5月も連休が終わると立夏。野山はすっかり緑の洪水。日差しも強くなり初夏という言葉がさわやかな印象とともに語られる。やがて梅雨がきてアジサイやハナショウブといった雨の日に似合う花の季節。7月下旬には夏の到来。平地では花は少なくなりますが、高原や山では高山植物が一斉に可憐な花をつけて、登山者を楽しませてくれます。若い時は北岳や白馬岳なども登ったのですが、花の写真を本格的に習い始めた頃には年に1回くらいしか登れなくなっています。高山植物の写真は持ち合わせがない。残念です。
花の写真もアップ気味の写真ばかりだと飽きることもあります。しかし風景的に撮るにはある程度の広がりで生えてくれていないと難しい。まして背景に山や川・湖などを入れてなどと考えると、県外へも足を延ばさなくてはと思います。
目次(掲載順)
2-1 れんりそう 2-2 ほたるかずら 2-3 はまひるがお
2-4 かきつばた 2-5 きしょうぶ 2-6 あやめ
2-7 はなしょうぶ 2-8 あじさい 2-9 れんげつつじ
2-10 うつぼぐさ 2-11 ラベンダー
2-12 初夏彩々(やまつつじ) 2-13 森の葉かげに(ゆり)
2-14 盛夏 咲き誇る(すかしゆり)2-15 赤い高原(シャーレポピー) 2-16 のはなしょうぶ 2-17 ひとつばたご 2-18 とちのき
2-19 はくうんぼく 2-20 けぶかつるかこそう 2-21 シラー
2-22 にがな 2-23 いちやくそう 2-24 うめがさそう
2-25 いわがらみ 2-26 けいわたばこ 2-27 からすうり
2-28 おかとらのお 2-29 のうぜんかずら 2-30 やまぼうし
2-31 さわふたぎ 2-32 かまつか 2-33 はんげしょう
2-34 ちだけさし 2-35 にがくさ 2-36 あきのたむらそう
2-37 こばぎぼうし 2-38 たつなみそう 2-39 ほたるぶくろ
2-40 はんしょうづる 2-41 おおかもめづる 2-42 くさなぎおごけ
2-43 こおにゆり 2-44 ひめさゆり 2-45 やまゆり
2-46 くされだま 2-47 こうほね 2-48 なるこゆり
2-49 えごのき 2-50 はまぼっす 2-51 はまおもと(はまゆう)
2-52 はまごう 2-53 はまなでしこ 2-54 みやこぐさ
2-55 ねこのした 2-56 かわらなでしこ 2-57 おとぎりそう
2-58 だいこんそう 2-59 ふしぐろせんのう 2-60やぶかんぞう
2-61 のかんぞう 2-62 おおまつよいぐさ 2-63 かざぐるま
2-64 こうぞりな 2-65 みやまなるこゆり 2-66 のいばら
2-67 たにうつぎ 2-68 ていかかずら 2-69 あぶらぎり
2-70 ひめひおうぎずいせん 2-71 ぶたな 2-72 なよくさふじ
2-73 ぬまとらのお 2-74 ひよどりばな 2-75 かせんそう
2-76 おにゆり 2-77 せっこく 2-78 ふじ 2-79 せんだん
索引(五十音順)
アキノタムラソウ2-36 アジサイ2-8 アブラギリ2-69 アヤメ2-6 イチヤクソウ2-23 イワガラミ2-25 ウツボグサ2-10
ウメガサソウ2-24 エゴノキ2-49 オオカモメヅル2-62
オオマツヨイグサ2-62 オカトラノオ2-28 オトギリソウ2-57
カキツバタ2-4 カザグルマ2-63 カセンソウ2-75 カマツカ2-32 カラスウリ2-27 カワラナデシコ2-56 キショウブ2-5
ケイワタバコ2ー26 ケブカツルカコソウ2-20 コウゾリナ2-64
サワフタギ2-31 シャーレポピー2-15 シラー2-21 スカシユリ2-14 セッコク2-77 センダン2-79
ダイコンソウ2-58 タツナミソウ2-38 タニウツギ2-67
ナヨクサフジ2-72 ナルコユリ2-48 ニガクサ2-35 ニガナ2-22 ヌマトラノオ2-73 ネコノシタ2-55 ノイバラ2-66
ノウゼンカズラ2-29 ノカンゾウ2-61 ノハナショウブ2-16
ハクウンボク2-19 ハナショウブ2-7 ハマオモト(ハマユウ)2-51
ハマボッス2-50 ハンゲショウ2-33 ハンショウヅル2-40
ヒトツバタゴ2-17 ヒメサユリ2-44 ヒメヒオウギズイセン2-70
ヒヨドリバナ2-74 フジ2-78 フシグロセンノウ2-59
ヤブカンゾウ2-60 ヤマツツジ2-12 ヤマボウシ2-30
2-1
れんりそう
(連理草)
マメ科
日当たりのよい草地に生える。高さ10~30cm程度。周りの草につるをからませる。花の色は赤みを少し帯びた紫色。千葉市内ではめずらしい。図鑑によると湿った草地に生えるとあるが、以前訪れた茨城県の御前山キャンプ場では道端に咲いているのを見た。かの地では普通の植物なのだろうか。
この写真は朝早く光が花に差し込む時刻に撮影。背後の草についた露が玉ボケとなった。葉や花が透過光を受けて生き生きした印象を与える。光によって印象が変わることを実感した。
マメ科の特徴であるツルが一緒に写るようにカメラ位置を決めている。
千葉市若葉区 5月中旬
90mmマクロレンズ しぼり3.5 露出補正+1.5 ISO800
2-2
ほたるかずら
雑木林の縁に咲く。名前は花の色が青く蛍の光をイメージさせるから。つる植物ではないが、斜めに立ち上がる。根を染料とするムラサキという植物は、属は違うし花の色は白いが形はそっくり。ムラサキの方は、栽培地や植物園でしかほとんど見かけない。
植物園の野草園に群落状に広がっていた。いままでは雑木林の縁で道との境が土手状になったところなど日当たりのよいところに点々と生えている状態でしか見たことがなかったので嬉しかった。このことをある方に話したら「うちの庭では増えすぎて困っているのよ。土地にあっているのかしら。」と。野草の好む環境を知ることは難しい。
高さの違う花を、いわゆる3分割構図の交点に配置するようにした。ちょうど樹木の葉蔭で花には光が当たっていなかった。濃い色の花では木漏れ日がスポットライトのように当たることで力強さを表現することができるが、この花の色合いから考えて、直射光が当たっていない方がやわらかな印象になると思った。背景に強い光が当たると、絞りを明けていてもごちゃごちゃした印象に見えることがよくあるから、太陽が動くのを待った。全体がさわやかな印象になるように露出をプラス1補正している。
泉自然公園
2-3
はまひるがお
(浜昼顔)
潮がひいたときに現れる浜の砂を、海からの風が運ぶことで砂丘が形成される。砂丘は風や高波などで動くことがあり植物にとっては不安定な場所である。砂が植物を覆ってしまうこともある。生きるのに必要な水分は砂の中を下の方へと抜けてしまう。さらに塩分は植物体から水分を引き抜く作用がある。こうした過酷な環境に生きるすべを身に付けたのが海浜植物である。ハマヒルガオは汀線よりずっと後ろの相対的に安定した場所に生育しているように見える。それでも砂が覆うこともあるだろう。人間の開発の影響もあるだろう。
房総半島ではハマヒルガオはめずらしくはないが、大きな群落は少ない。しかも年によってその規模が大きく変化していることがある。各地をたずね歩くと決まって「昔はいっぱいに広がっていたんだけどねえ」と地元の方から返ってきた。厳しい環境に生育できるということは、競争に弱かったり、人為的な影響で傷つきやすいことの裏返しだ。この写真を撮っていると、「砂の入った土嚢をボランティアが運んでね、砂がハマヒルガオを埋めないように群落の周りを囲んだんですよ。」と毎年来るという方からうかがった。「保護してくださる方がいるから写真が撮れるんでね。それでも昨年は多く咲いたけど、今年はなぜか少ない。」とも。
密度の多そうなところを選んで広角レンズを向ける。広角レンズは手前が大きく、奥が小さく写って遠近感や広がりを強調する。ピントは画面の下から3分の1位のところに置き、しぼりはF16としぼることで手前から奥までピントが合ってくる。画面の上部が横一直線の海岸線では構図として単純すぎる。岬や砂丘があれば魅力的。
千葉県 5月中旬
2-4
かきつばた
「いずれが あやめ か かきつばた」といわれるようにアヤメ科の植物はよく似ている。しかし識別ポイントを押さえれば大丈夫。
花びらとがくの区別がはっきりしない場合両者をまとめて花被という。アヤメやカキツバタは、立っているのが内花被、垂れているのが外花被。ともに3枚。この外花被に白い筋が入っているのがカキツバタ。水辺に生育。
谷津田の奥にできた湿地に植栽されていた。強い光が当たると赤っぽく写るので、周りの雑木林の陰が覆うまで待った。少し斜め上方から花と葉が適度に散らばって見える位置から撮影した
房総のむら 風土記の丘 5月初旬
2ー5
きしょうぶ
カキツバタと同じ仲間。キショウブは水辺にあって花は黄色一色なのでほかの仲間と区別は容易。明治の中ごろに欧州から日本に渡来したものと聞く。全国で見られるそうだ。
周りの葉の中に花がうずもれて見えにくい場合がある。そこで斜め上から写すことにした。
花密度の大きい集団を見つけられるかがポイント。
千葉市都市緑化植物園 5月中旬
2-6
あやめ
アヤメはカキツバタとは異なり、水はけのよい草原、やや乾いた草原にも生育する。外花被のつけねに黄色い×××のような模様が入っている。この模様が「綾目模様(あやめもよう)」に似ていることから名づけられたという説がある。
やや強い半逆光気味の光が斜め後ろから入っており花弁が透過光を受けて美しい。乾いたところで生育しているからか、強い光が入って却って初夏の清々しさが強調された。水辺に咲く花菖蒲などを撮影するときにはやわらかな光条件が必須なので、その違いもおもしろい。
千葉市都市緑化植物園
F4.5 ±0
2-7
はなしょうぶ(花菖蒲)
