしわ

1-77 ネモフィラ     1-78 チューリップ 1-79 ムスカリ

1-80     かんひざくら(寒緋桜) 


索引(五十音順)

 

アオイスミレ1-48  アカネスミレ1-47  アカヤシオ1-61     アケビ1-44 

アセビ1-72                       アマナ1-40              イカリソウ1-8 イチリンソウ1-53  

イロハモミジ1-30          ウメ1-74  ウラシマソウ1-22  

ウワミズザクラ1-59 オオアラセイトウ1-7  オオジシバリ1-19 

オオミスミソウ(雪割草)1-37   オキナグサ1-16    オダマキ1-34   オドリコソウ1-24   オニタビラコ1-21

 

カタクリ1-2  ,1-14  カラスノエンドウ1-66   カントウタンポポ1-51 

カンヒザクラ(寒緋桜)1-80  キジムシロ1-41  キブシ1-71

キンラン1-23    ギンラン1-32  クサノオ1-31   クサボケ1-65   クマガイソウ1-10  クリスマスローズ1-62  ケキツネノボタン1-43  

ゲンゲ(レンゲ)1-52 コセリバオウレン1-35 コブシ1-73

 

サギゴケ1-25    ササバギンラン1-33   サワオグルマ1-27   

シダレザクラ1-9   シナマンサク1-3 ジャーマンカモミール1-68

ジュウニヒトエ1-5  シュンラン1-13  ショウジョウバカマ1-63

ジロボウエンゴサク1-15     スイセン1-12    セツブンソウ1-55  

ソシンロウバイ1-28

 

タチツボスミレ1-4   チゴユリ1-1  チューリップ1-78  

ツクシ(スギナ)1-39       ツバキ1-11     ツボスミレ1-26   

 

ニオイタチツボスミレ1-49     ニリンソウ1-54 ネモフィラ1-77 ノゲシ1-42

 

ハナネコノメ1-36  ハナモモ1-69  ハマエンドウ1-60    ハマダイコン1-57  ハルジオン1-67  ヒトリシズカ1-6        フキ1-50       フクジュソウ1-29  フタリシズカ1-64     フデリンドウ1-56       ホウチャクソウ1-20 

ホトケノザ1-38

 

マルバスミレ1-46   ミツガシワ1-76    ミツバアケビ1-44   

ミツバツチグリ1-45  ミツマタ1-58  ミモザ1-75  ミヤマキケマン1-70

ムスカリ1-79              ムラサキケマン1-17  

 

ヤマネコノメ1-36  ヤマブキソウ1-18  


  1-1

 ちごゆり

 (稚児百合)

 

      名前は小さな百合の意味。雑木林の林床に咲く。花は地面近く数cmにつくので、カメラを地面において下から見上げないと花の中が見えない。はかなげで控えめな花。日本の春の花の一つとして取り上げておきたい。

     近年植物の分類は科以上のレベルで大きく変更があった。それまでの形態による分類から、DNAの塩基配列の類似性に基づく分類へと変わったからである。このチゴユリもホウチャクソウともどもユリ科からイヌサフラン科へと変更になった。ただし属のレベルでは変更がない。

 雑木林に咲く雰囲気を表すように木々の隙間からの光が写り込むように背景を選んだ。

 

千葉市花見川区  

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1-2

かたくり(片栗)

 

    地下に球根があり、かつてはそれをすりつぶして片栗粉をとった。いま片栗粉はジャガイモのでんぷんでつくる。

 北方系の植物で、房総半島に分布している個体群は氷河時代に南に分布を移した時の名残と思われる。北向きの斜面に咲く。花弁の基部近くにはW字型の模様がある。蜜のありかを花粉媒介役の昆虫に示す「蜜標」である。

 うつむき加減に咲く姿を表現するために横向きでやや下から撮影するのがよい。逆光で撮影すると、透過光が花びらの色を一層美しく見せてくれる。周りは木々の枯れ葉なので、背後に斜面が迫っているところで撮影すると、枯れ葉ばかりが目に付いてしまう。生息環境を示すにはその方が適切なのだろうが、ここでは花の美しさを表現したいので、背後の斜面が花から離れているところで撮影した。

 

(千葉市 泉自然公園)

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1-3

  しなまんさく

 

    他の花に先駆けて咲くことから「まず咲く」が名前の由来とか。シナマンサクはマンサクに比べ花の色が濃く、大きさも大きい。また花の時期でも昨年の葉が枯れた状態でくっついているのも特徴。

 複数の花がついていて少しカーブしている枝を見つけ、花の色を引き立てるように少し暗い背景を選んだ。紅梅の赤い色なども背景にふさわしい。背後の木々の隙間から光が漏れており、絞りを開放近くにしたので玉ボケが得られた。

 

千葉市都市緑化植物園

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1-4

たちつぼすみれ

  (立壺すみれ)

 

    すみれという名前は、花の後ろに突き出している蜜を含んだ構造が大工の用いた墨入れに似ていることに由来するとか。「つぼ」は屋敷の中庭のこと。スミレ類はこのような花の後、開かない「閉鎖花」というものをつける。そちらでは自家受精によって多くの種子をつける。種子にはアリの好物が付いており、散布にアリを利用している。

 タチツボスミレれは雑木林やその縁によく見かけられるもっとも普通のすみれ。フィルムで撮影したこの画像は、光が当たっているのでやや赤みが増した色合いになった。多くの花にピントが来るように、さらに背後にぼやけて写っている花がピントの合っている花の画面上すぐ上に来るようにカメラの位置と高さを決めている。これは両者の間に土が幅広く写っていると、画面が二分されてしまうから。 

 

千葉市若葉区

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1-5

 じゅうにひとえ(十二単衣)

 

 平安時代の衣装の名前のついた野草。地味な花であまり人目を引かないかもしれないが、雑木林の縁には比較的よくみられる。

 この場合もカメラを地面において撮影。地味な花なので、浮き立つようにやや暗い背景を選び、背景のボケを得るために180mmマクロレンズを使用。背景がすっきりした。複数の花にピントが来るようにカメラ位置の調整をしている。

 

千葉市若葉区

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1-6

  ひとりしずか

(一人静)

 

 静御前を名前の由来に持つ。雑木林に咲く。花びらはない。花茎から緑色の短い子房が出て、その先に小さな柱頭がついている。この子房の横腹から白い糸状のものが3本ずつ伸びている。これはおしべ(花糸)で、そのうちの1本の付け根付近に黄色い葯(やく)がある。花穂(かすい= 花の房=)が新鮮な間は、薄緑色の葉が掌のように包んでいるが、葉が水平に展開するころにはおしべの先端が黒ずんで傷み始める。センリョウ科。

 この写真では葉が開き始めているのに花穂の傷みがほとんどない状態のものを捜して撮影している。朝早く斜めのやや強めの光が緑の葉を透過することで、きりっと立つ清々しさと春の躍動感を表現したかった。手前の一群れの草の背後に、後方のヒトリシズカを緑色の屏風のように配置した。

 

千葉市若葉区

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1-7

おおあらせいとう

 

    ショカッサイ(諸葛菜)とかムラサキハナナとか呼ばれているアブラナ科の植物。中国原産で江戸時代に渡来したそうで、庭園などに植えられる。

 強い光が降り注ぐと赤っぽく見えてしまう。この日は理想的な花曇り。淡い光が花に当たってびっくりするほど美しく見えた。斜面に生えているので対角線構図が使えた。背後にも花が続いている様子をボケで表現した。

 

千葉市若葉区

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1-8

いかりそう

(碇草)

 

雑木林の中で、4つの突起が突き出た船の錨に似たピンク色の花をつける。花茎はやや曲がる。葉はやや細長いハート型。

 花の咲き始めでつぼみが多めの時期に撮影したい。花がいっぱい咲くとごちゃごちゃした印象になる。花の高さにカメラを置いて、特徴のある形が分かるように葉と花の両方を写しこむ。これが難しい。なかなかふさわしいモデルがない。できれば雨の翌朝、逆光を生かしながら背景も入るように撮影したいと思っているのだが、何年も狙いながらまだ納得のいくモデルに出会わない。

 

千葉市若葉区

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1-9

しだれざくら

 

  各地に有名な桜があり、多くの写真家が作品としている。各地にある名まえのついた一本桜(その多くは長命な枝垂桜の大木)は被写体として好まれ、花の時期ともなるとその周りに三脚が並ぶ光景が繰り広げられる。シダレザクラといっても枝が下がってくるという状態を示す言葉で、植物学的な品種名としては複数の品種が含まれる。

 町はもちろん郊外でもいたるところに電線が張り巡らされ、送電線の鉄塔が見える。街路樹は花のある高さを電線が横切っている。日本人は風景に鈍感なのかと思うほどである。有名な観光地でさえ電線が視界を遮っていることがしばしばある。写真家が集まり好んで撮影されるポイントは、美しい景色に加えて電線や人家がなんとか避けられる場所という理由で選ばれている。

 奈良の長谷寺の門の脇に咲いていたこの桜はどうなのだろう。寺を拝観して帰り際ふと振り返ると夕方の光を透過して神々しく咲き誇っていた。ほかに誰もいない静かなひと時だった。周りには門や松の木があり、切り取るのに苦労する。そういう状態だからだろうか。もう少しあとの花盛りに時期にもう一度訪れたい記憶に残る寺であった。

 背景がすでに日の当たらなくなった暗い山だったので露出補正はマイナスにした。

 

奈良県 長谷寺 3月末

28-300mm(180mm) F16 露出補正ー0.3  ISO800

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1-10

くまがいそう

(熊谷草)

 

 平家物語の登場人物、熊谷直実の背負っていた矢よけの袋に花の形が似ているとされて名づけられたとか。ランの仲間。明るい竹林などに見られたが、近年は自然状態で見られることは稀。この群落も大学建設にともない伐採される竹林に生えていたものを心ある方たちが移植したものと聞いた。年々地下茎が伸びて増える。明るい方へと移動していく性質がある。こちらの群落は小規模の明るい竹林の中にあり、移動せずに毎年楽しめる。しかしスギ林の一角に生えていた方の群落は数年で移動し、ほとんど消滅してしまった。被っていたスギを1本切ればそんな状態にならなかったのではないかと思う。類縁のアツモリソウ(平敦盛にちなむ)は絶滅危惧種。

花は透過光で撮影すると美しい。しかし一般に花は太陽に向かって咲く性質があるので、上を向く花以外はそのような条件で撮影するのは難しい。この花も順光線でしか撮影できない。雲の多い日だったのでフラットな光状態で撮影。濃い影が出なくてよいのだが、せめて少し斜光線が葉に当たるともっと生き生きした緑色に見えるはず。背景はスギの林。少しとり入れて生育環境を表現しようと試みた。

 

八千代市少年自然の家

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1-11

 光の円舞

 (椿)

 

