花の写真と撮影ポイント


残暑のころ~秋の花 1


  8月の上旬には立秋。暑中見舞いは残暑見舞いに替わる。まだまだ猛暑が続くが日の入りがずいぶんと早くなっている。中旬を過ぎるころツクツクホウシがせわしげに鳴き、夕刻から虫の声がいつの間にか大きくなっている。植物も昆虫も毎年変わらずにリズムを刻む日長をカレンダーにしているので、生物季節は気温に先行して進む。

 秋に花を咲かせる植物は中緯度起源のものが多い。秋までにたっぷり光合成をして体を充実させてから花を咲かせても種子を完成するまでに時間的な余裕のある地域だから。種子は春まで休眠する。多年草は地下に栄養を蓄え、春まで休眠する。

 秋に咲く花は春の花と異なり背が高くなっているので、花写真は縦位置で撮るものが多くなる。


目次(掲載順)

 

3-1    やまはぎ            3-2   きつねのかみそり          3-3   しゅうかいどう

3-4    ひがんばな       3-5   つりがねにんじん              3-6   きつりふね

3-7    つくばとりかぶと  3-8     りんどう      3-9 紅葉

3-10    にら             3-11    つゆくさ つりふねそう

3-12    のこんぎく              3-13    かりがねそう        3-14    こすもす

3-15    いそぎく   3-16   なんきんはぜ  3ー17    えぞみそはぎ

3-18せんにんそう  3-19   たちふうろ  3-20   そばな

3-21   おみなえし   3-22   いもかたばみ 3-23のはらあざみ

3-24  さわひよどり  3-25  せいたかあわだちそう  3-26  さざんか   3-27  やまはぎ    3ー28  やまほととぎす 3-29  たまあじさい 

3-30  おけら     3-31  さくらたで          3-32  ほととぎす 

3-33  みぞそば     3-34  みそはぎ            3-35  くず 

3-36  いぬしょうま  3-37  きばなあきぎり 3-38  つたうるし(紅葉)  3-39  つわぶき            3-40  しゅうめいぎく 3-41  りゅうのうぎく     

3-42  からすうり      3-43  ゆうがぎく   3-44  こうやぼうき   

3-45  たこのあし        3-46  ががいも    3-47  おとこえし   

3-48  こしおがま     3-49  さらしなしょうま 3-50  やくしそう      3-51  やまらっきょう     3-52  あきのきりんそう 3-53  せんぶり 

3-54  ふゆいちご    3-55  ときりまめ            3-56    きっこうはぐま   

3-57   きんもくせい 3-58 つるふじばかま 3-59 こむらさき(実)    3-60   こまつなぎ      3-61 つりばな(実)  3-62 つるうめもどき(実)  3-63 つるぼ  3-64 しろよめな  3-65 じゅうがつざくら       

3-66 いぬたで  3-67 われもこう  3-68  きんみずひき     

3-69 ぽんとくたで   3-70  ひれたごぼう 3-71 やぶまめ       

3-72 ふじかんぞう     3-73 すすき  3-74    のあさがお       

3-75 ふじばかま    3-76 えぞりんどう     3-77 かんとうよめな        3-78  しらやまぎく


索引(五十音順)

 

アキノキリンソウ3-52  イヌショウマ3-36  イソギク3-15

イヌタデ3-66   イモカタバミ3-22   エゾミソハギ3-17

エゾリンドウ3-76  オケラ3-30  オトコエシ3-47  オミナエシ3-21 

 

ガガイモ3-46  カラスウリ(実)3-42  カリガネソウ3-13

カントウヨメナ3-77  キッコウハグマ3-56  キツネノカミソリ3-2

キツリフネ3-6  キバナアキギリ3-27  キンミズヒキ3-68

キンモクセイ3-57   クズ3-35  コウヤボウキ3-44  コシオガマ3-48  コスモス3-14  コマツナギ3-60  コムラサキ3-59  

 

サクラタデ3-31  サザンカ3-26  サラシナショウマ3-49

サワヒヨドリ3-24  シュウカイドウ3-3  ジュウガツザクラ3-65

シラヤマギク3-78   シロヨメナ3-64           ススキ3-73   

セイタカアワダチソウ3-25 センニンソウ3-18  センブリ3-53 ソバナ3-20

 

タコノアシ3-45   タチフウロ3-19   タマアジサイ3-29

ツクバトリカブト3-7   ツタウルシ(紅葉)3-38  ツユクサ3-11

ツリガネニンジン3-5  ツリバナ(実)3-61   ツリフネソウ3-11

ツルウメモドキ(実)3-62   ツルフジバカマ3-58  ツルボ3-63

ツワブキ3-39   トキリマメ3-55 

 

ナンキンハゼ(紅葉)3-16   ニラ3-10   ノアサガオ3-74

ノコンギク3-12    ノハラアザミ3-23

 

ヒガンバナ3-4   ヒレタゴボウ3-70  フジカンゾウ3-72 

フジバカマ3-75      フユイチゴ3-54  ホトトギス3-32 

ポントクタデ3-69   

 

ミゾソバ3-33   ミソハギ3-34

 

ヤクシソウ3-50   ヤブマメ3-71    ヤマハギ3-1,3-27

ヤマホトトギス3-28   ヤマラッキョウ3-51   ユウガギク3-43

 