湿地に生えるノハナショウブの園芸種。各地で開催される「あやめ祭り」とはハナショウブのこと。品種改良が進んでいるのでさまざまな色・形のものが見られる。個人的にはアヤメ類の花の基本構造を維持している内花被が立っている品種が好み。
やわらかな光条件で撮影するのがよい。強い光で陰がくっきりだと趣がないと思う。早朝の斜光線で花弁に透過光が見られればなお素敵だ。花の色は淡い色合いのものが撮りやすいと思う。
この写真は斜め上から見たら鳥の群れが飛んでいるような展開にハッとするような美しさを感じて撮影した。この2年後に見たら、株が成長して花の密度が高くなり、隣同士隙間なく咲いていた。個人的にはこの程度の密度の方がきれいだと思う。「年々歳々花同じからず」なのである。
横から取る場合も花の高さが横一直線ではなく、ある種のリズムのあるものを選びたい。
佐倉城址公園 6月上旬
24-105mm F16 露出補正+1/3
2-8
あじさい
梅雨どきのうっとうしい気分をアジサイの清楚であでやかな花が慰めてくれる。品種改良されてさまざまな色合い・形のものが植栽されている。この「てまり型」は、ガクアジサイの周辺部にだけにある飾り花が全体に広がったタイプ。
杉林の縁に植栽されている一群れのアジサイ。背景のスギ林を左上隅に少し見せた。ピンク系の花が中心だが左上に少しだけ青い花が見えており、色の違いで画面に変化がついている。
佐倉市 川村記念美術館 散策路 6月上旬
F16 ±0
2-9
れんげつつじ
6月も中旬になると平地で見られる花が少なくなってくるが、標高1000mくらいの高原では色々な花が見られる。その代表がレンゲツツジ。
近年ニホンジカの増加が各地で著しい。若い木の樹皮を食うので木が枯れる、高原の花を食べるなど被害は深刻。日光や入笠山の湿原、霧ケ峰高原では周りをぐるりと金網や電気柵で囲ってシカの侵入を防ぐ対策がとられるほど。レンゲツツジなどツツジ科の植物は有毒物質を含むので、シカの多い地域や牧場ではかえって増えている。八ヶ岳が近い八千穂高原は美しい白樺林で知られている。レンゲツツジととげだらけの低木が密生しているところがあった。ここもシカが多いのだろうか。
レンゲツツジが手前から奥まで展開しており、白樺とのバランスのよいところを選んだ。奥の方の白樺の幹の長さが画面上部3分の1くらいまでになるようにした。
長野県 八千穂高原 6月中旬
2-10
うつぼぐさ
名前は花穂が武士の持つ矢を入れる道具に似ていることに由来。シソ科の植物で唇型の花をもつ。高原に行くとよくみかけるが、県内でも決して珍しくはないと博物館の職員にいわれたことがある。ここの群落は大きな広がりを見せており、他でここまでの群落は見たことはない。斜めまたはまっすぐに立ち上がる。
6月中旬に咲く。群落状に咲いているので、一個体をアップでとらえるのではなく、その雰囲気を伝えたかった。2個体が並び、背後にある個体が左右でバランス良く広がっているのを見つけた。カメラは地上すれすれに置き、夕方の逆光気味の光線が小さな花に透過光となる方向に向けた。透明感のあるさわやかな印象に写せたと思う。
房総のむら 風土記の丘 6月中下旬
2-11
ラベンダー
ハーブを代表する。ヨーロッパ原産。 北海道の富良野地方の広い丘を彩る風景は見事。もともと乾燥した環境が好みなので梅雨の時期に当たる本州での栽培は難しい。畝を高くしたり、斜面をつくって植えたりと、水はけをよくしないとうまく育たない。何年も元気に花を咲かせていたと思うと突然に枯れたりすることもある。
この写真は佐倉の先崎干拓地で撮影。もともと印旛沼の干拓地につくった水田をラベンダー畑にしたのだから、管理者の苦労はいかばかりだろうか。5月に様子見に訪れたときには何とヨシ(葦)があちらこちらに生えていた。これでは写真にならないとばかり、道具は用意していなかったので手で抜き始めた。結局2時間余りかかって一面全部を手入れすることになった。そのかいもあって6月、ラベンダー畑はさわやかな香りに包まれて撮影できた。
開放気味にして前後をぼかした。露出は+0.67とややハイキーにしてさわやかな印象を表現した。主役の花の茎の下の方は手前の花で隠すと同時に主役の花が後ろの花と重ならないようにカメラの高さと角度を選んだ。
明け方の雨があがるとみるみると青空が広がっていく。梅雨どきにしては珍しく澄んだ青空。形の良い白い雲がでれば空を大きく取り入れた写真を撮りたいと願うもの。空の露出と手前の花畑の露出差が大きく難しい条件であった。ハーフNDフィルターを使えばよかったのだろう。用意していなかったので、パソコンで調整をした。
印旛沼のほとり 先崎干拓地 6月上旬
24mm相当 F16 露出+0.17EV
2-12
初夏彩々
(ヤマツツジ)
ゴールデンウィークの前後に各地でツツジ祭りが開かれる。さまざまな色の品種が新緑を背景に私たちの目を楽しませてくれる。ここ清水公園には展望台があり、色とりどりのヤマツツジを上から俯瞰できるのが嬉しい。地上から見上げるのとは違って、ちょっと屏風絵のような雰囲気。
薄日が射すツツジの写真には絶好の日和。光が強いと花の色が浅くなってしまう。花ごとに適切な光条件が違うので、経験で覚えていくしかない。右上の明るい部分の色も出るように露出は控えめにしたが、その分中央左端の赤い花の色ががややアンダーになった。左手には太い欅の木がある。取り入れるか迷った。迷ったときには両方撮影しておく。プリントしてみるとどちらも悪くはなかったが、今回は外した構図で紹介。また中央上部に見える黒い幹の処理にも悩んだ。トリミングでカットすることも考えられる。そうすると右上の明るい花色や上辺の新緑もカットされる。最終的には奥行き、広がり感を重視して上辺の新緑まで入れて見た。御覧のみなさんならどうされるだろう。
ところでこの展望台、斜めに渡した板を人びとが上り下りするたびに揺れること揺れること。シャッターブレを避けるため、上り下りする人が途切れた瞬間をねらってシャッターを切る。連休の谷間で大勢の来園者があったので、結局1時間以上かかってしまった。
この公園はアスレチックが充実しており、小学校の団体が大歓声をあげて楽しんでいた。家族みんなが楽しめる公園である。
野田市 清水公園 5月初旬
F16 -0.5EV
2-13
森の葉かげに
6月はユリの花の季節。
所沢ゆり園は、最寄駅の西武球場前(西武池袋線)から徒歩3分という好立地にある。広い園内にいろいろな色や形のゆりの花が咲き誇っている。群落的に撮影するポイントもあれば、アップ気味で写せる花もある。前半がスカシユリ系、後半がハイブリッド系と時期によって異なるタイプが楽しめる。
遊歩道の脇の木陰にさいており、奥には光が当たっているという好条件。おしべの形がよいもの、カメラの方を向いているものなどいろいろ条件をつけると、花がたくさんあってもモデルとなる花は必ずしも多くはない。良いモデルを探せるかどうかがもっとも重要な要素。おしべにピントを合わせて露出は+1と明るめに撮影。
所沢ゆり園 6月下旬
70-200mm(200mm) F3.5 +1EV ISO400
2-14
盛夏 咲き誇る
(スカシユリ)
花写真を撮る以上、千葉の海辺の花も撮りたいなあと思い立ちネット検索してみたら南房総の海岸でみられるという情報に出会った。確たるあてはなかったがその情報を頼りに出かけてみた。夏休みが始まるころだった。地元の方に尋ねてみたが、特に花に関心がないのだろうまったく手がかりが得られなかった。諦めてせめて眺望を楽しもうと崖の上に通じる細い道を上がって行った。崖の上からふと見下ろした海岸の岩棚にひと固まりのオレンジ色が見えた。ひょっとして? あわてて道を下り、見当をつけた場所に行ってみると、白っぽい岩にへばりつくように一群のスカシユリが咲いていた。ゴロゴロした大岩の間に入り込む海水の潮位はなんとか濡れずに跳び越えられる程度だった。海水が満ち始めてきていた。帰れなくなる前にとそそくさと撮影し終えた。明るい海のほうに向って咲くので、海を背景に撮影することはできなかったが、満開に近い状態で撮影することができたのは嬉しかった。
外房の太東埼には天然記念物になっている海岸植物群落がある。
南房総 7月上旬
24-105mm(40mm) F8 露出補正0
2-15
赤い高原
(シャレーポピー)
秩父高原牧場に一面のポピー畑が出現すると聞いた。多くの写真がネット上に出ているので、いまさらと思わないわけではないがやはり見てみたい。見る以上は撮影したい。観光協会の見ごろという情報を見て矢も立てず出かけた。すこし傷んだ花もあるので、撮影には若干遅かったと思う。高曇りで花の色はよく出たが、パワーは表現できなかった。写真は光の表現手段。難しいものだ。花の背後に日が沈むので、天候条件がよければ夕焼けのもとで撮影するのがよいようだ。
柵の近くで花密度の高い所を探し、花の上にかぶさるようにカメラをセットし、レンズは35mm相当で使用。手前のちょっと奥にピントを合わせ、しぼって撮影。空は雲を入れたくないので、山の稜線のすぐ上でカットした。
(秩父高原牧場)
F16 ー0.5EV
2-16
のはなしょうぶ
6月頃各地で開かれるアヤメまつりとは花菖蒲を愛でるものである。
ノハナショウブはその花菖蒲の原種で各地の湿原でみられる。外花被片に黄色い筋が入っているのが特徴。千葉県でもみられるが、撮影条件が難しい場所が多い。
この写真は標高1700mあまりの入笠山湿原で撮影。花の豊かな山として有名。ゴンドラで近くまで行けるのでありがたい。微生物の活動が限定される標高の高い湿地では、繁茂したミズゴケは、十分な分解を受けず生じた泥炭が堆積し、周囲より高い時計皿を伏せたような状態になる。こうした湿原は地下水ではなく雨水で維持される。この状態を高層湿原といい尾瀬が原が有名。土壌は酸性で貧栄養である。周囲からの土砂の流入が続くと遷移が進み草原化する。