 春の一日、やわらかい日差しの中でピンク色の八重のツバキが咲いていた。花とつぼみの位置関係が素敵だなあと感じた。花の中心部と手前のつぼみの両方にピントを合わせ、花の中心部が暗くならないように太陽の位置が変わるのを待つ。背後の生垣の隙間から木漏れ日が射しこむ。レンズは180mmマクロ。しぼりを開けると、木漏れ日は玉ボケとなって踊った。

 できれば野生のツバキ(ヤブツバキ)で花とつぼみの配置のよいものに出会いたい。とはいえ園芸種でもこのような配置のものに出会えた僥倖を喜ぶべきだろう。

 

千葉市都市緑化植物園

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1-12

すいせん

(水仙)

 

 学名(属名)はNarcissus。水に映った美しい姿に見とれ続けるうちに1本の草になったというギリシャ神話に登場する少年の名前に由来(ナルシストという言葉も)。花がやや下向きに咲くのもそんな話にふさわしい。地中海から中国大陸に分布。室町時代ころ渡来したという。

 鋸山以南の南房総では暮れのうちから咲きだし、多くの観光客が訪れる。早春を彩る花としてなくてはならないものだろう。

 葉が少し青味を帯びた灰緑色で、春のさわやかさを期待すると裏切られる。ところが光が透過すると、きれいな緑色に見える。花も逆光気味の方が好印象。一方白い花の常で直射日光を受けると色が白く飛んで花の質感がでない。しかも花というものは太陽に向かって咲くものだ。都合のよいモデルはなかなか見つからない。ちょっとあまのじゃくな花を探すことになる。

花の咲き具合のすっきりした個体がようやく見つかった。背景はダム湖の水面。光は水面に反射してやわらかに花に注がれている。しかも玉ボケになってくれている。春は「光の春」としてやってくる、そんな雰囲気が表現できただろうか。

 

鋸南町佐久間ダム  

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1-13

 しゅんらん

  (春蘭)

 

 クヌギやコナラなどで構成される明るい「雑木林」の林床に生える蘭の仲間。萼が3枚、側花弁が2枚いずれも緑色で周りに溶け込んで目立たない。唇弁は白色で赤い模様がある。

 シュンランの好む環境は北総台地ではアズマネザサに覆われてしまっており、姿を見かけるのも少なくなった。さらに盗掘も輪をかけている。野の花を私物化する人がなくならない。そこにあれば毎年多くの人々の目を楽しませてくれるのに。何気なく掘りとるのかもしれないが、今の時代では野蛮で許しがたい行為なのである。

 農耕地の周辺の林は、かつては薪炭林(しんたんりん)として数十年に一度伐採され、落葉樹林として維持されてきた。また堆肥づくりのため下草刈りや落ち葉かきが行われた。春の林床は明るく、さまざまな草花が見られた。しかし戦後農業や農村生活の変化とともに林に人の手が入らなくなりササや常緑樹が入り込んで植生が大きく変化したこと、都市の拡大が動植物の生息地を破壊したこと(「平成狸合戦」参照、自分が住んでいる町もそうしてできた)により、かつて普通に見られた植物がいまや北総台地から姿を消そうとしている。今回市民の森を久しぶりに数か所訪ねたが、一株も見つけることが出来なかった。

 斜面に残る雑木林で見つけた。5,6年前から低木の常緑樹を伐採し冬に落ち葉かきをして落葉樹林を維持しているところ。シュンランは増えてきている。夕方の光がサイドから当たっており、光の当たった緑色の蕚片がきれいだ。陽の当らない枯葉は暗く沈んでうるさくなくなった。地面においたカメラでバリアングルモニターを見ながら撮影。

 

千葉市若葉区

90mmマクロレンズ ISO400,F3.5       露出補正なし

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1-14

 かたくり

 

   春の花に再びカタクリを登場させました。千葉市都市緑化植物園を活動拠点としている写童の2016年春の写真展に出品させていただいた作品である。

 花の状態がよく、しかも一列に並んでいる。なんという幸運に恵まれたのだろうか。背後の斜面がゆるいので、枯れ草が目立たずに済んだ。後方に木漏れ日の見える林とその手前に点在するカタクリをぼかして写し込むこともできた。千葉県のカタクリは色が淡いので強い光が射しこむとしばしば白飛びし、花の質感が出ないことが多い。やわらかな光条件のもとで撮影できたのもよかった。ただしその分力強さには欠けるようにも思える。地面にカメラを置いて下の方から写した。多くの花の蕊にしっかりピントが合うようにカメラ位置を調節した。

 

佐倉市 川村記念美術館

90mmマクロレンズ

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1-15

じろぼうえんごさく

(次郎坊延胡索)

 

 名前を初めて聞いたときは「えんごさく」って「田吾作」みたいだと思った。でも図鑑(山溪ハンディ図鑑1 野に咲く花)でみると「延胡索」と書くのだそうだ。この本によると「伊勢地方で子供がこれを次郎坊、スミレを太郎坊と呼んで、花の距をひっかけて遊んだことに由来する」とある。また「延胡索」とは、この仲間の塊茎を乾燥したものを漢方でそう呼ぶのだそうだ。

 高さ10~20cmになるというが、4~5cmのものも多い。花1つ1つはやはり林の下でよく見かけるムラサキケマンに似ている。ケシ科キケマン属である。ムラサキケマンの方は花がいっぱいついて賑やかな感じがするが、こちらの方は花の数が少なく品良く感じる。よく見ると「飛天」のようにも思える。家人は拡大写真に「ウルトラマン」みたいという。同じものを見ても人によって印象がかくも違うものかと愉快になった。近縁種にヤマエンゴサクがあり、花柄の基部につく包葉の形の違いでも識別できる。ヤマは縁に切れ込みがあり、ジロボウは葉の縁が滑らかである。この写真でも中央部の3つの花の下にある包葉でそれとわかる。

 標準ズームレンズで最短撮影距離まで近づいて手持ちで撮影した。

 

泉自然公園 4月

24-105mm(105mm) F4 0EV ISO800 

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こちらはヤマエンゴサク。

花のすぐ下の抱葉に切れ込みがある。

 

千葉市緑化植物園


1-16

おきなぐさ

(翁草)

 

日当たりのよい草地に生えるキンポウゲ科の多年草。花のあと花柱がのび白い毛も伸びて羽毛状になることから命名されたようである。花弁はない。花弁に見える部分は蕚片で6個ある。写真でわかるとおり外側は白い毛でおおわれている。内側は赤紫色をしている。右上の花では暗紫赤色の柱頭およびその下の花柱にくっついているおしべの黄色い葯が少し見えるだろう。

 日本のレッドデータに記載されているように、各地で絶滅の怖れがある。 北総台地では印西市の千葉ニュータウンの一角で数年前まで確認されていたと聞いているが、分布地がUR都市機構による造成工事が行われたとも聞いている。現状はどうなっているのだろうか。

日本では高山、湿地、川の氾濫原、海岸などを除くと草地の大半は定期的な野焼、草刈りあるいは放牧など人間の活動によって維持されている。そうした草地に生える植物の多くは人々の生活様式が変わると大きな影響を受ける。一概に立ち入り禁止にして植物どうしの競争関係に任せてしまっても、また造成工事のように地表をはいでしまっても消えてしまう。種の多様性を保つために適切な管理が必要なのである。

 花どうしが重なり合わないように、かつ花の内部が少しでも見えるようにカメラ位置を探す。花の高さで写すためカメラを地面に置き撮影。

 

筑波実験科学植物園 3月下旬

180mmマクロレンズ ISO400  F4  +0.33EV

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1-17

むらさきけまん(紫華鬘)

 

    雑木林の縁などでやや暗い湿ったところに普通にみられる。ケシ科キケマン属に分類され1-15のジロボウエンゴサクと近縁。花の形はよく似ている。花の色は紅紫色でジロボウ・・より一般に濃いめのものが多く花つきも多いが、花つきが少なく、色の薄いのもある。一番の違いは葉の形である。ムラサキケマンの葉は2~3回羽状に細かく裂けている。写真で比べていただきたい。

木漏れ日が弱く射している雑木林の縁の道端にいくつかの花茎が集まっていた。せめて2本にピントを合わせようと位置を決めた。2つの花茎を線で結び、その中点から垂直に線を引き、その線上にカメラを置けばいい。とはいえ、近づいてマクロレンズで撮影するときは、2つの花までの距離が数ミリメートル違ってもピントはそろわないので粘り強く位置決めをすること。花の高さにセッティングすると後方が開いて画面がすっきりする。

 

千葉市 泉自然公園

180mmマクロレンズ F4.5 0EV ISO800 

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1-18

やまぶきそう(山吹草)

 山吹色の花をつける。山吹はバラ科で花弁は5枚。こちらはケシ科で花弁は4枚。花は気温が低いと開かない。 

 八王子の片倉城址公園には密度の高い群落がある。例年4月20日ころが見ごろ。最寄駅から歩いて5,6分と便利。また国営武蔵丘陵森林公園の野草園にも群落がみられる。

 手前にある花にピントを持ってきつつ、後方の花も重ならずに見えるようにカメラをやや斜め上になるように構えた。ピントを合わせた手前の花の画面上の高さをいろいろ変えてみたが、中央よりやや下に配置したらしっくりした。

 

千葉市都市緑化植物園

180mmマクロレンズF3.5 +0.5EV ISO200 三脚使用

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1-19

おおじしばり(大地縛り)

 

 道端などにも普通にみられる多年草。細い茎が地中を這い広がる。花柱の先が丸くなっているのは、ほかの花からの花粉が来ない状態で同花受粉をするためである。

 いろいろな高さから撮影してみたが、細長い花茎が見える位置から撮ったものがもっとも自然に見えた。こうした写真では複数の花の蘂にしっかりピントをもってくることが大事。

 

佐倉城址公園

90mmマクロレンズ F3.2  0.7EV   ISO200

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1-20

ほうちゃくそう(宝鐸草)

 杉混じりの雑木林の林床に普通にみられる。寺院の軒に吊下げられている宝鐸に由来する。白っぽい地味な花で先の方がやや緑色を帯びる。先端は少し開くだけ。新緑の季節に咲く。

 花が左右にバランスよく展開している個体を被写体として選び、カメラを花の高さに設定し、あえて花を大きく写さないようにした。曇り空の午後3時過ぎの林内はかなり暗くシャッター速度が1/15秒にしかならないので、三脚を使用しているがISO感度も上げている。

 

千葉市泉自然公園

ズームレンズ150mm相当 F5.6  +0.5EV ISO800

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1-21

おにたびらこ(鬼田平子)

   

    道端でもよく見かける。茎の先に7~8mmの黄色い花をつけるキクの仲間。つぼみは円筒状だが、花が終わると基部が膨らんで円錐形になる。

 黄色いので目立つけれど、花は小さく見栄えがしないので一般に注目は浴びないだろう。春の七草のホトケノザとされる植物で水田に多いコオニタビラコがある。名前からすると同じ仲間かと思い調べたら属が異なっていた。花の雰囲気も結構違う。

 この写真では林の縁に咲いているものを撮影。花には日が当たっていないので少し暗かったが背景に木漏れ日が当たっていた。レンズを開放近くにするとちょっと幻想的な雰囲気になったが複数の花にピントを合わせたかったのでF4と少し絞った。野の花の写真には背景が重要ということが理解していただけるだろうか。花色が出るようにしたら大きくプラス補正になった。

 

千葉市泉自然公園

90mmマクロレンズ F4  1.3EV ISO400 三脚使用

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1-22

 うらしまそう(浦島草)

 

 雑木林に普通にみられる。雌雄異株。ミズバショウや生け花で使うカラーなどと同じサトイモ科で葉の変形した仏炎苞に包まれた花軸があり、花は花軸にくっついている。花軸の先端は細く糸状になって長くのびる。この糸を浦島太郎の釣り糸にみなしてウラシマソウと命名されたという。やや暗い雑木林に多い印象。

 端午の節句に風呂に入れられるショウブもこの仲間で、花菖蒲(アヤメ科)とは葉が似ているだけで縁がない。

 仏炎苞が逆光を透過して赤褐色になると、あたかもともし火をともしたような雰囲気になる。そういう場面を撮影したいと願っていたが意外に難しい。朝か夕方の斜光線でないといけない。手前に花を遮る草があってはいけないなどなど野外では思っているほど簡単ではない。撮影地は先の冬に久しぶりに下草が丁寧に刈りはらわれてよい条件になっていた。しかし何本もある杉の木が蔭をつくってなかなか光が花に来ない。結局小一時間待ってようやく少しだけ望む条件になった。

 

佐倉市川村美術館

100mm相当 F3.5 ±0EV ISO200

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1-23

きんらん

(金蘭)

 

   雑木林の中などに咲く鮮やかな黄色いラン。どちらかというとやや暗めの雑木林の方が環境的に適しているように思える。花の柄に見える部分は子房。

 キンランの成長に菌がかかわっている実験がある(6p~7Pにかけて)。これによるとコナラの根に菌が共生した状態のもの(外生菌と共生)とランの根の中から抽出分離した菌(一種の「ラン菌」でイボタケ科の菌類)とともに栽培した無菌培養キンランは30か月後も7割以上生存したが、外生菌のないコナラと無菌培養したキンランはみな枯死したとある。この研究者はコナラの光合成産物が外生菌と「ラン菌」を経由してキンランに運ばれていることが明らかになったとしている。この論文を読み、キンランがやや暗いコナラなどの雑木林で見られるわけに合点がいった。このように最近の研究は多くの植物が菌類と密接な関係(共生、半共生、あるいは菌に依存する従属的な栄養摂取)にあることが明らかになってきており、高校の生物の教科書にも書かれるようになっている。ただし周囲にコナラがなく杉に囲まれているような場所でも見られるので、コナラとの共生関係は必須条件ではないようだ。

 

 キンランの花は黄色いので目立つ印象がある。しかし写真に撮ってみると背景から浮かび上がらないことがよくある。その原因の1つが背景にある。光が強く当たった草はらは黄色みを帯びる。黄色い背景に黄色い花では浮かび上がらないわけだ。その場合、花の背後は日陰になった部分など濃い目の緑色になっているところを探すのがよい。加えて花が開いて光が降り注いでいればなお目立つ。朝早いと花が開いていないことが多いことも知っておこう。

 遅い時間帯で斜光線が林に降り注いでキンランの背後が明るい雰囲気に包まれていた。樹冠が風に揺れて木漏れ日がキンランの花に注がれた瞬間シャッターを押した。風に揺れてピントが甘いものもいくつもあった。このような状況下ではシャッターは複数回押すことが後悔しないために必要である。 

 

佐倉市川村記念美術館

145mm相当 F3.5  1.5EV ISO200 三脚使用

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1-24

おどりこそう(踊り子草)

 

   雑木林の縁のような半日陰に見られる。東京台東区の旧岩崎邸庭園のエントランスの長い坂道の左側の土手の上に見られることから、元来はそれほど珍しい植物ではないかと思われるが、千葉市周辺では今はなかなか目にすることができない。

 葉の付け根にぐるっと一周唇型の花をつける。色は白いものからややピンクがかったものまである。下のほうから上に向って順次咲くので、写真は花の時期としては後半のもの。

 2株並んでいて、その背後がほかから離れているのでモデルに選んだ。できれば背後にやわらかな光が入って半逆光になるのが理想。なかなかそのような状況は得られない。今回も上方の木の葉越しの光がトップライト気味に射してきている。

 

佐倉市

140mm相当 F3.5 +0.3EV ISO200 三脚使用

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1-25

 さぎごけ

(むらさきさぎごけ) (紫鷺苔)

 

 やや湿ったところに普通にみられる。唇型の花で、以前はゴマノハグサ科に分類されていたが、DNAに基づく分類体系ではハエドクソウ科に移っている。根元にある葉から10cmほどの花茎を伸ばし、淡い紫色の花をいくつかつける。特徴は下くちびるに相当する花びらに黄褐色の隆起した模様があり、毛が生えていること。仲間のトキワハゼとは識別できる。花の色が白いものをサギゴケ、淡い紫色のものをムラサキサギゴケと区別することがある。

 2つの花の両方にピントの合う位置にカメラを置いた。下唇の模様がはっきり分かるようにマクロレンズで撮影した。

 

佐倉城址公園

90mmマクロレンズ  F3.2  0EV  IS200

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1-26

つぼすみれ

(坪菫

 にょいすみれ

 

  やや湿った場所にでよく見かける。小さい白い花をつける。よく見かけるタチツボスミレの半分くらいの大きさしかない。下唇には紫色の筋がめだつ。葉は丸いハート形。

 スミレの仲間には地上茎のないものとあるものがある。地上茎のないタイプの代表はスミレ(下の写真参照)で葉が地ぎわから生える。一方地上茎のあるタイプの代表はタチツボスミレ。ツボスミレは地上茎のあるタイプで地上茎の途中から花の茎を伸ばしている。タチツボスミレの葉柄の付け根にある小さな葉(托葉)は櫛の葉状に深く裂けた鋸歯があるが、ツボスミレは鋸歯のほぼない細長い托葉があり、違いがある。さらにスミレ類に特徴的な距(花の後ろに飛び出している部分)がツボスミレでは短く丸っこいのも識別点である。

 田の畔に複数の花が咲いていたので、1輪を大きく写すのではなくそのまま画面に取り入れた。カメラを花よりやや高い位置に置いて下唇の模様や葉の形が分かるようにと心がけた。

 

千葉市若葉区  4月下旬

24-105mm  F5.6  露出補正なし ISO400

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スミレ

泉自然公園


1-27

さわおぐるま(沢小車)

 

 川の近くの低地の放棄水田で見かけた。ヨシとともに生えていた。黄色い花の群落は結構目立つ。この場所も太陽光発電のパネルを設置するために埋め立てられて今はない。エネルギーのエコは大事なのは分かっているが、こうした花の生息地がなくなって希少種へと変わっていくのもやりきれない。

 ごく近くまで近づくことができないので全体を広く撮影したが、可能ならば花のごく近くまで寄って広角レンズで手前の花を大きくとらえ、さらに周りを広く写したいものだ。緑の茎の上に黄色い花が来るように斜め上から撮影した。

 

千葉市若葉区  4月下旬

40mm相当 F16 +0.5EV ISO800  

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1-28

そしんろうばい

 

  春の花に含めているが、早い場合は暮のうちから咲き始める。当地ではふつう正月まさに寒中に咲く花である。中国原産で庭や庭園に植えられている。蝋を塗った和紙のような質感の花弁が重なる。写真ではこの質感が表現できるようにしたいものだ。

 左斜め前からの光が花の一部を透過している。こうした光条件では花の色は淡く見える。花の大きさと画角を考慮してレンズの最短撮影距離で撮影。この場合被写界深度が浅くなる。つぼのようなふくらみのある花なのでピントは手前と中心部の両方に合わせたい。一番手前の花弁のピントがやや甘くなった。黄色い花はピント合わせが難しい。後ろの花は形のわからない程度にボケるように絞りは開放に設定。主役の花の周りに適度にちりばめられた。欲を言えば花の左右に伸びる枝の一部でも前ボケの花で遮りたいところだ。そうすれば視線はより主役の花に集中できるだろう。いずれにしてもロウバイ、ソシンロウバイともに短い枝が密生しているので、画面の中でその処理がきわめて重要になる。

 

千葉市 青葉の森公園

70-200mm(200mm) F2.8 +0.3EV ISO400

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1-29

ふくじゅそう

(福寿草)

 

      本州で見られるフクジュソウは、2種に分けられている。1つはフクジュソウ、もう一つはミニノクフクジュソウ。両者の外見の違いの1つは、萼と花弁の長さの比で、フクジュソウは萼が花弁と同じ長さか少し短いのに対し、ミチノクフクジュソウは萼は花弁の長さの半分以下だというが、あまりあてにならない。またフクジュソウの茎は中実なのにミチノクフクジュソウは中空だと。もっとも花の時期にはもったいなくて確かめられない。自生種はあまり見ることができず、公園などに植えられているものは栽培種で両者のどちらともつかない場合が少なくない。体細胞の染色体数がフクジュソウは2n=32、ミチノクフクジュソウは2n=16とはっきり違っているので、専門家が調べればはっきりする。本来の生育環境は北向きの落葉樹林。千葉県ではわずか2か所に自生しているだけという。冨里のフクジュソウは花茎がきゃしゃでかなり変わっているが、DNA解析ではミチノクフクジュソウであることが分かった。

 パラボラ型の黄色い花は気温が上がって日差しがあると咲く。咲いていても曇ってくるとじきに閉じてきてしまう。このパラボラで光を集めることで花の中央部の温度が上がり、アブの仲間の活動を活発にさせるといわれている。

 

 一株に複数の花をつけるが株と株の間は離れていることが多く、写真に撮るには一工夫が必要だ。一株だけでなく、前後や左右にほかの株を取り込めれば広がり感のある写真になるのだが。

 

 雑木林に植えられた株を撮影。絞りは開け気味にした。短めのマクロレンズを使って背後の木々をぼかしつつ見せている。露出を多めにかけて花の印象が暗くならないようにした。

 花の時期は比較的長い。咲き始めでは葉は短く花の直径より狭い範囲に収まっているが、しだいに長くのびて花の大きさより広くなる。

 

千葉市若葉区 2月末

60mmマクロレンズ  F4.5 +0.7EV ISO200

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1-30

いろはもみじ

 