7月の初め撮影会で訪ねた時はノハナショウブがあちこちに咲き、湿原を華やかに彩っていた。撮影は木道からに限定されるので難しいが、ちょうど木道わきに花とつぼみのバランスのよい株があった。周囲の草が曲線を描いていたので写し込んで野趣を表現しようとした。被写体の背後には強い日差しが当たっている。露出はプラス補正。幅の狭い木道で近くにある大きな花をアップ気味に撮るには90mmマクロレンズが便利。背景をぼかすために絞りはやや開け気味にした。
入笠湿原 7月初旬
90mmマクロレンズ F4.0 露出補正+0.5
2-17
ひとつばたご
(一つ葉田子)
モクセイ科に属する落葉高木。手元にある植物図鑑(山溪の「日本の樹木」)によれば国内の自生地が愛知県、岐阜県、対馬に限られる珍しい木とある。近年人気が高まっており、各地の公園で見られるようになってきている。千葉県ではちょうどゴールデンウイークのころ花が見られる。木全体が真っ白く雪をかぶったように見えるほどである。
初夏の新緑の中に清楚な白い花は魅力的である。花冠は4つに深く裂け、列片は線状。午後の日差しが雲にさえぎられやわらかく包んでいた。枝が白い花を乗せてやや垂れ下っていた。背後の枝がなるべく見えないように、また葉の明るい緑が表現できるようにやや逆光気味になるような位置を探してカメラをセッティングした。
千葉市都市緑化植物園 5月初旬
160mm F3.5 +0.5EV ISO400 三脚使用
2-18
とちのき(栃の木)
ブナ林では自生の大木を見かける。少し湿った所を好むように思える。葉が大きく手を広げたような特徴的な形をしているのですぐに識別できる。古くから人びとに利用されており、各地に植栽されている。公園でもよく見かける。実はあく抜きを経て栃もちとして利用される。セイヨウトチノキはマロニエの名で知られている。花穂がオレンジ色のベニバナトチノキも公園ではしばしばみられる。セイヨウトチノキとアカバナアメリカトチノキの雑種という。
千葉市では花はGWの直後ころ見られる。円筒形の花穂を枝から垂直に立ち上げる。1本の木にたくさんつける。大きな木に咲くのでその姿は遠くからもよく見える。花びらは4枚で付け根がやや紅色を帯びる。写真でもおしべが長く伸びているのが見て取れる。
3本並んで伸びている花穂を見つけた。やや高い位置にあるのでなるべく木に近づいて見上げる位置で撮影。中央の花穂にだけピントを合わせた。曇りの日ではあったが、背後の葉が拡散光を受けてさわやかな緑色を見せた。
千葉市青葉の森公園
200mm F3.2 +0.3EV ISO200 三脚使用
2-19
はくうんぼく
(白雲木)
大きくなる木の花で目立つものには白い花が多い気がする。桜が終わったころウワミズザクラのアイスキャンディーのような花が咲き、ヒトツバタゴ、ハクウンボク、ホオノキ、ニセアカシアと続いていく。
ハクウンボクは咲く花を白い雲に見立てたのだろう。小枝の先から花の穂を出し、開いた釣鐘型の花をびっしりつける。エゴノキの仲間だが、花が密集してつくことと葉の形が大きくて丸いことが大きな違い。花の期間が短く、気がつくと元の方の花が落下して撮影に適さない状態なっていることが多い。この年はめずらしく最盛期に見ることができた。午後の遅い時刻、日が傾きかけて斜光線が射しこんできていた。白い花に直射光が当たると白とびしてしまう。一方で光は植物を生き生きと見せてくれる。その兼ね合いが難しい。背後の木々の隙間から光が玉のようにこぼれてきた。丸い薄い葉と花にも背後から明るく透過してくれた。奥行き感が表現できた。
千葉市都市緑化植物園 5月初旬
165mm F4 +0.7EV ISO400 三脚使用
2-20
けぶかつるかこそう(毛深蔓夏枯草)
日当たりのよい草地に生える。シソ科に属し、小さな唇型の花を花穂の周りにつける。花の色は淡い紫色。茎・葉・蕚に白い毛が生えている。特に茎の毛は長い。草むらの中に生えている姿は全く地味で、意識しないと見つけられないかもしれないほどである。
5月中旬、前日の雨にぬれた草地を朝早く歩いていたらめずらしく幾つもの花穂が並んでいるのを見つけた。並んでいる花穂のなるべく多くにピントが合うように慎重にカメラ位置を決める。近づきすぎては草原に生える雰囲気が伝わらないので画角を少し広めにとって撮影した。
千葉市若葉区 5月中旬
180mmマクロレンズ F5.6 ±0EV ISO800 三脚使用
2-21
シラー
(Scilla peruviana)
最近街かどや公園でよく見るようになった。Scilla とは キジカクシ科のツルボの仲間の属名。ネットで検索すると、peruviana は、地中海原産で別名 星のソナタといわれてもいるようだ。随分しゃれた名前を付けた方がいるものだ。商売上手というか詩のセンスがあるというか。この仲間はかつてはユリ科に入れられていたが、DNAにもとづく分類ではキジカクシ科に移った。このキジカクシ科にはキチジョウソウ属、ナルコユリ属、アマドコロ属、ギボウシ属などこれまでまさにユリ科に分類されていた植物が含まれている。
この写真はご近所で撮影。5月中旬、雨上がりのやわらかな拡散光にうっすらつつまれていた。手前にある株にピントを合わせ、背後の株はぼかしてある。その逆の写真も撮ったが全然雰囲気が違ってしまった。手前にある背の低い笹などを前ぼけに、イモカタバミのピンクの花をアクセントにした。主役の株と背後にある株は重ならないようにしつつ、間にあまり隙間ができないようにカメラの高さを調整した。さらに背後にアジサイの植え込みがあるが、葉の群がりが欠けた所が黒っぽくぼけるので光条件が変わっていくのを待って、日に何回かに分けて撮影してみた。ご近所だとこうした試行錯誤が何度もできるのがありがたい。
千葉市若葉区 5月中旬
150mm相当 F3.5 -0.3EV ISO400 手持ち
2-22
にがな(苦菜)
日当たりのよいところや木漏れ日の射す疎林の林床に普通に見られる。舌状花が5枚。葉の付け根は茎を包むようになっている(図鑑では「茎を抱く」と表現する)。
林の小道の脇、二株が並んでおり、後方に木漏れ日が当たって輝く黄色い花が目に入った。被写体には光が当たっていないので、やや青味を帯びて写った(色温度が高い)が、ホワイトバランスを調整するほどでもないと思う。後方の花を画面に入れるためにカメラの高さはやや低くした。
千葉市若葉区
170mm相当 F3.5 +0.5EV ISO200 三脚使用
2-23
いちやくそう
(一薬草)
雑木林の林縁部に見られる多年草。葉はつやがあり表面に葉脈が目立つ。円形に近い。地際に数枚を展開
する。これらの特徴から冬の雑木林で見つけ易い。花は6月初めに見られる。10~20cmほどの花茎をのばし、上部に白い小さな花を下向きにつける。めしべが花冠から飛び出し湾曲する様子はゾウの鼻のように見える。
千葉市内のイヌシデ林でたくさん見つけた。しかも根元にもっとも多数が集まっていた。このことから地下部で栄養的に依存しているのではないかと思った。ネットで調べるといくつかの研究がなされていることがわかった。その手法はイチヤクソウの根の顕微鏡的観察とDNAによる菌の特定である。林の優占種(ここではイヌシデ)の根に外生菌となっている菌がイチヤクソウの根に入り込んでいる。イチヤクソウはその菌を消化して炭水化物の半分くらいを依存しているようで「部分的従属栄養植物」という状態であると。特に発芽に関しては特定の菌類がかかわっているらしい。成長すると菌とのかかわりを替えて優先樹種との関係を結ぶようだ。
地面から20cm程度の高さに下向きに咲く花を写真に収めるには姿勢がきつい。しかもしばしば花茎が1本しかなく、他の株と離れている上に花と地際の葉の間は何もないので、画面に広がりをもたせるのも難しい。今回運よく複数の花茎が並んでいる場面に出会ったのでマクロレンズでクローズアップで撮影した。斜め下から仰ぐように見て、2本の花茎にピントを合わせ背後にある花がぼけて入り込むようにカメラ位置としぼりを決めた。背の低い個体なら葉と花の両方が撮影できる。雑木林の内部はいろいろな下草があるので、主役を背景から浮かび上がらせるのは難しい。強い光が降り注ぐと白い花は「白とび」してしまうし、光が弱いとメリハリがなくなる。今回は光が弱かったが、背景に花が複数ぼけて入ったのでそれなりになった。なお全体を写した写真(千葉市若葉区で撮影)も掲載しておく。
成田市 6月上旬
90mmマクロレンズ F3.2 +1EV ISO400 手持ち
2-24
うめがさそう
(梅笠草)
花の写真のサークルの一人に花と葉のアップ写真を見せられて、名前を尋ねられた。初めて見る植物だったが、花の形がなんとなくイチヤクソウに似ていると思い、図鑑で探したところウメガサソウと判明。生育場所を伺ったら千葉市の貴重種の分布図に載っていない場所だった。大発見ですよ!とお知らせしておいた。そして1年経過。その方のご案内で花に直接会いシャッターを切ることができた。生育場所は都市部に残されたイヌシデの多い小さな雑木林。高さ15cm程度の常緑の多年草。2~3枚の葉が茎に輪生状につく。葉はテイカカズラにちょっと似ていた。
午後の木漏れ日が降り注ぐややうす暗い林の中。地面にカメラを置いて明るい背景で撮影。プラス補正。このまま残ってくれればと祈るような気持ちでその場を後にした。
後日、千葉県立中央博物館の野外施設である「生態園」でも見られるという情報が得られたので翌年に行ってみた。高さ10cm足らずの株が数個、園路の端の暗いところにあった。とても写真にはならなかった。
ウメガサソウについても前項のイチヤクソウと同様に樹木に栄養の一部を依存しているという研究がある。
千葉市花見川区 5月下旬
90mmマクロレンズ F2.8 +1.3EV ISO200
2-25
いわがらみ