桜が咲き、雑木林の木々がさまざまな緑色で芽吹くころ、イロハモミジの花が咲く。

赤いつぼみが開くと小さなおしべが顔を出す。小さな赤子の手のような葉も開きかかっている。見過ごしがちだが、生き物の息吹が感じられる美しいひと時。背景にももみじの淡い緑を配置し、露出をプラスしてふわっとした雰囲気をだそうとした。

 

千葉市都市緑化植物園

90mmマクロ。F5.6  +2補正 ISO800 

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1-31

くさのおう

 

ケシ科。日当たりのよい場所に生える。生薬に使われる。 

夕方の光の中で撮影することで淡い雰囲気を出すことができた。

 

 

 

佐倉市   4月

90mmマクロレンズ  F3.5  露出補正+1.3 ISO 800

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1-32

ぎんらん(銀蘭)

 

 雑木林に咲く小型の蘭。ゴールデンウィークの前後に咲くので、「春の花」と「初夏~夏の花」にしようか迷ってしまう。同じころ咲く黄色い花のキンランを「春の花」として紹介したので、ギンランも「春の花」とした。同じようにラン菌との共生が知られている。高さが20~30cm位までのものが多い。キンランと異なり花はほとんど開かない。花の根元近くに角のように「距」が飛び出している。次に紹介するササバギンランでは、この「距」は相対的に短めである。また高さも20cm以上のものが多い。これらに加えて多くの図鑑やサイトには2種の識別ポイントとして花穂を包む葉のような形の苞がギンランでは花穂の長さより短く、ササバギンランでは花穂より長いと記載されている。花穂が伸びて高くなるものもしばしばあり、そうなると苞の長さより花穂の方が長くなる個体もある。それでも花穂の途中からも細い葉状の苞が出ている点はササバギンランの特徴である。

 撮影は花の高さにカメラを置いて花の後ろが空くようにした。手前の草を前ボケになるように花に接近して撮影した。

 

皇居東御苑 5月初旬

APSミラーレスカメラ 18-55mm F5 ISO800 +0.3EV

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1-33

ささばぎんらん  (笹葉銀蘭)

 

    前の ぎんらん の項で両者の識別ポイントは紹介してある。この写真では葉状の苞が花穂より長い。また花穂の途中から短いが細い葉状の苞が出ている。さらに花穂に細かい毛がはえているのもササバギンランの特徴で、ギンランは無毛である。

 雑木林の急な斜面に生えていた。地面近くにカメラを置き、やや見上げるようにして木々の間の明るいところが背景になるようにした。すべって落ちそうになるのをこらえての撮影。

 

 

千葉市若葉区 

90mmマクロレンズ    しぼり3.5 露出補正 ±0    ISO400

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1-34

おだまき

 

 日本には山地に萼片が紫褐色のヤマオダマキとその品種のキバナノヤマオダマキ、高い山に萼片が青紫のミヤマオダマキがある。

 東北地方を旅したときに旧武家屋敷の庭などに今回の写真のような品種の花が咲いていることがあった。おそらくミヤマオダマキか、それをもとに園芸用に品種改良されたものではないだろうか。

 この作品の撮影は苦労した。ねらった花の隣に杭があり、しかも手前にロープがあって普通の姿勢で撮影しても画面に杭が入ってしまう。あきらめるにはあまりに形よく咲いていたので、重いレンズをつけたカメラを右手だけで支え、ロープに平行になるように突き出し、バリアングルのモニターを開いて、モニターを見ながら背景が明るくなるように構図を決めてオートフォーカスで何枚も撮影した。無理な姿勢での撮影は一度に数枚しかシャッターが切れないし、ぶれた写真が多くなった。なんとか写せた写真は背景が抜けてさっぱりした、ちょっと植物画風の作品になった。手ぶれ防止機能、バリアングルモニター、オートフォーカス性能やカメラとレンズの解像度の向上などがサポートしてくれる時代だからこそなんとか撮影できたのである。

 

佐倉市 川村美術館 4月下旬

160mm  F2.8  +0.7  ISO 400

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1-35

こせりばおうれん

 キンポウゲ科

 

 立春前からさいているので冬の花と言う方がふさわしいかもしれない。県内では房総半島の山岳部に分布しており、よく似たセリバオウレンが県内北部に分布しているという。

 

 どちらもオウレン(キクバオウレン)の変種で、花は互いによく似ているが葉の形態が異なっている。オウレンは3出複葉、セリバオウレンは2回3出複葉、コセリバオウレンは3回3出複葉である。つまり茎から出た葉柄が3つに分かれてその先に葉がつくのが3出複葉で、分かれた先でさらに3つに分かれるのが2回3出複葉、さらに先でもう一回3つに分かれるのが3回3出複葉。

 花は雌雄異株。雄花は白いおしべだけつけ、雌花は茶色いめしべが大半で周囲に少しのおしべをつける。写真は雄花。花びらのように見える大きな白い部分が がく でその間に小さな白い突起が花びら。

 葉は地面近くにあり、花茎は伸びてその先が3つに分かれて花をつけるので両方を写すのは難しい。もちろん上から絞りをしぼって写せば可能なのだが、それでは図鑑に載せる写真になってしまう。カメラを地面に置き、逆光条件で葉がなるべく見えるように写すよう試みた。この写真は栽培しているもの。鴨川市の自生地にも行ってみたが急な北斜面にへばりついており、なかなか撮影は難しかった。

 

房総の村 1月下旬

90mmマクロレンズ  F4  +1.3EV   ISO 400  

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1-36

はなねこのめ

(花猫の目)

ユキノシタ科

 

この仲間は分布地の限られた多くの種がある。実が裂けて種子が見えるようになったときの形が猫の目の瞳に似ていることから名づけられた。

 ハナネコノメはシロバナネコノメソウの変種とされ、福島~京都に分布する。山の沢筋に生育しており、高尾山の蛇滝周辺は有名。また裏高尾といわれる日影沢、木下沢もよく知られた分布地で愛好者が訪れる。しかし2019年の台風19号による被害で、日影沢の生育地に行く遊歩道が傷み立ち入り禁止になっているほか、木下沢も林道が崩落し生育地もえぐられた。その後の現地の状況は把握していないが、ネット上の情報では生育しているらしい。栃木県の県民の森には大きな群落があるという。

 写真は日影沢で撮影。花の大きさは4、5mm。白いのは萼で葯が赤いのが特徴。小さな花の群落をパンフォーカス的に撮影するには真上から撮影するしかない。小さな花をある程度大きく写すにはマクロレンズで接近するか、望遠レンズで引き寄せるかのどちらかしかない。そのいずれも被写界深度が浅くなるので斜め、あるいはサイドから撮影したのでは一部にしかピントが合わないからである。そういう状況下でもパンフォーカスできるのが「あおり機能」のついたレンズであるが、高価な上重いので持っていない。

 背景に沢や滝といった特徴的な環境を表現できる場所が入るようなところでは、あえて花の大きさを求めず、少し離れたところからやや広角気味でしぼりを絞って撮影するのもありだと思う。

 

裏高尾 日影沢  3月上旬

180mmマクロレンズ F6.3  +0.3EV  ISO400

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やまねこのめそう(山猫の目草)

 

この花は小さい。2,3mm。萼は緑色で株が淡い黄色。おしべの数は4(地域によっては8つのもある)。葯は黄色。茎は放射状に斜上し、先端に花を密集してつける。中心部から咲くので、左の写真では中央部がすでに実になりかけている。

佐倉城址公園 3月初旬

60mmマクロレンズ  F6.3  0EV  ISO1600

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1-37

おおみすみそう

(大三角草)

キンポウゲ科

 

 しばしば雪割草と呼ばれる。多くのキンポウゲ科の例にもれず花弁のように見えるのが萼。花の形も色も実にさまざま。

野生植物でここまで変異に富んでいるのは珍しい。それも地域変異ではなく、ひとつの個体群の中での話なのだから。スハマソウ、ミスミソウ、オオミスミソウは互いに変種の関係。この中でオオミスミソウは日本海側の落葉樹林の林床に分布している。

 何年か前、能登半島の猿山岬にグループで訪ねたことがある。雪割草で有名であったが、3月の中旬ではまだ寒く、残念ながら多くはつぼみであった。そこで翌年やはり有名な生息地の新潟県を訪ねた。3月末で雪の消えたばかりの国営越後丘陵公園、雪国植物園(長岡市)である。越後丘陵公園では館内で水盤に雪割草の色とりどりの花を浮かべて展示してあった。とてもきれいだった。

 この写真は北向き斜面に生えている花を撮影。斜め上からの光が花と葉を透過して明るい透明感が印象的だった。背後が小さな窪みでやや暗かったので花の色が一層引き立った。背後に合わせて若干マイナス露出。

 

国営越後丘陵公園 3月末

90mmマクロレンズ  F3.2  -0.3EV  ISO400

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1-38

ほとけのざ

(仏の座)シソ科

 

春の畑や土手・道端に生育。窒素分が多い畑では一面ピンクの花で覆われることもある。

 茎に段々に対生の葉をつける。

 

 写真としては一面のピンクの花のカーペットを写す方法もあるが、ほかの色の花が混じっていないと意外に面白くない。マクロレンズでアップで写す方が楽である。花の形がユニークで耳を立ててくちを伸ばした小さな生き物のようにも見えるのが魅力的。

 この写真は谷津田の小さな水路を見下ろす土手に咲く花を写した。太陽の高度の低い時刻に水面に反射した光が背景に入るように、太陽、水面の反射、花が一直線に並ぶようにカメラを設置する。少し面倒でも三脚を使ってきちんと位置決めしたほうがよい。水面の反射は玉ボケとして入る。この数が多いと逆にうるさくなるので、絞りを開けてボケの大きさを大きく、数を少なくする。逆光なので露出はプラス補正。

 

千葉市若葉区 3月末

90mmマクロレンズ  F3.5  +0.5EV  ISO200

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1-39

つくし

 

スギナの胞子体。胞子には弾糸といわれる糸がある。湿った状態では胞子に巻き付いており、乾いた状態では糸が伸びてその反動で胞子が飛び出す。

 

 

 写真に撮るときは、胞子を散布した個体が向いている。逆光で見ると光が透過してきれいだから。雨の後の早朝、スギナの表面から水滴が出てくる。これはワレモコウなどほかの植物でも見られる現象で吸いすぎた水分を出す働き。これが逆光できらきら光ってきれい。カメラを地面に置き、マクロレンズで絞りは開放にする。

 

佐倉城址公園  3月中旬

90mmマクロレンズ F2.8  +0.5EV  ISO400

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1-40

あまな(甘菜)

 

 春咲く花の中では早く登場する。よく刈り取りの行われている草地や土手、隙間の多い落葉樹林の林床などに見られる。

 場所によっては足の踏み場がないほどに生えているが、花が咲く株は多くない。よく観察すると葉が1枚のものと2枚のものがある。花がついているのは2枚の株からに限られていた。ふつう1輪、まれに2輪出る。赤紫色の花茎の先に6枚の花被を持つ白い花がつく。6枚のうち3枚が外側に位置し、外面に赤茶色の筋が何本か走る。内側に位置する3枚も外面に赤茶色の筋が入るが筋は細い。おしべは6本。うち3本はやや短い。花には小さなハチの仲間が来ているのを見たことがある。花茎にはふつう2枚、まれに3枚の細い葉(苞)がつく。