6月下旬 南会津地方を車で移動中トンネルを抜けて視界が開けた途端、道路の右側の崖が白く見えた。運よく左側に退避場が見えたので車を止め、歩いて確認しに行ったところこの花が崖を覆っていた。アジサイに似た花のつくりだが飾り花に当たるところは白い萼片が1枚だけある。びゅんびゅん走ってくる大小のトラックの途切れるのを待って崖にへばりつくようにあわてて撮影。密度感のあるところが画面の中央部分にくるようにした。斜め上からの光によって葉の緑が明るく鮮やかに見えた。
40mm F4 露出-1/3 ISO400
2-26
けいわたばこ
(毛岩煙草)
日当たりがあまり良くない凝灰岩の石切り場のあとはしばしば地下水がしみだしていつも湿っている。イワタバコはそのような環境を好むようだ。紫色の小さな小人のような花をいくつもつけて崖にへばりついている。葉が煙草の葉に似るところから命名されたようだ。鎌倉や房総半島にあるイワタバコは花茎や葉裏に毛が生えていることと、葉の形が左右対称ではないことが特徴であるケイワタバコとされている。
ここの凝灰岩は、海底に堆積した火山灰起源でプレートの圧力によって隆起した。
6月中旬。ここでは広角レンズを使って最短撮影距離付近まで接近して撮影。絞りこむことでこの花が生活している環境、崖の質感まで表現したいと思った。
鋸山 6月中旬
16mm F8 ISO200 露出-1/2
2-27
からすうり
谷津田の縁にはいろいろなつる植物が繁茂する。明るくてササやヒヨドリバナやヤマユリなどの背の高い植物が生えるところ。それらを頼みとして巻きついて丈を伸ばし光を確保しようとする。これを植物社会学者の宮脇昭氏はマント群落、袖群落と呼んだ。あたかも開けた場所に接した落葉樹林を保護するように覆うと認識した。
カラスウリは秋の日差しを浴びて朱色の実をぶら下げることでよく知られている。しかし花は夏の夕方から咲き始めるので、夕闇の中を出かけなければ見ることができない。実物を見る機会は少ないかもしれない。夜咲く花は白や黄色が多い。この花はスズメガ類が花粉媒介をするという。
上の写真は7月末の19時半頃の撮影。午後のうちにつぼみを見つけておいて夕食後出直した。このような花がつぼみの中で丁寧に折りたたまれ、絡まることなく展開するのは驚くべきことだ。カメラは三脚に固定しレリーズを使用。明りはLED懐中電灯に白いタオルをかぶせ拡散光として用いた。光は花を中心に当てることで花と葉以外の周りは暗く落とすことにした。レースのような繊細な花びらにしっかりとピントを合わせた。カラスウリは雌雄異株で、この写真は雄の花。雌の花では中心部に柱頭が見える。
千葉市若葉区 7月下旬
180mmマクロレンズ F11 シャッター速度4秒 ISO200
2-28
おかとらのお
サクラソウ科
明るい雑木林の林床に咲く。この仲間にはノジトラノオ、湿地に見られるヌマトラノオ、さらにそれらの雑種とおもわれるいろいろなタイプがある。
オカトラノオは茎の葉のつくところが赤みを帯びており、花穂はトラの尾のように横にのびる。日当たりのよい場所では花つきがよいように思う。ノジトラノオは茎全体が毛深い。ヌマトラノオは花穂が直立する。
下の方から咲き始めるので、咲き始めで中ほどから先はつぼみの状態がモデルとしてきれいだ。午後の傾きかけた光が木漏れ日として画面に入るようにカメラ位置を低くした。二つの花が平行に並ぶような角度を選んだ。
房総風土記の丘 6月下旬
90mmマクロレンズ F4 シャッター速度1/125 露出+2/3 ISO800
2-29
のうぜんかずら
暑い季節に一層暑さを盛り上げてくれるような色彩の花。オレンジ色の花をすだれのように吊り下げる。ラッパ状の花はやや上を向いている。中国南部原産。亜熱帯地方の花である。同じ仲間に濃い赤い花のものがある。こちらはフロリダ辺りが原産のアメリカノウゼンカズラ。ある日、花を傾けてみると蜜がこぼれおちてきた。なめてみるとちょっと苦味の混じった甘い密である。こんなに多量の蜜を作るには花粉媒介者は昆虫であるはずがないと思った。それは植物にとって多量の蜜を作るにはコストがかかるから、それに見合った利益がなければそのような仕組みは進化しないと考えたからである。その後たまたまノウゼンカズラの花にヒヨドリが顔を突っ込んでいるのを見た。その後一度も見ていないが、この観察で多量の蜜がつくられるわけに合点がいった。亜熱帯の鳥媒介の花なのだろうと。ネット上の情報サイトには鳥媒介でメジロやハチドリが花粉を媒介するとある。個人的には先の観察例1例だけで、メジロが蜜を吸いに来るのを見たことはないが、おそらく原産地ではふつうに観察されるのではないだろうか。
その後映像でアゲハチョウの仲間が訪れているのを見た。皆さんの見解はいかがでしょうか。
花密度が大きく、傷んだ花のない垂れ下り方の美しいモデルを見つけたい。上記の写真は成田市の住宅の玄関先の花である。
成田市
180mmマクロレンズ F3.5 ISO200
2-30
やまぼうし
(山法師)
ハナミズキの仲間。白い4つの花弁のような部分は葉の変化したもの(総苞片)。はじめ小さな緑色の葉状だが次第に白く大きくなる。中心部に球状に花が集まっている。
近年庭木として盛んに植えられるようになっている。秋には橙色で球状の実がつく。熟すと果皮は丈夫だが中は甘くジューシーで食べられる。実が熟す前に落ちてしまう個体もある。品種改良が進んでおり総苞片が小さいタイプ、黄緑色のタイプなどいろいろある。
写真としては枝ぶりの美しい個体を選びたい。ここでは右下に幹を置き、枝が左上に展開するような構図で撮影。葉の緑と総苞片の白い色が初夏の輝く光を表現できるようにしたい。一方で直射日光による「白トビ」も避けなければならない。やわらかな日差しでの撮影が望ましい。
佐倉市 川村美術館 5月中旬
47mm F13 -0.3EV ISO200
2-31
さわふたぎ
ゴールデンウィークの直後、雑木林の中で小さな白い花を見つけた。ふだん気づかずに見過ごしがちな木も花の存在でそれと知る。気にするようになると縦に細く裂け目のはいった樹皮の特徴が花の時期以外の識別ポイントになる。ちょっとカキやハナミズキに似ているが、もっと細かい裂け目をもつ樹皮である。秋には他ではあまり見かけない美しい瑠璃色の小さな実をつける。
林の中に光が降り注ぎ新緑が美しい様相を示している。その新緑を背景にして白い花が目立つように写そうとするが、葉の間からもれる光による玉ボケに重なっては小さな白い花はまぎれてしまう。そうならないようにカメラ位置を微妙に変えながら何枚も撮影した。
千葉市若葉区 5月上旬
280mm相当。F8 +0.7EV ISO1600
2-32
かまつか
サワフタギと同じころ雑木林で白い花を咲かせる。バラ科。梅鉢文様のような花である。花を見ればサワフタギとの違いは明確なのだが、葉の形がちょっと見に似ているので、識別に迷うことがあった。いろいろ情報を集めてみたところ、カマツカには長い枝と短い枝があり、長く伸びる枝では葉は互い違いにつく互生、短い枝はほとんど伸びず3枚の葉が輪生したようにつくことがわかった。光当たりがよいところでは、短い枝が多い傾向があるそうだ。下に葉を比較できるようにしておく。
千葉市若葉区 5月上旬
90mmマクロレンズ、F4 ISO1600 +2EV
サワフタギ
カマツカ
2-33
はんげしょう
(半夏生 半化粧)
湿地に生えるドクダミ科の多年草。夏至のあとの半夏生の頃に咲くことから名付けられたという。花に先立ち茎の上部の葉の表面の全部または一部が白くなることから半化粧と書く場合もある。この白い色は8月ころには再び緑色に近くなる。
花穂に小さな花をたくさんつける。下の方から順に開花していく。開花前は花穂は下向きに垂れているが、開くにつれ立ちあがっていく。花穂が少し立ちあがって、しかし先端はまだ下向きになっている時期が撮影の時期である。梅雨時期なので光条件が難しいが、強い光が当たるよりはやわらかな光条件の方がこの花の雰囲気が出るようだ。
群落状に咲いていたので、その様子を表現できるよう白い色が目立ち、花穂がよく見える株の近くにカメラを置き、広角系でやや斜め上からしぼりを絞って撮影した。もちろんマクロレンズで花穂に注目してアップ気味で撮影することもできる。その場合は、花のすぐ後ろは緑の葉になるように、かつ白くなった葉を周りに配置して開放絞りで撮影するのが花を目立たせ、かつハンゲショウの特徴が表れる撮り方である。
泉自然公園 6月下旬
24mm F19 0EV ISO200
2-34
ちだけさし
( 乳茸刺 )
ユキノシタ科
平地から高原まで湿原や湿り気のあるところに見られる。千葉市内では水田の脇の土手などに見られる。花は小さくうすいピンク色か白っぽい。背景にまぎれて目立ちにくい。草むらから一本だけ出ていることも多く、なおさら存在感が薄い。花穂の部分の背景にはやや暗めの色を選ぶか、ずっと後ろまで開けているようなところを選ぶと存在感が高まる。
花茎の広がり方が美しい群生を見つけた。背景は日の差していない樹々。背景が暗いのでマイナス補正。梅雨時のやわらかな光条件はこの花の色を出すのにふさわしい。羽状複葉をも含めてやや引いて撮影。
千葉市若葉区 6月下旬
24-105mm(30mm) F11 ISO400 -0.5EV
2-35
にがくさ
シソ科
林の中に群れになって小さなピンク色の花が咲いていた。そこに白い蝶が群舞していた。蝶はときおり小さな花から蜜を吸い、また舞い上がる。
花はよくみると唇型、しかも上唇がほとんどなく、めしべと葯が飛び出している。茎は四角柱。まさにシソ科の特徴を示していた。科が分かれば図鑑に頼れる。
絵合わせからニガクサと思われた。記載を読み、翌日再度訪問して花の特徴をルーペで確かめる。類似種のツルニガクサとの識別ポイントを示しておく。
・ツルニガクサには萼に腺毛があるはずだが、これにはどうみてもない!
・ツルニガクサは、めしべの長さとおしべの長さが同じ長さのはずだがこれははるかにめしべが長い!(注:この写真では拡大しても腺毛の有無までは確認できない)
・花冠の一部が緑色に膨らんでいた。これには毛があった。ナイフで切ってみたら
中に茶褐色の幼虫が入っていた。虫こぶである。ニガクサの特徴。
撮影は三つ並んだ花穂にピントを置いて高速シャッターでレリーズを使い連写。何枚もの写真の中で白い蝶(スジグロシロチョウ)が入り込んでいた1枚がこれ。
千葉市 泉自然公園 7月下旬
70-200mm(120mm) F3.2 0EV ISO800
2-36
あきのたむらそう
(秋の田村草)
シソ科
名前は あき だが花は7月に入るとみられる。雑木林の林縁や内部によくみられる。
奇数羽状複葉。葉だけの時期はなんだろう? と思っていたが、やがて茎の上部に花穂を伸ばしてきて正体が判明した。花穂は1~3本のことが多く、中央の一本がよく伸びると全体の形も美しく見えるが、しばしば黒くなって芯止めのようになっているものがある。こうなると脇からでてきた花穂が長くなり、形がきれいではない。
被写体としては中央の一本と脇の2本のバランスが取れているものを選びたいが、意外に見つからない。この写真でも左側がまだ伸びていない。
この写真は夕方、日が傾きかけ林の中に斜めに光が入るころに撮影。光の当たった背後の草むらの緑が美しく、小さな青紫の唇型の花は透過光で輝いている。そこへ黄色い蝶(キチョウ)が飛んできて蜜を吸い始めた。花にピントを合わせ、蝶の姿が画面に入ると高速連射で撮影するのだが、背景をぼかすためにレンズの絞りを開けている関係で被写界深度が極端に浅くなり飛んでいる状態の蝶の眼にピントが合うことはまれになる。
千葉市若葉区
70-200mmレンズ(200mm) F3.2 +0.7EV ISO800
2-37
こばぎぼうし
(小葉擬宝珠)
擬宝珠とはつぼみが橋の欄干につける擬宝珠に似ていることからついたと言われている。この種は湿地や湿り気のある場所に見られる。なかまのオオバギボウシに比べると花穂の長さは短く、花の数も少ない。花の色は濃い。個人的な感想を言えば、立ち姿はこちらの方が美しいく、絵になりやすい。下から咲き始めて、花の穂を伸ばしながら順に上の方へ咲いていく。咲き終わった花は斜め下に垂れさがっていく。
写真の撮りごろとしては、比較的咲き始めで終わった花が目立たない時期のものがお勧め。花の内部が見えるやや斜め横から写すのがきれいに見える。できれば葉も写したい。後方が開けているところで写すと花が目立つ。千葉県でも普通に見られるが、姿かたちのよいものを見つけるのは思ったより難しい。
赤城自然園
180mmマクロレンズ F4.5 0EV ISO400
木々の下に小さな群れで咲いていた。その中にカメラを入れるようにしてマクロ撮影を試みた。しぼり開放で手前の花がうまく前ボケになった。露出をかけることで淡いふわっとした雰囲気で表現できた。
同種の花でも生育状態や光条件の違いを生かしていろいろな撮り方を試みている。
千葉市若葉区 8月初旬
90mmマクロレンズ F2.8 +2EV ISO800
2-38
たつなみそう
(立浪草)
シソ科
草むらの中に生える。初夏に長い花茎をのばし、唇型の花を茎の片側につける。花の長い筒部の根本が急に曲がって立ち上がっている。その姿が海辺に打ち寄せる波が砕ける様子に見立てて名付けられた。花の上部の唇型の部分に紫色の斑点が目立つ。地下茎で広がるとともに夏から秋までは閉鎖花をつくり種子繁殖する。
撮影は透過光で花が鮮やかに浮かび上がるように早朝の斜光線を逆光気味で利用している。周りの草に紛れているので撮影には一工夫が必要。掌で周りの草を少しなでるようにかき分け、長い花茎の下部を手前の草の前ボケで隠しつつ特徴的な丸みを帯びた葉が写るように気を配っている。複数の花茎を取り込めれば画面に広がりが得られるが、ふさわしいモデルがなかなか見つからないことが多い。2つの花茎の花にピントが来るようにカメラ位置を考える。その位置決めだけで時間がかかることがあり、その間に太陽の位置が変わってしまうことが一番の難しさである。
千葉市若葉区 5月中旬
180mmマクロレンズ しぼりF3.5 +0.7EV ISO200
2-39
ほたるぶくろ
キキョウ科
雑木林の脇や水田などの土手によくみられる。梅雨のはしりの頃から花が咲きだす。萼片と萼片の間に反り返った付属体があることで、しばしば同所的に咲くヤマホタルブクロと識別できる。
花色は赤紫色ものからほとんど白いものまである。茎にいくつもの大きい花をつけるのでしばしば斜めに倒れる。繁殖力は旺盛だが、千葉市内の青葉の森公園では花の咲くちょっと前の時期に毎年草刈りされて花を見ることができずにいた。そこで春に根生葉を見つけたときに管理者にお願いして小さな柵を作ってもらった。管理者は「本当ホタルブクロですか?」と半信半疑であったが、一年を通して植物を観察しているので自信があった。もちろんその年から毎年花が楽しめるようになった。
写真を撮るときは花が咲き始めてつぼみもあるときに、夕方の光が花を透過するような条件が一番のおすすめ。とは言え生育場所によっては当然そのような条件にならないこともある。ここでは雨に濡れた花を選んだ。雨の日は花も葉の緑もつややかできれいに写る。常緑樹の暗い緑が背景になるような位置を選ぶことで、淡い色の花でも背景から浮き上がるからである。ピントはふくらんだ花の一番手前にしっかりと合わせることが大事で、三脚を使った方が間違いない。
千葉市若葉区 6月上旬
90mmマクロレンズ しぼり2.8 露出補正±0 ISO400
2-40
はんしょうづる
(半鐘蔓)
キンポウゲ科
クレマチスの仲間。雑木林の縁に見られる。葉柄がほかの木や草に絡みつく。その年に伸びた茎ではなく1年たった茎に花がつく。冬の間はあたかも枯れたように見えるが切ってしまうと花がつかない。自然公園と称していても通路の際はしばしば丁寧に草刈りをする。作業をする人は植物を知らないで機械で刈る。そういうところではいつまでたっても花がつかない。植物を大切にしましょうという看板がブラックユーモアになってしまう。そういう施設の管理者は植物を知っていなければならない。訪れた先で見つけたら支柱をしておくとさすがに刈られずにすむだろう。
花は下向きにつき、先端は半開き。これが江戸時代に火事を知らせた半鐘にたとえられている。キンポウゲ科の多くと同じく花びらはなく、紅紫色の部分は萼である。中におしべとめしべが隠れている。外からは見えない。
里山に自生してきたのを支柱を立てて守っている。撮影に関してはなるべく支柱が目立たないようにしたいものだ。二つの花が並んでいたので、両方にピントが合う位置にカメラを設置。後方にほかの花も入ってくれた。風のやや強い夕方、上を覆う木の葉が舞い上がって木漏れ日が降り注いだ一瞬、シャッターを切った。生き生きした雰囲気が表現できたと思う。花曇りでは色はきれいに出るが印象が弱くなる。
千葉市若葉区 5月中旬
70-200mm(200mm) F3.5 露出補正ー0.3 ISO800
2-41
おおかもめづる
キョウチクトウ科
かつてはガガイモ科に含まれていた。この仲間はいずれも落葉樹林に生えるつる植物でほかの草に絡みついている。互いによく似た小さな花をつける。
おおかもめづるの葉の形は個人的にはヘクソカヅラに似ていると思う。ヘクソカヅラは毛が多く、色もやや黄色みが入った緑色、他方オオカモメヅルは毛はほとんどなく、色は緑色がやや濃い。
花は直径4~5mmほどと小さい。写真でも見てわかるように裂片(花冠)に毛が有るのが特徴である。
写真を撮るときは透過光を受けている状態がお勧め。マクロレンズを通してのぞくと光を受けて赤みを増してきれいだ。そのためにわざわざ日が傾く時刻に撮影に行った。風に揺れるので三脚を使用した。モニターで拡大して花の中心部の白っぽい部分(ずい柱)とその周りの小さな赤い部分(副花冠)の両方にしっかりピントがくるようにし、絞りをやや絞って何枚も撮影した。
マクロレンズを使うと小さな花を画面いっぱいに撮りたくなる方が少なくないが、むしろ小さめに写した方がその花の持つ雰囲気がでると思っている。
千葉市若葉区 平和公園 6月上旬
90mmマクロレンズ しぼり4 露出補正+2 ISO800
2-42
くさなぎおごけ
キョウチクトウ科
おおかもめづると同じカモメヅル属のつる植物。名前が草薙の剣からきているのは愛知県で見つかったからとか。ところが千葉県の佐倉・四街道・千葉の3市の境付近の落葉樹林になぜかよく見られる。川村美術館の散策路でもみられ、この花を見るためにわざわざ訪れる人もいるという。
この花も透過光で見ると一層赤みが鮮やかになり美しい。花は花冠に毛がないことでオオカモメヅルと、ずんぐりしていることで近縁のコバノカモメヅルと違う。茎は長さ8~17cmほどの大きな葉が何枚かついて立ち上がってから先の方がつるになっているので、最初から横に倒れて伸びるオオカモメヅルと大きく異なる。
写真は自生地で保護のため支柱を立てているところで撮影した。夕方の光が樹の間から斜めに差し込む時間に撮影。
千葉市若葉区 5月下旬
90mmマクロレンズ しぼりF3.2 露出補正+0.7 ISO1600
2-43
こおにゆり
千葉県では湿原の花。7月下旬に咲く。長野県などでは山地の草原でも見られる。標高が1500m程度では8月上旬に咲く。
よく似たオニユリは葉腋に黒っぽいムカゴがつくがコオニユリにはつかない。
アップでも絵になるが、複数の花をつけている個体が湿原の縁にあったので、近くから広角気味の焦点距離で撮影した。背景はシンプルな方がよい。青空に抜くのもよい。ここでは少し離れた明るい緑の葉をつけた木々を背景に選んだ。複数の花のおしべにピントが来るような位置にカメラを置いた。
千葉県 7月末
24mm しぼり 4.0 露出補正±0 ISO 400
2-44
ひめさゆり
福島・新潟・山形県の一部に分布する。清楚な花。
福島県南会津町の高清水自然公園は有名。病原菌に弱いとかで、地元のボランティアが注意深くこの花を護っている。
写真は群生地近くのキャンプ場付近にある湿原を周遊する遊歩道で撮影。白樺の木を背景に夕方の光を背後から受けて静かに咲く花のはかない美しさに魅せられた。このキャンプ場にはロッジもある。格安で泊まれる。インスタント麺などを用意すればキャンプの用意がなくても大丈夫。風呂は車で数十分下れば、ホテルの日帰り温泉に入れる。このロッジに宿泊して夜明け前に群生地に移動し、朝の光を浴びたヒメサユリを見ればまた感動するだろう。印象が変わり、どちらかというと力強さを感じると思う。
福島県南会津町 高清水自然公園 6月末
24-105mm しぼりF5.6 露出補正+0.3 ISO800
2-45
やまゆり
山野に咲く百合。子どもの頃、梅雨明けが近づくと千葉県から農家の女性が背負いかごにいっぱいの山百合を売りに来ていた。近くの里山でたくさん咲くとのこと。部屋中に立ち込める濃密な香りが記憶に残る。