 地下に球根があり、そこから茎も伸びるので地上部分に出た葉は根生葉のように見える。それにしても花が咲く株が少ないのにあたり一面1枚葉の株が広がっているのは不思議な光景だ。とても種子繁殖によって広がったとは思えない。ネット上を検索してみたら、匍匐茎で増えると書いてあるものがあった。可能性が高い。そうとしても地下を走るのだろう。確かめてみたい。葉が2枚の株にしか花がつかないというのはカタクリに似ている。このことは手元の図鑑やネット上のサイトには記載がみつからなかった。県によっては絶滅危惧種になっていることもある。

 

 花の咲く条件について。

手元の図鑑やネット上のサイトの多くは晴れると咲き、曇ると閉じると書いてある。しかし日が花に差していても昼前には咲いていなかったのに、1時間半くらい経った昼過ぎになると咲き出したことがあった。さらに別の日には花に日が差しても気温12℃で咲いておらず、花曇りで気温19℃では咲いているのを観察している。つまりフデリンドウのように日差しにのみ反応して開閉するのではなく、カタクリやフクジュソウのように気温も関係するようである。自分で観察する楽しみを知った。

 

 写真は珍しく3つの花がごく近くにあったのですべてにピントが合うように真上から撮影した。花が密度高く咲くような場所ではほかの花同様横から背景が入るように撮りたいものだ。

 

 佐倉市 3月中旬

90mmマクロレンズ F2.8  +0.3EV  ISO400 

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1-41

きじむしろ

(雉蓆)バラ科

 

 桜が咲くころに農道の脇や日当たりの良い空き地や草原などに咲く。黄色い花は小ぶりでも目立つ。

 葉の形に特徴がある。奇数小葉からなる複葉で、この株では7枚あった。似た花にミツバツチグリがあるが、葉が文字通り3枚の小葉であるから区別は容易。キジムシロは放射状に葉を広げ、上から見るとキジが座るむしろのような形になっている。朝は花が閉じている。

 この写真は広角レンズを使って撮影。手前に花が多く見えるようになる位置で斜め上から写している。同時に背後の木々も映り込むように画角を調整した。春の野の雰囲気が出ればと思った。

 アップ系の写真はマクロレンズを使う場合が多いが、背景まで写し込みたいとき、広角レンズは標準レンズより最短撮影距離が短く、接近した場合花をより大きく写せるので便利。一般に広角レンズは被写界深度が深く手前から奥までピントを合わせられる印象があるかもしれないが、被写体まで最接近すると少し絞ってもやはり被写体深度は浅くなる。しかも背景が小さく遠くにあるように写るので、背景をシンプルにできる。

 

千葉市若葉区  4月初旬

16-35mmレンズ   F8  0EV  ISO400

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1-42

のげし

 

 空き地や道端にふつうに見られる。茎はパイプ状で外側には稜がいくつもある。

 葉の基部は左右にふくらみ、茎を抱く。鋸歯は触っても痛くない。似た環境に生育するオニノゲシは鋸歯が鋭く触ると痛い、葉の基部は茎を抱かないという特徴があるので容易に区別できる。 黄色い花は目立つが、それほど美しいというわけではない。 

 田んぼの周辺に流れる水路に太陽の光が反射してキラキラしていた。土手に咲く個体を斜め上から絞りを開けて撮影することで画面上部に玉ボケが得られた。

 

千葉市若葉区 4月中旬

24-105mmレンズ  絞り4.5  0EV  ISO200 

PLフィルター使用

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1-43

ケキツネノボタン

(毛狐の牡丹)

キンポウゲ科

 

 田の畔など湿った環境に生育する。葉が3出複葉で牡丹に似ていることから名づけられたようである。

 茎に毛が多い。毛のないタイプは、キツネノボタンという。

 広角レンズを使うことで、あたり一面に広がっている様子を表現した。同時に画面上部に周囲を囲む植生が入るような画角をとった。周囲の植生を入れずに撮影すると奥行き感がなく広がり感も今一つ足りなく感じた。

 

千葉市若葉区 4月中旬

16-35mmレンズ  絞りF16  露出若干のマイナス補正 ISO400

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1-44

あけび

 

 秋になると実が割れて中にある白いゼリー状の甘い果肉が見えるようになる。これが名前の由来とか。中に黒い種が含まれている。田舎の子どもにとってはおいしいおやつだったとか。

 このように実がよく知られたアケビだが、春に咲く花のほうはそれほど注目されていない。けれどもよく見るとおしゃれな形をしている。1本の木に雄花と雌花がつく。いずれも花びら状のものは蕚である。雄花は小さいが数が多い。雌花は大きく数が少ない。雌花の蕚は薄紫色から白っぽいものまである。雄花の方が多少先に成熟するように思える。雌花は雄花より下(先)の方にある。

 

下から見上げることで、背後の特徴のある葉も含めて透過光で明るく爽やかに見える。

 

 千葉市都市緑化植物園 4月中旬

24-105mmレンズ  しぼりF5.6 露出補正+1.3 ISO800

 

 一方、ミツバアケビは3枚の小葉からなる複葉。小葉には縁に波状の鋸歯がある。雌花はアケビより小さく、蕚の色は濃い赤紫色。雄花は穂状に垂れ下がり、そこから枝分かれする。雄花の方が、雌花より下(先)の方にあって、アケビと逆。

 

 花の基本のつくりは両者共通。雌花のめしべは棒状で先端から粘液が出て花粉をくっつける。めしべのもとに退化したおしべの跡がある。アケビもミツバアケビもつる性植物。木がまばらになった林床にときにびっしりと平面上に広がっている。その中のわずかが近くの木に絡みつき立ち上がって梢にまで達する。 

  みつばあけび

 

 アケビもミツバアケビも写真に撮るときは、新緑の葉と雄花、雌花が一つの画面に収まるようなモデルを探す。光が葉や花に透過するような光条件で撮ると、新緑のみずみずしさと雌花の萼の赤紫の色の対照が目立って一層きれいに見える。つるが長く垂れさがる場合は、つるの曲線を生かした縦構図で表現したい。

 

 千葉市若葉区野呂町  4月中旬

90ミリマクロレンズ  しぼりF3.2  露出補正+0.3 ISO400  

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1-45

みつばつちぐり

(三葉土栗)

バラ科

 

  葉は3小葉。日当たりのよいところに生える。

 花弁の間は詰まっており、ヤブヘビイチゴとは異なる。花密度がめずらしく多かった。花を結ぶ線が右下がりの斜め線になるような位置を見つけて撮影した。

 

房総の村 風土記の丘 4月下旬

90mmマクロレンズ しぼりF3.2 露出補正0   ISO800

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1-46

まるばすみれ

(丸葉菫)

 

 平地で白くて大きめのスミレ類を見かけたら多くはこのマルバスミレ。名前の通り葉が丸い。

 スミレの仲間の観察ポイントの1つが茎が立ち上がって、そこから葉が出ているタイプか根元から葉が出てくるタイプかである。千葉県でふつうに見られるスミレの仲間では前者の有茎タイプはタチツボスミレ、ニオイタチツボスミレ、ニョイスミレなど、後者の無茎タイプはスミレ、マルバスミレ、アカネスミレなど。スミレの仲間はしばしば花の色に変化が多く、花の色だけで種名を特定するのは難しい。その中ではこのマルバスミレはほかに似ている種がないのですぐわかる。

 

 この写真の撮影場所は明るい雑木林の中を通る小道で、ここ1.2年で広がっている。スミレの仲間は花が咲いた後で種子ができることはもちろん、閉鎖花という開かない花の中で自家受精して種子をつける。そしてこの方式の方が生産数が多いので、生息環境がよければ結構ふえる植物である。人のかかわりが何らかの形で生息環境に変化を加えているのだろう。スミレ類では花の後に膨らんだ子房は下の方を向いているが、中で種子が成熟するにつれ横を向くようになり、散布する前には上を向く。

 

 撮影では複数の花が咲きそろっている株を選んだ。ちょっとした傾斜面に咲いている。なるべく多くの花にピントが合うような位置を見つけ、地面にカメラを置き、わずかに見上げる角度をとる。主役の花の後方にほかの花のボケが入るように絞りを開放に設定。

 

千葉市若葉区 4月初旬

90mmマクロレンズ しぼり2.8 露出補正+0.7  ISO200

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1-47

あかねすみれ

(茜菫)

 

 名前は花の色から。

雑木林の一角を切り払い広場のようにしたらたくさん出現した。周りにはジュウニヒトエ、キジムシロ、ミツバツチグリ、ニオイタチツボスミレなど日当たりを好む背丈の低い植物が生えてきた。

 アカネスミレの特徴は葉や花柄、萼などに毛が生えていること。スミレの仲間の分類にはめしべの先(柱頭)の形や横に張り出す2枚の花弁(側弁)の付け根に毛があるかないかも注目する。アカネスミレの柱頭は奥まって見えにくいが三角形(カマキリの頭状)、側弁の毛ははっきりわかる。

 集団になっている様子を表現するためにやや斜め上方から撮影したが、すべての花にピントを合わせると奥の地面まではっきりと写ってしまうので、しぼりを開けて手前の花にだけピントを合わせた。やわらかな順光気味の光であったので色の再現性は高いが、背後で光が躍るような表現はできなかった。

 ふしぎなことに翌年はすっかり数が減り、翌々年にはほとんど見かけなくなった。あたかもひと春の夢のようなにぎわいであった。

 

千葉市若葉区 4月初旬

90mmマクロレンズ しぼり2.8 露出補正+0.3  ISO400

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1-48

あおいすみれ

(葵菫)

 

 青いスミレ‼ ではなく、葉の形が徳川家の家紋の葵に似ている。

(徳川の紋自体がフタバオイの葉をデフォルメしたものではある。

特に花が終わったあとに出現する大きな丸い葉はまさに葵の紋‼ 納得。

 雑木林の縁や樹冠が空いたような明るいところで見られる。スミレの仲間では早春真っ先に咲く。めしべの先端(柱頭)が細い棒状で先が鉤形に曲がっている。種子はスミレの仲間にしては大きい球形。多くのスミレの種子は弾けて飛び散るが、この場合は弾けない。

アオイスミレは多くの場合花があまり立ち上がない。このため写真に撮るのは難しい。シャッターチャンスは都合の良い被写体とのめぐり合い次第だ。ここでは斜め後ろにも花があったのでいくらか画面の広がりが得られた。

 

千葉市 緑化植物園 3月初旬

90mmマクロレンズ しぼり3.2  露出補正+0.7  ISO400

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1-49

においたちつぼすみれ

(匂立坪菫)

 

 スミレにしては珍しく香りがある。花びらは濃赤紫色だが基部3分の1は白地に紫色の筋が目立つ。花が丸っこいことが特徴。柱頭は細い棒状。草原状の明るい場所に生育する。

 撮影では地面近くにカメラを置けば背後が離れて花がすっきり目立つ。キジムシロやミツバツチグリなど黄色い花があれば前ボケに使うと一層花が引き立つ。

 

千葉市若葉区  3月下旬

90mmマクロレンズ  しぼり4.5  露出補正+1  ISO400

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1-50

ふき(蕗)

      キク科

 

 春の野草として食されるフキの薹(とう)とは若い花茎。地面から出たばかりで苞に包まれている状態を食べる。この状態で写真に撮ろうとすると周りが地面ばかりで美しくない。雪降った後に顔を出している状態なら絵になるが。残念ながら千葉県では「雪に蕗の薹」という状態はなかなか見られない。花茎が伸びて花が咲き始めたころの方が撮りやすい。今回は水田の脇の土手に咲いているものを被写体に選んだ。田の脇には小さな水たまりがあったので太陽の光が水たまりに反射する時刻を選んだ。水面の反射がつくるきらめく玉ボケが春の雰囲気を醸し出した。

 

千葉市若葉区 3月上旬

200mm  しぼり4.0  露出補正+0.5  ISO200

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1-51

かんとうたんぽぽ

 

 街中でふつうに見られるタンポポは外来種のセイヨウタンポポ(西洋タンポポ)かアカミタンポポ(赤実タンポポ)で、在来種のタンポポは農村部でしか見られないとしばしばいわれている。在来種のタンポポは、帰化種のタンポポとの競争に負けたともいわれることが多い。これは半分正しく、半分間違いだ。皇居東御苑など都心にあっても在来種が見られるところがある。確かに繁殖力は帰化種のタンポポの方が旺盛である。受粉せずに種子を形成し、種子は休眠せずすぐに発芽する。冬でも陽だまりでは花を咲かせて種子を生産するなどなど。一方在来種のタンポポは自家受精しないので、集団を形成しないと種子ができない。種子は夏の間は休眠し、秋に芽生え花が咲くのは春だけだ。

 しかし、タンポポは宿根草(多年草)であるから、かく乱されなければ定着した場所で生き続けることができる。したがって皇居のように土壌がかく乱されないところでみられるのは当然で、競争して排除されるわけではない。そもそも種子で分布を広げる一年生植物が定着するのに適した環境とは土壌がかく乱されて多年生植物が排除される裸地である。だから街中や河川敷には一年生植物が多い。そうした環境でも土壌が安定していれば時間の経過とともに多年生植物がその高さと長い寿命を生かして優占してくる。

 さて帰化種のタンポポである。多年生植物であるが、種子の生産力では優れている。そこで裸地が出現すれば・・・。ではやがて丈の高い多年生植物にとって代わるのか? 否である。そもそもタンポポが優勢な場所は、踏みつけ圧が高いところ。丈の高い植物が進出できないのだ。ではなぜ踏みつけに強いのか? キャベツの断面を見たことがあるだろう。固い芯がある。芯から葉が出ている。つまり芯とはキャベツの茎なのだ。芯の先端が生長点で、細胞分裂して伸びていく。タンポポの芯(茎)と生長点は地面の下にあり、踏みつけられてもダメージを受けにくい。高く茎をのばさないので光をめぐる競争に不利であるけれど、踏みつけには強い。そうした特性にふさわしい生活資源が提供される環境(生態的地位(ニッチ))で生き延びている。だから都会であっても農村であっても帰化種が進出してくる以前から土壌のかく乱がなく、かつ踏みつけ圧が高いところには在来種のタンポポが見られるのだ。

 今回の写真の場所は北総台地に典型的な谷地形(谷津)である。周囲の台地に降った雨が湧き水となって谷津を潤す。水田として使われてきた土地である。その土手に在来種のタンポポが咲いている。そうした生態学的な背景をこの写真で表現しようと広角レンズで主役に接近して撮影した。

 

千葉市若葉区 4月上旬

16-35mmレンズ(18mm) しぼり10  ISO400

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1-52

ゲンゲ

(レンゲソウ)

 

 マメ科植物の根には根粒細菌が共生し、空気中の窒素を植物の使える窒素化合物に合成する。化学肥料が普及する以前、これを利用し、秋に種子を播き、春花が終わったころ土にすきこんで肥料とする(緑肥)ことがしばしば行われていた。現代農業ではほとんど行われないが、撮影地ではNPOが無農薬農業を実践しており、レンゲソウも栽培している。

 ミツバチなどが舟形の花弁に止まると、花弁が下がりそれまで隠れていたおしべとめしべがむき出しになり受粉する。花弁は元には戻らない。こうなるとアップで見たときは終わった感がしてしまうので、そうなる前に撮影しなければならない。

 田んぼ一枚分ほどの広さで、背後に絵になるような山があるわけでもないので、望遠レンズを使って一部にピントを合わせ背後はぼかしてみた。午後になって陽の当っているところと陰になっているところが混在し日陰の花は青く写った。そうした色の違いを面白く感じた。レンゲの種子は値が張るらしく毎年種子をまくわけでもないので、こぼれ種だけで年々花の量が減ってきている。

 

千葉市若葉区  4月下旬

70-200mmレンズに1.4倍のテレコンバーター装着(280mm)

 絞り4 露出補正なし ISO800

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1-53

いちりんそう

キンポウゲ科

 

 雑木林の林縁部に見られる。大きな白い花は目立つ。花弁に見えるものは萼。

 ニリンソウともども上の落葉樹の葉が茂るころ姿を消す。

 白い花に薄黄色の葯はピントが合わせにくい。オートフォーカスが正しく働いているか画像を拡大表示して確認することが帰宅後に残念な思いをしないコツ。ニリンソウにも言えるがカメラの露出表示で±0で撮影すると、少し露出オーバー気味に写る傾向がある。ちょっとマイナスで撮影するか、RAWで撮影後パソコンで明るさを若干マイナスにした方がよい。佐倉市の畔田谷津でも見られる。

 この年の秋、猛烈な台風が襲来し斜面下部にあった撮影場所の大部分が土砂崩れしてしまった。土砂ごと流されたのであろう、翌年の春には流された土砂の堆積物の上で花をつけた。その後、堆積土砂を片付けたためそこにはもう見られなくなった。

 

千葉市若葉区 泉自然公園 4月初旬

70-200mm(200mm) しぼり2.8 露出補正ー0.5 ISO400

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1-54

にりんそう

(二輪草)

キンポウゲ科

 

 白い花が一株から1~3輪咲くことから。もっとも写真のように同時に2輪開くことはほとんどない。イチリンソウともども落葉樹林下でやや湿った環境が好まれる。

 しばしば大きな群落を形成するが、どの株にも花がついて花密度が高いということはあまりない。多くの在来種の植物に言えることだが、どうやら植物体が充実していないと花をつけないように思える。そこで撮影に関しては花密度の高い群落を見つけたら近づいて広角気味でしぼりを絞って群落全体を撮影したい。それほど花密度が高くないとか、群落が小さい場合はアップ気味の写真を撮る。一輪を大きく撮ることはせず、できれば複数の花が画面には入りかつ両者にピントが来る位置を探す。光が当たっている方が生き生き見える。露出補正は若干マイナス気味がふさわしいことが多い。

 

佐倉市  4月初旬

70-200mm(200mm) しぼり2.8  露出補正ー0.7 ISO400

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1-55

セツブンソウ

(節分草)
キンポウゲ科

 

 節分の頃に咲くからというが、この撮影地の秩父地方ではふつう2月下旬から3月初旬に見られる。石灰岩質土壌を好むので分布は限られている。関東地方では秩父から栃木県の県境あたりの雑木林にいくつかの分布地が知られている。サンゴ礁をもった海山が太平洋プレートに乗って運ばれ、日本列島に衝突してくっついた上で何らかの地殻変動で地上に顔を出したのが石灰岩の山。近くの武甲山は東京のビルの建設に欠かせないセメントづくりの材料として山ごと削られている。

 立春まもなく咲くので春の花一番乗りということと、小さいが造形がきれいなので人気のある花。白い部分が萼、その内側に黄色い部分が花弁で先端が蜜腺に変わっている。さらに内側におしべがあり、葯は青色をしている。

 おしべの葯が開いて花粉を出す前に撮影したい。青い色が白い花粉で隠れてしまうから。光条件は逆光がお勧め。朝の斜光線が萼片を透過すると一層美しく、生き生き見える。撮影地はゆるい北向き斜面で背後の山にちょっと距離があるので撮りやすい。一面に白い雪が積もったような光景を撮影するもよし、数輪が並んでいるのを撮影するのもよい。あちこち向いて咲いているので同じ方向を向いているものを選ぶ。背後にたくさんの花が入るようにした。

 

埼玉県 小鹿野町 節分草園 2月下旬

70-200mmレンズ(192mm) しぼり5.6 露出補正+0.5 

ISO400

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1-56

ふでりんどう

(筆竜胆)

リンドウ科

 

 春、落葉樹林の周辺部や草はらで空色の2~2.5cmの花をつける。高さは数センチから9cmほどになる。小さい個体では一株に花を1つしかつけないことが多い。一方でたくさん花をつける個体もある。2年草なので年々株を大きくしてたくさんの花をつけるようになるというわけではないようだ。花は晴れていると開くが、曇ってくると閉じてくる。見ていてわかるのだから敏感である。おしべが先に熟し、おしべが花粉を出し終わる雌性期にはめしべの先、板状の柱頭が開いてくる。写真は雄性期。

 写真に撮るならいくつもの花をつけている個体をモデルにしたい。そしてリンドウ類に共通するのだが斜め上から花の筒の内側の模様が見えるように撮るのが基本。もちろん真横から、あるいは土手に咲く個体を斜め下から撮影するのもアリ。ここでは背後にも写り込むように個体数の多い場所で標準的な撮り方をした。

 

千葉県 房総の村風土記の丘 4月中下旬

90mmマクロレンズ しぼり3.2 露出補正+0.3 ISO400

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1-57

はまだいこん

アブラナ科

 

 ふつう海岸の砂地に見られる。ときに内陸でも見かけることがある。

花の色は淡い紅紫色。群生することが多く見ごたえがある。

 群生するハマダイコンを海と青空を背景にして、斜め下から広角気味の画角でとらえてみた。先の方に咲く花をシンプルな背景に置けば目立つだろうと考えたから。空の青さはC-PLフィルターを使うことで思い通りの色になった。風が強かったのでISOを上げて撮影。

 

千葉県南房総市 南無谷海水浴場 4月初旬

24-105mm  しぼり16  ISO800

潮の香受けて咲く

 