自分が千葉県に住むようになると、山百合がずいぶん少なくなっていることに気づいた。とても売りに出すほどない。しかし環境問題に、身近な自然に人々の関心が向う時代が来た。千葉市の郊外、雑木林に隣接する斜面はササで覆われがちだ。里山の再生運動をしているNPOの活動場所では下草狩りなどの作業によって野の花が復活し始めている。
ここでは里山の貴婦人といった雰囲気を表現したく、あえて広角でまわりの植生を取り込んで撮影した。
千葉市若葉区 7月中旬
16-35mm しぼりF16 露出補正ー0.3 ISO400
2本並んだヤマユリをアップ気味に撮影。背景の林から木漏れ日が光の玉ぼけとなっていた。対角線上に左下がりになっているのが美しく感じた。
大きく開いた2つの花の両方のおしべにピントが合う位置から撮影した。
茨城県フラワーパーク 7月中旬
使用レンズ100-400mm F5.6 +0.3EV ISO400
2-46
くされだま
サクラソウ科
漢字は草蓮玉と書く。平地から標高の高い湿原に見られる。
高層湿原では草丈が50~80cmくらいだが平地の湿原では1m半にもなる。
千葉県にあるのを知って驚いた。かつてヨシの採草地となっていた湿原である。おそらく氷河期に進出してきたものが、その後の温暖化にも関わらず何らかの原因で残っているのだろう。この湿原にはコオニユリ、サワギキョウ、ミズチドリなどさまざまな湿地性の植物が残る。地元の守る会が冬から春先にヨシを刈り取っているおかげである。
背景に多くの花が入りつつ主役の花が浮き立つようにカメラ位置と絞りを工夫する。
その後に得た情報では、1970年ころまでは北総部の都市周辺でも見られたとのこと。団地の造成などで姿を消したようだ。
千葉県 7月初旬
70-200mm しぼりF2.8 露出補正+0.3 ISO800
2-47
こうほね
川や池沼に生える。千葉市では自生地はごく少ない。この写真も栽培下のもの。地下茎から茎をのばし、水面から葉と花茎を立ち上がらせる。
周りを葉で囲まれているような花を選び、花の中心が見えるように撮影。
千葉市泉自然公園 5月下旬
APSC55-200(200mm) しぼりF4.4 露出補正ー0.3
ISO640
2-48
なるこゆり
(鳴子百合)
キジカクシ科
落葉樹林に生育。緑白色の筒状の花を一列につける。先端は緑色が濃く、半開する。数多くみられるが目立つ花ではない。茎は丸くて稜がない。
似た花にアマドコロとミヤマナルコユリがある。前者の特徴は茎に稜があり、葉が幅広い。後者にも茎に稜があるが花柄が一列ではなく左右に張り出す。
林の脇の小道を歩いていたら午後の傾きかけた光がこの花に射し込んだ。とたんに灯がともったように輝いて存在感を増した。花の列に平行になるように、しかもやや暗いところが背後に来るようにカメラ位置を調整した。
房総の村 風土記の丘 5月初旬
APSC55-200mm(200mm) しぼり4.4 ISO800
2-49
えごのき
初夏の落葉樹林を彩る。白い花を下向きにたくさんつける。撮影時期が短い。
道に張り出した枝を朝や夕方の光が透過するころ斜め下から見上げると、透過する光を受けた緑の葉と白い花の透明感が美しい。
里山を散歩していると、弱い雨が降り始めた。ふと足元を見ると白い花が落ちていた。見上げればエゴノキの枝がたくさんの花をつけて頭上を覆っている。望遠レンズにフードをつけて雨がレンズにかからない角度で見上げる。いくつもの枝がほぼ平行に並んでいてその先にすき間が空いている。次第に強くなる雨脚が背景をあいまいにする。明るめの空が幸いだ。プラス補正すると、花も葉も清潔感が感じられた。明るい雨の日は色のノリが格別だ。
千葉市若葉区 5月中旬
APSC 55-200mm しぼり8 露出補正+1 ISO800
2-50
はまぼっす
(浜払子)
サクラソウ科
海岸の岩場に咲く。茎は赤みを帯び、5弁の白い花が上向きに咲く。花が終わると赤い果皮が目立つ。
県立中央博物館の生態園に海辺の植物ゾーンに植栽されているのをかつて見たことがあった。いつか野生状態で見たいと思った。
数年を経て、ふと思い立って行きつけの南房総にとにかく行ってみることにした。あてもなく出かけたのだが、何のことはない駐車場を下ったところにいくつもの株があった。多くはややピーク過ぎのようだったが、小さな岬の垂直な崖の下に見ごろの大きな株があった。アップで見ても清楚な感じだったが、せっかくなので全体を撮影。
崖が海に面している以上、その直下の岩場にある植物は海を背景に撮影したくとも残念ながら難しい。
館山市 5月下旬
100-400mm しぼり16 ISO800
2-51
はまおもと
(はまゆう)
ヒガンバナ科
手元の図鑑にはハマオモトで掲載されている。ハマユウは別名で多くの詩歌にうたわれて親しまれているとある。海岸の砂地に生育する常緑の多年生植物。ハマオモトの分布限界は、年平均気温15℃、年平均気温15℃、年最低気温平均値ー3.5℃の等値線で表され、ハマオモト線といわれている。一般に霜が降りる地域では生育できないといわれており、千葉県の南部の海岸部が北限である。葉が集まって茎のようになっており、夏にその中から花茎を立て白い花をつける。南国の花であるから写真のように青空をバックにしたイメージがある。ところが日中に見た花はしばしば先が黒ずんでしおれている。ひょっとして夜咲く? と思って調べたら案の定、夕方から咲き始め真夜中に満開になるそうだ。いつか星空をバックに咲いた花の写真を掲載したい。花が終わり、結実すると花茎は倒れてしまう。やがて稔った実はピンポン玉を少し小さくしたくらいの白い球状。
画面には花だけでなく、大きく広がった分厚い濃い緑の葉を入れたかった。7月中旬に訪れたが少し時期が遅かったのか、多くが傷んだ花をつけていたのでよいモデルがなかなか見つからず困った。青空にたまたまよい形で薄い雲が広がったので画面の2/3を空にするよう広角気味の画角で接近してやや下から仰いで撮影した。
千葉県 南房総市 7月中旬
24ー105mm(24mm) しぼり8 ISO400
2-52
はまごう
シソ科
日本全国の海岸に生育するが暖地の海岸に多いとされる。常緑の低木でしばしば枝を横に這わせて砂浜に群落状に広がる。
千葉県立中央博物館の生態園に植えられたものは立ち上がって1mにもなる。葉にも枝にもよい香りがする。くちびる形の青い花をつける。
海岸の護岸ブロックにたまった砂に生えていた。花は大きめに、しかも背景に海が見えるように接近してやや広角気味で撮影。背が低いので低い位置から撮影。
千葉県 南房総市 7月中旬
24-105mm(40mm) しぼり8 ISO400
2-53
はまなでしこ
ナデシコ科
以前、スカシユリを撮影したとき岩場でちらっと見かけたことがあった。赤紫の花は強い印象を残した。そのときは数も少なく、遠くにあって撮影できなかったが、忘れがたくいつかはと機会を狙っていた。名前はハマナデシコであるが浜ではなく磯の花。
新型コロナウイルスの蔓延のため県外での撮影ははばかられたので、かねてより温めていた県内の海辺の花を撮影しようという考えを実行に移した。図鑑に当たると海辺の花は多くが夏に咲く。いくつかをまとめて撮影できるかもしれない。とりあえず南房総の旧知の岩場に出かけた。潮の引いた磯をめぐり岩場に上ると、すぐに目に飛び込んできた。強い日差しのもと白い岩の上で分厚い濃い緑色の葉に赤紫の花はとても鮮やかで目立った。うれしくて暑さを忘れいろいろなシチュエーションで撮影した。
千葉県 館山市 7月中旬
24-105mm(47mm) しぼり8 露出補正+1/3 ISO200
2-54
みやこぐさ
(都草)
マメ科
内陸にも見られるので海岸植物には必ずしも当たらないが、5月に当地に来たときは砂丘に広がっているのを見ている。2か月ほど後でしかも岩場で再会するとは意外だった。茎は地を這って広がる。岩場の上のわずか土壌で生育しているのを見ると命というもののひたむきさを感じる。
海辺で撮影する以上、可能ならば背後に海を入れたいとは常に思っているが、なかなか条件が整わない。今回は広角レンズを使って被写体に接近しつつ画角の広さを生かして何とか海と岬を取り込むことができた。
千葉県 館山市 7月中旬
16-35mm(30mm) しぼり13 ISO200
2-55
ねこのした
(猫の舌)
キク科
一度耳にしたら忘れがたい名前だ。葉を触った感触がざらざらと猫の舌を思わせると名付けられたとか。
茎は長く地を這い、枝分かれして広がる。茎の節のところから短い花序をだし先端に花を1つつける。
浜からちょっと高く上がった砂丘に広がっていた。終わった花が多かったので、咲いている見ごろの花を画面中央に配置した。夕方の傾き始めた太陽の光が斜め右から差していたので、厚い葉の立体感も表現できた。広角レンズを使い被写体に斜め上から近づいて、広い画角を利用して海と空を入れることができた。
千葉県 南房総市 7月中旬
16-35mm(16mm) しぼり16 露出補正+1/3 ISO400
2-56
かわらなでしこ
(河原撫子)
ナデシコ科
秋の七草のひとつナデシコ。草はらに咲く多年草。秋の七草とはいうものの立秋過ぎてからの暦の秋に咲き出すのはフジバカマとススキくらいで、その他は実際は7月から咲き出す。このカラワナデシコも花のピークは7月中旬。緑の草はらの中でピンク色の可憐な花を見つけたときは心躍る。千葉市内で自生しているなんて貴重だ。
リスク分散を考え、秋に種子をとって自宅の植木鉢で栽培を試みた。年内に上から見ると直径4cmくらいにまで成長して冬を越した。春になると急に丈が高くなってきたので、初夏を前に自生地に戻した。ところがもともとあった株から成長してきたものは茎が太く、しっかり花をつけたのだが、種子からのものは茎がきゃしゃで花をつけても倒れてきてしまう。おそらく2年目にはしっかりした茎を立てるだろう。観察を続けたい。
朝早く太陽が高く昇らないうちにと撮影に行く。ところが花にも周りの草にも日が差している。ピンクの淡い色の花は背景に紛れて目立たない。雲にさえぎられて日差しが弱くなると浮き上がって見える。そう一般に淡い色の花は背後が暗くないと目立たない。強い直射日光を受けると花の色も本来の色とは異なってしまう。多くの花の撮影で試行錯誤をしてたどり着いた結論。
ここではやや斜め下から撮影することで、高く伸びた花が離れた暗い常緑樹を背にするような位置取りになるようにした。野の花の写真ではどうしたら少しでも目立つようになるかをいろいろ考えなければ、ほとんど緑一色の背景では絵にならない。
千葉市 若葉区 7月中旬
90mmマクロレンズ しぼり3.5 露出補正+1/2 ISO200
2-57
おとぎりそう
(弟切草)
オトギリソウ科
園芸でヒペリカムとして赤い実が人気の植物の仲間。同じ属にビヨウヤナギやキンシバイなども含まれる。ところがこのオトギリソウは小さな花をつけ、草はらに紛れて咲いているのであまり注目を集めない。しかし名前の由来を知れば覚えやすい。