 小さな岬のそばの浜辺に一群のハマダイコンが潮風に少し揺れていた。

 広角レンズで被写体に斜め上から接近しつつ背後の岬や海を画面に取り入れた。夕方の日の光が海面をわずかに黄色みを帯びさせていた。一日の終わりかけを静かに告げていた。

 

富津市 4月中旬

16mm F16 ISO800

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1-58

みつまた

ジンチョウゲ科

 

 樹皮が和紙の原料として使われる。名前は枝先が三つに分かれていることから。春、葉に先立って小さな花の集まりを枝先につける。花弁に見えるのは萼が筒状に伸びたもの。先端が4つにさけて反り返る。はじめ白っぽい色だが次第に色が濃くなり、花の集まりも反りかえるように半球状に大きくなる。

 ここでは地元のボランティア団体が主に杉林の下などに植栽している。2019年の台風で大きな木が倒れるなど被害が出た。いくつかの品種があるのか花の色の濃さや花の集まりの大きさの違いでいくつかのタイプが見られた。このモデルは花の集まりは小ぶりだが色は濃い。花の集まりに密集感がなく枝ぶりがよく見えるので画面は花の数がなるべく多く入るように気を遣った。斜め上からの光がやや逆光気味に降り注いでいる。背後は木漏れ日がつくる玉ボケで彩られた。露出を多めにすることで春の光踊る雰囲気が表現できた。

 

千葉県君津市 鹿野山神野寺(かのうさんじんやじ) 3月中旬

70-200mm  しぼり2.8  露出補正+1EV    ISO400

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1-59

うわみずざくら

(上溝桜)

 バラ科

 

 桜という名前がついているが小さな白い花が房になって咲くさまは遠目にはアイスキャンディのように見える。樹皮は黒っぽく、葉柄が赤い。

ふつうの桜と同じように樹皮に横長の皮目が入る。似た花をつけるイヌザクラは花序に葉がつくことと樹皮が灰白色であることで区別つく。

 写真に撮るときは斜め下に流れる枝とそこにつく花をモデルにすることが多い。背景を単調にするとすっきりする。ここでは谷津田に面して枝を伸ばす樹を横からとらえ、たくさんの花が写るようにした。夕方近くの斜めの光が花序を斜め横から照らし、草はらを輝かせていた。

 

佐倉市 畔田谷津  4月上旬

24-105mm  しぼり13  ISO800

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1-60

はまえんどう

 マメ科

 

 ハマエンドウは文字通り砂丘に生育する植物。茎は地を這って広がり、花はあまり立ち上がらない上、しばしば他の植物に囲まれているので写真は撮りにくい。

 旗弁ははじめ赤紫色だが、青紫色に変わる。砂丘に生えていたので、背後が海になるようにした。背景に海といっても九十九里浜は平らなので、波が寄せて返す渚が入るだけで起伏がない。内房の浜だと岬に挟まれているので、背後に岬を入れて変化をつけることができる。

 九十九里浜の脇を通る有料道路から海の方を見ても、海浜植物が砂丘を広く覆っている光景はほとんど見られない。砂丘は様々な要因からずいぶんと荒れている印象がある。

 風が強く砂が舞い上がっていることもあり、現場でレンズ交換は控えるべきだ。必要になったら、車に戻って車内で行うようにしたい。

 

千葉県九十九里浜 4月下旬

90mmマクロレンズ しぼり14 露出補正0.7  ISO800

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1-61

あかやしお

ツツジ科

 

 ピンク色の大きな美しい花。葉に先立って咲く。西日本に咲くアケボノツツジの変種で、東北南部から紀伊半島までの太平洋側に分布するという。この写真は日光中禅寺湖スカイラインから撮影。五月の連休の初めだった。ゴールデンウィークはどこも混雑するので出かけることはほとんどないが、この花を見たい一心で出かけた。いろは坂を上り明智平から少し歩いたところに咲いている花を撮影するのに時間がかかり、ここへたどり着いたときは昼近くになってしまった。先客の話では、朝は中禅寺湖に向かいの白根山が映り込んでいたそうだ。残念。でも刷毛ではいたような雲の下、残雪の残る白根山、深い青の湖、十分絶景だと思った。花のボリュームが感じられるようにカメラ位置を決めた。

 この花の便りを聞くたびに出かけようと思っていながら、なかなかタイミングが合わずに実現していない。

 

日光 中禅寺湖スカイライン 5月初め

24-105mm  しぼり16 露出補正ー0.5 ISO400

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1-62

クリスマスローズ

キンポウゲ科

 

ヨーロッパ・西アジア原産の植物だそう。現在は園芸種としてさまざまなタイプが見られる。株分けで増やせず種子で増やすため、品種が固定しないようだ。 

 さて撮影の仕方。春の初めは花が地面近くに咲くので写すのは難しい。4月頃になると花の位置が少し上がってくるので、色の濃い花を斜め下から仰ぐように写すのが面白い。広角気味で写し、背後にまだ葉をつけていない樹々を取り込むと季節感が表現できる。

 

昭和記念公園 4月初旬

APSカメラ18-55mm しぼり5.6 露出補正1+2/3 ISO800

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1-63

しょうじょうばかま

(猩猩袴)

シュロソウ科

 

 以前はユリ科に入れられていた。湿ったところに生える。春早く花茎をのばし数個の花を房状につける。色は淡紅色から濃紅色、まれに白い。花が咲き進むと赤みを増すことから猩猩の赤い顔に見立てたという説を聞いたことがある。

 雪国では花茎が短いうちに花をつけるが、暖かい地方では花茎が伸びた状態で花をつける傾向があるように思える。写真写りがよいのは花茎が短い方。根元の葉と一緒に撮影できるから。しばしば葉の先に小さな苗がついて無性生殖する。

 おしべが突き出している状態がよく見えるように逆光気味の透過光で撮影した。背後にもぼけた形で花が入り、木漏れ日が明るいスポットで入ったので背景に変化がついた。

 撮影地の雪国植物園は地元のボランティアで運営されている。自然の状態を生かしたつくりになっており、さまざまな野生植物がみられる魅力的なところ。高速道路のインターから近いので車で行くには便利だが、駅からは不便。

 

新潟県長岡市 雪国植物園 3月末

90mmマクロレンズ しぼり3.5  ISO800

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1-64

ふたりしずか

(二人静)

センリョウ科

 

 ヒトリシズカに対比されての名。花穂が2,3本のことが多いから。落葉樹林下にあって、林内の緑が濃くなったころ咲くので目立たない。花は白いが比較的早く落ちて緑色の果実になるのでいっそう目立たない。

 できるだけ複数の花穂にピントが合うようにカメラ位置を調整している。樹々の葉を透過した緑色の光が優勢になる林内にあっては、白い花も緑色に色被りして見える。個人的には色調節せずそのままにしておく方が自然だと感じている。せめて背後の緑色に明るさの変化があるように木漏れ日を生かして撮影したい。

 

房総の村 4月末

APSミラーレスカメラ 55-200mm  しぼり4.2 露出補正+0.3

ISO400

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1-65

くさぼけ

 バラ科

 

 日当たりの良い草はらに咲いていた。もともと草丈が30-100cmと低いが、草原を維持するための草刈りが毎年行われているので地面に這うように生育。低い位置に花がついていた。枯れ草が目立つ季節に朱色の花は目立つ。

 花のついている枝が斜め右上に伸びているので画面に多少とも奥行き感が出た。カメラを低い位置に構えできるだけ背景がすっきりするようにした。

 

千葉市若葉区 4月上旬

90mmマクロレンズ  しぼりF8  ISO400

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1-66

からすのえんどう

(烏野豌豆)

  マメ科

 

 道端、畑、花壇、草むらなどどこでも見られる。春にピンク色の花をつける。名前は黒い実(さや)をつけることから。

花の付け根に赤い小さな窪みがあり、蜜を出す。花外蜜腺という。アリがしきりに訪れている。アリの助けで食害昆虫から身を守っているといわれる。

 撮影は花を大きく写してもよいが、花が近接して密集することがほとんどないので、なんとも絵にしにくい。そこで水田の脇の土手に柵のように立ち上がっており、比較的花の数が多いひと群れを見つけたので、夕方の斜光線が差す条件で撮影した。斜めの光は被写体を立体的に浮かび上がらせる。背景が田植え前の水を張った田になったのですっきりした。

 

千葉市若葉区 4月下旬

90mmマクロレンズ   しぼりF5.6  露出補正+0.3  ISO800

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1-67

はるじおん

(春紫苑)

 キク科

 

 北アメリカ原産。道端でも空き地でもどこにでも見られる。しばしば同属のヒメジョオンとの識別が話題になる。葉が茎を抱く、茎が中空、花の時期が春から初夏でヒメジョオンより早いことなどが特徴。

 集団をつくって咲くとそれなりに美しく感じることもあるが強い日差しの下での撮影ではあまり色が美しく見えないようだ。樹木によりちょっと陰があるような場所の方がきれいに見える。今回は休耕田の脇に生えている集団を、日陰の下で撮影した。全体が日陰状態だとコントラストのないのっぺりした印象になるが、背後の草むらに日が当たって明るいので少し救われた。日陰に合わせてホワイトバランス5500°Kと少し高くした。

 

千葉市若葉区 5月初旬

90mmマクロレンズ    しぼりF13  露出補正+0.5  ISO800

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1-68

ジャーマン

  カモミール

 キク科

 

 ハーブティーによく用いられる一年草。和名はカミツレ。花が成熟すると中央部が盛り上がるのが特徴。

 こぼれた種子から発芽し、しばしば群がって咲く。

 手前の花越しに少し奥の花にピントを合わせた。手前の花が前ボケになり全体にふわっとした雰囲気になることを狙った。光は斜め前方から当たっている。花に立体感が得られた。小さな斜面に咲いていたので花の列が右下がりになっている。水平になっているより画面に動きが感じられる。

 

千葉市緑化植物園 5月初旬

100-400mm(350mm) しぼりF5.6 露出補正+0.7 

ISO800 

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1-69

はなもも

 

 栽培種である桃には花をめでるものと実を収穫するための品種がある。花をめでるものをハナモモという。

 この写真の被写体は枝垂れ咲で、一本の木に八重咲の白い花と赤い花がついていた。いわゆる源平咲というのだろう。花の色素をつくる遺伝子にたまたま変化が生じ、それより先の枝につく花に色素ができなくなれば白い花に、色素をつくる遺伝子がじゃまされていたものが取り除かれれば赤い花になるようだ。1つの花に赤い部分と白い部分が混じっている花もあり、仕組みは複雑なのだろう。

 枝垂れていて花がびっしりついていたので、下の方から仰ぐように見たところとても華やかに見えた。ちょうど青空に白い雲が浮かんでいたので、右上の花のない部分にも雲が来るのを待って撮影した。逆光気味になるので花が暗くならないようにプラス補正した。

 