この草を傷を治す秘密の薬としていたものが、その秘密を洩らした弟を切ったという伝説があるという。葉、花弁、萼に黒い点があるが、それは飛び散った血の跡だというのだ。小さな黄色い花を茎の先の方につける。水田跡にはちいさな 仲間、コケオトギリも見られる。
撮影に際し、少しでも目立つように暗めの単純な背景を選んだ。
千葉市若葉区 7月中旬
90mmマクロレンズ しぼり2.8 露出補正ー1/2 ISO800
2-58
だいこんそう
(大根草)
バラ科
根ぎわから生える葉が大根の葉に似ているからという。少し湿ったところが好みなのか、撮影地では畔によく繁茂している。
花の時期は長いが、その分一斉に咲かずに花密度が小さく、花の終わったあとが目立つので写真向きとは言えない。たまたま比較的花が多く見られたので撮影したが、ここは翌年ドクダミに入り込まれてここまでの姿は見られなくなった。このように里山を歩くとまさに植物たちのせめぎあいの場だと感じる。たくさんな植物が命をつなごうと必死という趣だ。
花壇や畑などのように人間が特定の植物を栽培するところと異なり、野外では一般に特定の植物が群生することは少ない。色とりどりに咲き乱れる高山の「お花畑」ように非常に特殊な環境で選ばれた植物だけが生育できるところはやや例外的だ。ごく普通の環境ではいろいろな植物がせめぎあっている。その上人間の干渉が過去か、現在かかわっている。里山はその典型だ。ちょっとかく乱が過ぎれば外来種が入り込む。そのような環境で在来種の命の場を残そうと人間がある種の干渉をすることは悪だろうか。縄文遺跡で古代のひとの生活や文化を子供たちに伝える活動をしているボランティアの指導者の中に、こうした人間の干渉は「人間の思い上がりだ。ほっとおいて植物どうしの競争に任せればいい」と言った人がいた。縄文時代だって人々は自然に働きかけて食物をとり資源を加工して生きてきた。そうした長い人間の干渉の歴史の結果現在の植生が成立しているのだという視点をもっていないのだろうか。
千葉市若葉区 7月中旬
24-105mm(33mm) しぼり18 ISO800
2-59
ふしぐろせんのう
(節黒仙翁)
ナデシコ科
なぜかこの花が好きだ。スカシユリも好きで、毎年のように撮影に出かけるからオレンジ色の花が好きなのかもしれない。夏本番に雑木林の中で咲く姿は印象深い。茎の節が紫黒色を帯びているのが名前の由来。
よく撮影に行くのは武蔵丘陵森林公園の野草園。咲き方は当然毎年異なるのでなかなかベストな配置、光条件がそろわないので何度も通うのだが、コロナ禍で県外に撮影に行くのもはばかられる事態になったのが悔しい。入笠山の野草園や日光の東大植物園でも見た。東大植物園のはほぼ野生状態だと思うが、8月末に行ったのでよい被写体はなかった。野生で見たことは1度。印西市で知人に案内されて遠くから見た。放棄水田に隣接する林の縁に咲いていたが、とても近づけるような場所ではなかった。印象だけが残って今ではその場所がどこか思い出せない。
この花は光が当たった状態の方がより生き生きするように見えるのだが、この写真の撮影場所は木の陰。そのせいか丈が高く1m以上にもなるので上を向く花を写すのは難しい。できるだけ多くの花にピントが来るようにカメラ位置を決めると斜め上からになった。花には光が当たらないが奥の方に日が当たってなんとか明るい雰囲気になった。
千葉市都市緑化植物園 8月上旬
24-105mm しぼり6.7 露出補正ー0.5 ISO1600
2-60
やぶかんぞう
(藪萱草)
ワスレグサ科
農家の庭先などによく見られる。八重咲なので(おしべが花弁化した)、結実はしない。 一日花で朝開いて夜にはしぼんでしまう。
この仲間は花が終わった後の花がらが目立ちアップ系の写真では気になるが、少し引いた写真ではそれほどのこともない。それでも咲き始めでつぼみが多く残っている時期に写した方がよいと思う。この写真では左手につぼみを配置、花茎は同じ方向に傾いていたのでリズミカルに感じられた。
佐倉市 川村記念美術館 7月初旬
70-200mm (125mm) しぼり4 ISO800
2-61
のかんぞう
(野萱草)
ワスレグサ科
ヤブカンゾウの八重咲に対し、ノカンゾウは一重咲きと識別は容易。しかし手元の図鑑では別種ではなく変種との位置づけである。
水田の畔などやや湿ったところによく見られる。一日花で朝開き夜にはしぼむ。たくさんあるつぼみが次から次と開いていくので花の時期自体は長いが、終わった花がくっついているとあまり見栄えが良くないので、花期の早い時期に撮影したい。
この撮影地は放棄水田の脇。柔らかな光で花の色はよく出たが、背後が緑一色の草はらなのでインパクトには欠ける。中央の背の高い個体の左右にやや低い個体がならぶという山形構図になり、安定感が表現できた。
図鑑ではしばしば「ふつう結実しない」と表記されているが、少なくともここの個体はどれもよく結実し、黒い種ができた。少し持ち帰って鉢にまいたところ、数週間で芽を出した。冬に地上部が枯れたが、春に再び芽を出した。一年たって葉が10枚くらいになったものの背は低く華奢なまま。光合成で稼いだ栄養は地下部に蓄えているのだろう。この調子では花の咲くまでには数年かかるのかもしれない。増えたら原産地に戻そうと思っている。
千葉市若葉区小倉町 7月上旬
70-200mm(102mm)しぼり3.5 露出補正ー0.3 ISO800
2-62
おおまつよいぐさ
(大待宵草)
アカバナ科
北アメリカ原産でヨーロッパで品種改良されたといわれている。
夕方から咲き出し朝にはしぼむ。花の直径が7~8cmあり、大きく見ごたえがある。道路際や空き地に群生してふつうに見られる近縁種のメマツヨイグサは、花はずっと小ぶり。両者の一番の違いは茎に見られる。オオマツヨイグサの茎の毛の付け根は赤いが、メマツヨイグサは赤くない。
早朝遠方に向かう車窓から群生する黄色く輝く花を見つけた。そのまま先を急いだが翌朝再訪した。朝の陽の光を透過して黄色く輝くさまは美しいの一言。夢中でシャッターを切った。街中の空き地にあるなんて珍しい。この花を撮るためにわざわざ御宿海岸にまで出向いた知人がいるくらいだ。花茎をよくみると下から咲きあがってきたのがわかる。もう10日くらい早かったら、花茎も短く見栄えがもっと良かったかもしれない。ここでは手前に咲く花で主役の花茎を隠しておいた。逆光条件で手前を向いている花は多くはなかった。被写体探しにはその点も考慮したい。10時過ぎに通りがかったら魔法はすっかり解けてありふれた空き地になってしまっていた。どうりで何度か通ったのに気づかなかったわけだ。
後日談。案の定ドラッグストアとスーパーが建つことになり、半年後の2月には基礎工事が始まり土が大規模にひっくり返された。
千葉市若葉区小倉台 8月上旬 6時
70-200mmに1.4倍のテレコンバーターをつけて280mmで撮影
しぼりF4.5 露出補正+0.3 ISO200
2-63
かざぐるま
キンポウゲ科
園芸植物のクレマチスの品種改良の1つとになった植物。野外ではなかなか見ることができない。雑木林を背にした北向き斜面でやや湿ったところに生育。準絶滅危惧種。
千葉県では船橋市の花に指定されているように市内に野生株があり、アンデルセン公園では毎年挿し木講習会を実施し、増殖に努めている。ただし、いくら増やしても個人の庭先を飾るだけでは意味がない。本来の生育地を護り、増やした株もその近辺に植えて野生状態を維持していくことが大事だろう。
5月の連休が終わったころに咲く。花びらのように見えるのは蕚で8枚ある。蕚の形は地域差が非常に大きいので、野生株の生育地に別の地域の株、あるいはそこからの挿し木を移植してくることは絶対にしてはならない。小葉には鋸歯がなく、その点で同属のハンショウヅルと識別できる。
科学博物館のつくば植物園のクレマチス園は充実しており、各地から集めたものを植えて比較できるようにしている。センニンソウのように毛の生えた種子が11月頃にようやく熟す。
細かい雨の降る日に撮影。葉の表面がつやつやとして緑色も一層きれいに写った。
千葉県 5月上旬
24-105mm しぼりF4.5 露出補正なし ISO400
2-64
こうぞりな
キク科
初夏の田園地帯を飾る花。草むらや土手などで見られる。
茎に赤褐色の剛毛が生えているのが特徴。次第に強さを増す日の光を浴びて黄色い花が群れる頃、水の張られていた田では田植えが始まる。
この写真は農道の脇の土手に群生していたものを写した。いろいろな写し方をしてみた。マクロレンズでアップ気味に、標準ズームレンズで全体にピントを合わせる、そして望遠レンズで群生状態を圧縮気味にと。結局、望遠レンズで手前の花も奥の花もぼかしつつ中間の距離の複数の花にピントを合わせたものを採用した。画面に多くの花が入ることで全体がにぎやかになる一方うるさくなるのは避けられた。
千葉市若葉区 5月上旬
70-200mm(200mm)しぼりF4.5 露出補正なし ISO200
2-65
みやま
なるこゆり
キジカクシ科
雑木林の林床に生育。アマドコロやナルコユリに近い。茎には稜(角張っている)がある。葉はナルコユリより幅が広いがアマドコロほど厚みも幅もない。葉の付け根(葉腋)から花柄を斜めに張り出す。この方角が左右に分かれている。ナルコユリやアマドコロでは花柄は一列に並ぶ。
写真では花の並び方がわかるように斜め下から写してみた。背後の木々も入り込むように広角レンズを使った。ちょうど2つの個体が葉の先をくっつけるように生えていたので、下から見るとアーチ状に見えるのが面白く感じた。太陽の光が木々の間から降り注いでおり、下から仰いだためハレーションが入ってしまった。葉に透過光が入って明るい緑色が軽やかな印象をもたらしているかなと思っている。
この花が咲くころ雑木林は次第に緑を濃くしていく。林床にイチヤクソウが咲き、土手にホタルブクロが咲く6月初旬まで里山は花の短い端境期に入る。
千葉市若葉区 5月中旬
16-35mm(16mm) F8 露出補正+0.5 ISO200
2-66
のいばら
やや湿ったところでよく見かける。この写真の場所も元休耕田。いまはヨシやキショウブなどが生えている。歌曲の「野ばら」は「くれない もゆる 野なかの バラ」と詠んでいるが、ノイバラは白っぽい。そこでやや暗い背景を選ぶ。花の集団が斜め右上に向かって伸びていたので画面に動きが感じられる。ちょうど光が当たったノイバラは明るく元気な雰囲気を漂わせていた。左下に花のない部分が大きくならないように画面構成をした。
千葉市若葉区 5月中旬
APSC55-200mm(200mm)F4.5 -0.3EV ISO200
2-67
たにうつぎ
スイカズラ科
ヒメサユリを見に南会津の高清水 高原に行った折に撮影した。6月下旬。背の高さほどの灌木にピンク色の美しい花が鮮やかな緑をバックに咲いていた。日本海型の気候で多く見られるそうだ。軽井沢植物園でも美しい姿を見た。ウツギ(卯の花)は、アジサイの仲間で「空木」と書き、幹が中空であるゆえの名前であるが、このタニウツギも幹は中空。