 千葉市中央区 4月上旬

24-105mm  しぼりF11  露出補正+0.7  ISO200 

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1-70

みやまきけまん

 ケシ科

 

 ふつうに見られるムラサキケマンと似た形の黄色い花。山桜の美しい高峰山の舗装された林道の脇、日当たりの良いところに見られた。海岸で見たキケマンとよく似ているのに山道でどうしてと思ったが、ミヤマキケマンという別種であった。果実はインゲンをごく細長くしたような形で種子ごとにくびれが入っているのが特徴。

 集団で群生することもあるが、ここでは1株。斜上する花茎をいくつか持っていた。葉も特徴的な羽状複葉で、花とともに写しておきたかったから標準ズームレンズで撮影。ちょうど花に日が当たり、暗い背景から浮かび上がった。

 

茨城県桜川市高峰山  4月中旬

24-105㎜  しぼり F4  -0.3EV  ISO200

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1-71

きぶし

キブシ科

 

 高さ7mくらいにまでなる落葉樹で葉が出る前の早春に淡い黄色の釣り鐘型の花を房状につける。北総では見かけることがあまり多くはないが、君津市の山ではごく普通に見かける。明るいところを好むようで道の脇によく見かける。

 桜で有名な三船山からの帰り道、車窓からふと見えた。あわてて路肩に車を止めて近づいてみたら、花が重なりすぎずにそれぞれが光の中によく浮かび上がっていた。木の花はきれいな樹形のものを選ぶのが肝要。この花の特徴である房状にぶら下がっている様子を写真で表現するには、サイド光がふさわしい。しかも淡い色の花なので目立たせるには背後が暗めの方がよい。よい条件が重なっていた。

 

君津市  3月下旬

24-105mm  しぼりF8  露出補正なし ISO800

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1-72

あせび

(馬酔木)

 ツツジ科

 

 3月の声を聞くと咲きだす。地味な花ではあるが、それゆえ春の訪れを知らせる花といえよう。ツツジ科の花の多くは有毒。この花も例外ではなく、漢字の名前もそのことを表している。

 写真にするのにふさわしい株がなかなか見つからない。花の密度があまりない株が少なくない。ここでは2本の木が並んでしっかり花をつけていた。手前の花にピントを合わせ、奥の花はやらかくぼかした。葉がまだ浅い春の日差しを照り返して暖かな気分にさせてくれていた。背景にも葉の照り返しによる玉ぼけが柔らかく入った。

 

千葉市若葉区 平和公園 3月初旬

APS-C 18-55mm  F4.3  +1.3EV   ISO400

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1-73

 こぶし

モクレン科

 

 千昌夫の「北国の春」に「コブシ咲くあの丘ふるさとの」の一節がある。春を待ちわびる人びとの心情にふさわしい樹の花。個体により、あるいは年により花つきに多少がある。葉に先立って6枚の花被片を広げる。外側にさらに3枚の花被片が蕚片状につくが目立たない。1970年代は東京の白金台の自然教育園でも3月末に開花していたが、最近は桜同様開花が早まって3月中旬には咲く。ハクモクレンとの違いの一つは、花の付け根に葉(托葉)が1枚つくこと。

 数輪をアップで撮影しても、いくつもの花をつけた枝を写しても絵になる花であるが、ここでは里山の雰囲気を伝えたくて広角気味に撮影した。斜面に立つ大きな樹が枝を谷津田の方へ伸ばしている。ここの花は他より少し遅れて咲くので撮影は3月下旬。

 

千葉市若葉区  3月下旬

24-105mm(24mm) F4  +0.5EV  ISO400 

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1-74

うめ

バラ科

 

 梅はアップ、遠景いずれでも絵になる。ただし姿全体を見せる場合は、樹形の良いものでなければ絵にならない。古来、桜切るばか梅切らぬばかと言われており、剪定で樹形を美しく保ってこそ梅である。日本画の花鳥画に描かれている梅の枝ぶりは参考になる。一般に紅梅の方が白梅より早く咲く傾向がある。そのため紅白がよい状態でそろうのはなかなか難しい。それでも画面に一緒に入れるならその面積比は7:3くらいがよいように思われる。少なくとも5:5は避けた方がよいように思う。

 さてこの写真は筑波山ろくの梅園での一コマ。ここは紅梅が少ないので両方を取り入れる場所は限られる。町を遠景に入れて紅白そろい踏みの写真が撮れた。メインの紅梅の枝ぶりがよいと思った。

 

つくば市 3月上旬

24-105mm   F16  ISO800

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1-75

ミモザ

マメ科

 

黄色い花をつけ春の訪れを告げるアカシアの仲間をミモザと呼んでいる。栽培植物。小さな花がたくさん集まって球状(房)になる。1つ1つの花は小さな5枚の花弁と長い多くのおしべと数本のめしべからなる。

 たまたま近所の個人のお宅の庭先から道路にかぶさるように花をつけているのを見つけた。この植物の特徴である多くの房が連なって長く垂れ下がった状態を見せたいと思い、フェンスに背中をつけ道路に向かって下から花を見上げるように撮影した。背景は青空。電柱や電線を避けてかつなるべく画面いっぱいに花を写しこもうと広い画角で撮影した。逆光気味になるので見上げた花が暗くならないように露出をプラスした上でさらにパソコン上で暗めの部分(シャドー部)を少し持ち上げた。

 

千葉市若葉区  3月下旬

24-105mm  F8  +0.5EV  ISO200 

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1-76

みつがしわ

ミツガシワ科

 

 清楚な白い花をつける。水辺に生える。北方系の植物といわれるが、低地でもところどころに見られ、氷河時代の生き残りだろうといわれている。3枚の葉をつけるのが名前の由来。紅葉を撮影しに10月下旬に訪れた南会津の矢の原湿原の水辺でも見かけたが、さすがに葉が黒ずんで傷んでいた。千葉県では植物園以外では長南町の長福寿寺の池で見られる。

 下から咲き上がる。写真的には下の花が咲いていて、先端部がつぼみという状態が美しい。しかしその状態が見られるのはごく短いので、気がついた時にはしばしば下の方の花が終わっていまっており撮影適期を逃すことが多い。水面が見えないほど大群落をつくることがある。写真としては背景の水面からの光の反射が玉ぼけに入ると絵になるのにと思うのだが、水面が見える状態はほとんど見かけたことがない。

 陽が傾きかけて斜めの光が当たっていたので立体感が表現できると思い撮影した。

 

つくば市 国立科学博物館の筑波実験植物園 4月上旬

APSCカメラ 55-200mm  F5.6  ISO800

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1-77

ネモフィラ

ムラサキ科

 

 秋に種子をまく1年草。密集するように植えられた様子は見事。

 広角レンズを花に近づけて撮影すると、遠近感が強調され、手前の花は大きく背後をより遠くに感じさせることができる。間に小径があって人が通るけれど、カメラ位置を低くしているので花に隠れて見えない。それでも花が手前から奥までずーと続いているように見えるのは、斜面に植えられているから。平地に植栽されていたらこうは写らない。

 人気のスポットなので、開門と同時に走って現地に行かないと人がたくさん入ってしまう。ただ広角レンズを使うと人の姿は著しく小さく写るので、かえって花畑の広大さが強調されるから遠くに入り込む分には気にならない。閉園間近の時刻なら団体客が帰っているので撮影によいという話を聞いたことがある。

 平地に植えられている場合は、望遠レンズを絞り開放でいくつかの花だけにピントを合わせて周りを青いボケで囲むという撮り方がいい。 

 

ひたち海浜公園  4月下旬

15-30mm  F16   ISO400 

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1-78

チューリップ

 

 春の花壇に必ず植えられるおなじみの花。寒さを経て開花するので、球根を冷蔵庫に入れていち早く冬の寒さを経験させると、年末から正月にも開花させられる。船橋のアンデルセン公園ではそうして開花させたチューリップをアイスチューリップとして展示してくれる。

 写真の撮り方はまさに様々。色の違う花を並べた花壇で色彩のパターンの美しさを広角系で切り取るもの、夕方の色づく空を取り入れた花畑の写真、花壇の中の地面に広角レンズを置いて見上げるように写すもの、マクロレンズで花びらのカップを切り取るものなど。アップ系の場合は、花の下の茎が長いので気を付けないと間が抜けた感じになりがちで、手前の花や葉を前ボケに使って、茎を少し隠したり、目立たなくできればと思う。

 ここでは室内の窓際に植えられた花を逆光気味の光条件で撮影。春の光が透過光となって花や葉を明るく見せてくれた。最近は花弁のふちが白いフリンジになっているような品種や1枚の花弁が複数の色を持つ品種もあり、よりはなやかな画面作りがしやすくなっている。

 

千葉市 花の美術館  2月初旬

90mmマクロレンズ  F3.5 +0.7EV  ISO400 

 カメラを地面に置きチューリップを下から見上げて撮影。人ごみの多い公園では、こうした撮り方をすれば画面に人を入れずに撮ることができる。背後は空だけで構成するのではなく、樹木を入れた方が面白いだろう。

 チューリップは茎につく葉が少ないのでこうした撮り方でも花はすっきり見える。横に広がる葉がたくさんついていると、花が隠れてしまうので、撮り方にひと工夫が必要。上から注ぐ光が花を透過して、花びらの色が一層美しく見える。

 

昭和記念公園 4月中旬

24-105mm  F13  +0.7EV  ISO200

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1-79

ムスカリ

 

 花壇によく植えられる。小さなベル型の花が軸の周りにびっしりとつき、全体として円錐形を成す。

 花の斜め前方からさす光を利用して撮影した。ややハイキー気味に撮った。手前の花が暗くならないように、パソコンでシャドウ部分を少し持ち上げた。全体に明るく軽やかな印象になった。絞りは開放気味にし、周囲の花はぼかして配置した。

 

マザー牧場  3月下旬

90mmマクロレンズ  F3.2  露出補正+2。3  ISO640

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1-80

かんひざくら

(寒緋桜)

 

沖縄の桜であるが、本州でもよく植栽されている。濃い紅色の半開する花をいくつもぶら下げる。

 桜の中でもソメイヨシノやカワヅザクラ、カンヒザクラなどは花をつける小枝が太くごつごつしている。こうした種(品種)では花をアップ気味でとる場合は小枝を見せずに撮った方がきれいだ。もちろん遠くから樹形を生かして撮る方法もある。中途半端に近づいて小枝が錯綜するように見える撮り方は煩雑な印象を与える。

 この写真では主役の花をつけている小枝を隠す役割を手前の花にもたせた。半逆光条件なので手前の花はやや明るめの前ボケになった。前ボケは暗いと画面が重たくなる。光の当たっている主役の花の背景は光が当たらず黒くなった。こういう光条件では露出補正をマイナスにすることで、背景は一層暗く沈んで主役を引き立てるようになる。

 

佐倉市 くらしの植物苑 3月中旬

90mmマクロレンズ   F3.2 ー0.7EV  ISO400 

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