夕方の斜光線が花々に降り注いでおり、漏斗状の花を立体的に表現するのにふさわしい光条件だった。
福島県南会津町 6月下旬
70-200mm F4 ISO400
2-68
ていかかずら
キョウチクトウ科
つる植物。他のつる植物とおなじくやや開けた雑木林の中や林縁部にあって地上を這い覆い、ほかの木に巻きつき登っていく。高木の上の方まで登り、ときに上から長く垂れ下がる。名前は歌人の藤原定家に由来。花は筒状で先端が5裂しプロペラのように少しねじれる。ジャスミンに似た甘い香りがする。
我が家ではジャスミンと間違って苗を購入してしまった。隣家との境のフェンスに絡みつき暴れまわって始末に困っている。枝を切ると白い乳液が出る。有毒だそう
だ。
写真は、自然公園の駐車場の脇の大木に絡んでいるところを、なるべく花密度の高い部分を狙って撮影。
千葉市若葉区泉自然公園 6月初旬
100-400mm F5.6 ISO1600
2-69
あぶらぎり
トウダイグサ科
高さ15mにもなる高木。中部地方以西~九州にかけて分布しているといわれているが、自生かどうかわからないようだ。中国原産で各地に導入されたとする説もある。
6月、南房総での撮影を終えて太平洋側を北上して帰ろうと車を走らせていたところ、御宿のあたりで車のフロントガラスに白い花が落ちてきた。車を路肩に寄せて見上げると大きな木に白い花がびっしりついていた。落ちていた白い花は甘い香りがした。持ち帰っていろいろ調べるとアブラギリだと。翌年佐倉市の川村美術館の散策路で同じ花に出会った。毎年見ていたが名札がなくそのままにしていたのだが、ここで結びついた。
低めの枝についていた花が撮りやすかった。花の集まりと桐に似た葉の両方を画面に入れつつ奥も少し入れることができた。
佐倉市 川村美術館散策路 6月初旬
24-105mm(105mm) F5.6 ISO400
2-70
ひめひおうぎ
ずいせん
アヤメ科
鮮やかな色で目立つ。庭先にしばしば植えられる。地下茎をのばしてその先に球根を作り増殖する。きわめて高い繁殖力。地方によっては栽培が禁止されているところもあるようだ。我が家でも一株導入したらとんでもないことになり、最近は見つけたら抜いているが、狭い庭でも抜ききれない。
写真写りは良い。特に群がって咲く花をまとめて写すと華やかだ。撮影した場所では透過光でやや黄色味を帯びた葉をバックにして低い位置にも花がちりばめられたので絵になりやすかった。望遠レンズを使い、しぼり開放で奥の高い花にピントを合わせたら手前の花は適度にぼけてくれた。透過光で花は一層鮮やかになった。花のバックはアジサイ。その少し暗いところに主役の花を持ってくることができたのもよかった。
成田市 坂田が池総合公園 7月上旬
70-200mm(150mm) F2.8 ISO200
2-71
ぶたな
キク科
遠目にはタンポポのように見えるが、花茎がずっと長い。ヨーロッパ原産。密生すると黄色いじゅうたんのように見える。
地面にロゼット葉をびっしり貼り付けて容易には抜けない。この植物が繁茂するとほかの植物が入り込めないほどで、問題のある外来種である。花期も長く9月に入っても咲く個体がある。タンポポ同様綿毛の付いた種子を飛ばす。草刈り機での除草を丁寧に行っているところほど、この草が密生するように思われる。おそらく他の植物が除かれて空いた土地に種子が落ちていったん定着すると、地際に張り付いたロゼット葉は草刈り機が刈るよりも低い位置にあるので刈られずに残るのではないか。一般に人為的なかく乱が大きいところほど外来種が入り込んで繁茂する傾向がある。その土地の植物相が壊されるからだろう。
写真にとる場合にはこのように密生しているところを選ぶ。木の幹が入っている方が広がり感を出せる。
千葉市若葉区桜木霊園 5月中旬
24-105mm F16 ISO400
2-72
なよくさふじ
(弱草藤)
マメ科
花序に赤紫色の花をたくさんつける一年草のヨーロッパ原産の外来種。
開通して比較的新しい道路の法面にびっしり生えていた。
このサイトで繰り返し述べてきたように外来種が旺盛に生育している状態は、人間によるかく乱により在来植物のコミュニティ(植物群集)が破壊されていることを示している。この場所も道路を通すことでそうした場所になった。
この植物に似た在来種のクサフジやツルフジバカマとは花の形と小葉の数に違いがある。ナヨクサフジでは花の筒状の部分が旗弁として立ち上がっている部分の長さより長い。在来種はいずれも両者の長さは同じくらい。さらに花の筒状に突き出た部分の先端より少し下前側に寄ったところに花を支える花枝がつくが、クサフジでは突き出た先端部に花枝がつく。小葉の数はナヨクサフジが10~14枚、クサフジは18~24枚。ツルフジバカマは小葉の数が10~16枚とナヨクサフジと同じくらいだが、花期が8月~9月と遅い。
花の写真としては群生しているものならその状態を写した方がよい。わざわざ花序1つを大きく写しても背景がごちゃごちゃしてきれいではないから。この場面でも土手に生えているので花を結んだ線が左上から右下に幾筋も連なるように見えるところに注目してしぼりを絞って写している。
千葉市若葉区 中田町 5月上旬
90mmマクロレンズ F13 ISO400
2-73
ぬまとらのお
サクラソウ科
オカトラノオの仲間で湿地に生える。千葉市内では非常にめずらしい。虎の尾という名前はあるが、オカトラノオやノジトラノオと異なり花穂はまっすぐに立っている。
非常によく茂るのに花をつける個体は多くはなく、写真を撮るときに複数の花穂を並べて写したいと思っても苦労する。なんとか3本並んでいるところを選んだもののそれぞれの距離が違い過ぎてピントは1本にしか合わせられなかった。
千葉市若葉区 7月上旬
70-200mm
F2.8 ISO800
2-74
ひよどりばな
キク科
秋の7草のフジバカマの仲間。花期は非常に長く個体によっては7月に咲くものがある一方、
10月に咲くものもある。落葉樹林の林縁に普通にみられる。山の草原では近縁種のヨツバヒヨドリが群生していることがある。この仲間は渡りをすることで有名なアサギマダラが訪れることで知られている。この写真ではモンシロチョウが来ていた。
千葉市若葉区 7月下旬
24-105mm F5.6 ISO400
2-75
かせんそう
キク科
Inula salicina var. asiatica
草原に生える。オグルマの仲間。茎の上部が枝分かれし、その先に上向きの花をつける。市内ではめずらしい。
上向きの花は写真には撮りにくい。花をよく見えるようにすると背景が地面になるし、背後を開けようとして花の高さで写すと、花を横から見てしまう。しかも夏の花だけにまわりはたくさんの草が生い茂っているので一層難しい。少しでも斜めに生えてくれればと思うがそうは問屋が卸さない。写真向きのモデルをこれからも探すことにしよう。
千葉市若葉区 7月上中旬
90mmマクロレンズ F2.8 +1EV ISO200
2-76
おにゆり
Lilium lancifolium
オレンジ色の花弁に濃い赤紫色の斑点を多数つけた派手な花。
ふつう見かけるのは栽培されているもの。種子はつけずに、葉の付け根に黒っぽいムカゴをつける。ムカゴは地面に落ち、根をだし、芽を出し、増えていく。
冬は地上部が枯れるが、地下に球根をつけ、早い場合2年すると花が咲く。発芽して年数を経過すれば丈は高くなり、花の数も増える。ここでは上部に落葉樹が茂っていたので斜め下から見上げるように撮った。背後が明るい緑色で葉の間からの光が玉ぼけ状になった。オレンジ色と明るい緑色の対比がきれいだった。
千葉市都市緑化植物園 7月下旬
90mmマクロレンズ F4.5 +0.3EV ISO400
2-77
せっこく
ラン科
セッコクは岩や他の木に根を下ろす着生ラン。。栄養は光合成で作り、水は空気中から手に入れる独立栄養生物。茎に水を蓄えている。葉を落とした茎に花をつける。株元から新しい茎をのばしそこに葉をつける。熱帯雨林ほど湿度の高くない日本で着生ランが自生しているのは貴重。古くから愛好家に栽培されてきたが、それは野生の株を取って自分のものにする行為で、その結果現在は自然状態では大木の非常に高いところでしか見られない。こうした私物化はまったく不愉快である。
野生状態のものを高尾山では杉のこずえに生育しているのを見ることができる。写真に撮るにはフルサイズで800mm以上が必要になる。APSサイズなら400mmにテレコン1.4倍つければなんとかなる。狭い登山道で三脚を用いるのは迷惑になるおそれがあり、手振れ補正のついたボディとレンズが役に立つ。
高尾山 5月中旬
100-400mm ✖1.4 F10 ー1EV ISO800
2-78
ふじ
マメ科
公園や神社などにフジ棚がつくられ多くの人が楽しんでいる。いろいろな品種がある。有名なのは足利フラワーパークの巨大な藤棚。
クマバチが蜜を求めて訪れている。
このフジはかなりの年数が経っているか太い幹を持っているが、低く仕立ててある栽培物で撮影しやすい。今回はあえてフジの裏側に入り込んで明るい外の新緑を背景にした。複数の花穂にピントを合わせつつ、しぼりを開け気味にして背後の花穂や新緑はぼかすという方法での撮影。この方法は枝垂桜にも使えるだろう。背後が明るいので露出は大きくプラス補正した。
2023年は花暦が例年より10日から2週間早く進んだので、4月下旬の撮影だが、例年のように初夏の項目で掲載した。なお、近くの放棄水田跡の湿地の柳の木に野生のフジ(ノダフジ)がたくさんの花を見事につけた。フジのようなつる植物は日当たりによいところに生える。したがって山林の中にフジが花を咲かせていたら、林が壊れている証である。
千葉市都市緑化植物園 4月下旬
24-105mm F5.6 +2EV ISO1600
2-79
せんだん
センダン科
「センダンは双葉より芳し」というセンダンは香木のビャクダンという別の木のことだそうだ。
羽状複葉のきゃしゃな感じの葉をもつ高木で、本来は四国以西の団地の海岸に自生するものとか。しかし栽培起源か千葉県でも多く見かける。花が咲いたときは目立つが、その時期以外はあまり目立たない。花はうす紫色の爽やかな小花を密生させる。1つ1つの花は5弁。谷津(谷戸)を望む道の際に大きな木が複数生育していた。
この花を撮るときは多くは望遠レンズなどで枝先の一部を拡大して切り取ることが多いが、今回はあえて標準レンズで多くの花を写しこんでみた。それはあまりにも花密度が高かったから。いろいろな角度で撮影してみた結果、2本の太い枝が画面を引き締めているカットを選んだ。他方、枝が見えず花ばかり豪勢に見えるカットは何となくポイントがないように思えた。上からの光を受けて花の色が白っぽく見えたので露出は少しマイナスにした。
市原市瀬又 5月下旬
24-105mm F10 ー0.5EV ISO400
Jimdo株式会社
東京都港区神道123
email: company@mycompany.com