リュウノウギク3-41   リンドウ3-8  

 

ワレモコウ3-67  


3-1

やまはぎ

 草かんむりに秋と書くまさに秋を代表する花。秋たけなわのころの花という印象をもつが、種によっては残暑厳しい頃から咲き始める。

 自分の中のイメージはどこかやさしげ。そのイメージに合うような枝垂れた枝を見つけた。小さなピンクの花が数輪、枝から直角に出ていた。画面の中で枝が対角線に下がり、2か所の花にピントを合わせられる位置にカメラを置く。花に光はきていないのでしっとりとした静けさを感じる。背景は日射しを受けて明るくさわやかである。

千葉市若葉区

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 3-2

きつねのかみそり(狐の剃刀)

 雑木林の林床に早い年には7月末頃から、地中からまっすぐに花茎をのばして、先端に数輪のオレンジ色の花をつける。彼岸花の仲間でやはり花と葉は一緒には見られない。葉は早春に伸び始め初夏のころまでみられる。その細長い形がカミソリの名の由来なのだろう。

 蚊の襲来と戦いながら構図を決めて撮った1枚は師匠からダメ出しを受けた。講評の終わり頃にこんなのも撮りましたと言ってだしたのがこの1枚。「いいじゃないですか。木漏れ日が花に当たって、花が生き生きしている。おまけに画面上花が対角線に並んでいて動きがありますね。上辺に木々が写りこんでいて林の中という状況もわかる。右下に空間が空いていますが、光が当たっているからまあいいでしょう。」 いわれてみればなるほど。そこまで意識して撮影したわけではない。林の中でスポットライトを浴びて目立っていたので気になって撮影しておいたもの。師匠の目の付け方にはまだまだ及ばないなと痛感した。そのときは直接指導を受ける最後の写真になるとは思ってもいなかった。師匠はこの年の暮れに病気が悪化して亡くなられた。

 

千葉市若葉区市民の森

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3-3 

しゅうかいどう     (秋海堂)

 江戸時代に中国から渡来した。雌の花は赤いがくがめしべを包み、雄の花は赤いがく2枚、赤い花弁2枚が黄色い球状に集まったおしべを包む。ベゴニア属。8月中旬から下旬ころ咲き出す。

 栃木市の出流地区にある「出流ふれあいの森」はこの花が小さな流れの両岸にびっしりと咲くことで知られている。この日は薄日が射す絶好の花写真日和。小川に入り、流れの美しいラインが対角線付近にくる場所で撮影。風がなかったのでスローシャッターで流れを白い雲のように写せた。花の数からすると、もう何日か後の方が良かったかもしれない。

 この地区はおいしいそばでも有名。帰りにはぜひ食べて地域経済に小さな貢献をすることをお勧めする。

 

栃木市出流ふれあいの森

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3-4

ひがんばな

(彼岸花)

 ヒガンバナを含むリコリス属は中国大陸にいろいろあるので、そこが原産地と考えられる。栗田子朗先生が染色体をもとに研究されている。彼岸花は染色体が3倍体といって同じ形の染色体が3つで一組になっている。この場合卵や精子に相当する細胞をつくるときに行われる減数分裂がうまくいかないことから、生殖能力がない。ほとんど結実しないし、種子ができても発芽しないという。繁殖は球根による。(ちなみにヒトは同じ形の染色体は2つで一組の2倍体。体細胞には23組46本の染色体があり、精子や卵には23組から各1本ずつの計23本が渡される。)

広がった花に長いおしべとめしべ。こうしたつくりのヒガンバナやユリなどはチョウが花粉を運んでいる。

それにしても毎年秋の彼岸前後に咲く仕組みはどうなっているのだろう。最近の研究によると5月頃には花芽ができているが暑い時期は休眠を続け、寒さが来ると花茎をのばし始めるのだそうだ。実験では早く寒さを経験させると開花時期が早まり、高温状態を長引かせると12月頃まで開花を遅らせることができたという。

 花の写真では花芯(おしべ、めしべ)にピントを合わせるが、ヒガンバナでは花弁の分かれ目のところに合わせる。雨上がりの夕方、雲が切れて斜光線が射してきた。一群の花の中に三脚を設置して一輪をクローズアップ。絞りを開けて前ボケ、後ボケをつくる。水滴が玉ボケとなって写りこんでくれた。

 

千葉市若葉区

90mmマクロレンズ  しぼりF5.0 露出補正+1.5

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3-5 

つりがねにんじん

 

 雑木林の林床にみられるキキョウの仲間。釣鐘のような花をいくつかの段に数個ずつつける。早いものでは8月初めころから咲き始める。キキョウの仲間はおしべが先に成熟し、ハナバチの仲間が花粉を運び去ったころめしべが長くなり先端(柱頭)が3つにわかれて他の花からの花粉を受け入れる。両性花といっておしべとめしべが一つの花の中にあっても、この花のように自家受粉を避ける仕組みをもっているものが多い。他個体の遺伝子と組み合わせて、より多様な子を生み出す方式として進化したのだろう。ちなみに栽培植物では稲をはじめ自家受粉するものが多い。人間による選抜(人為選択)の結果なのだろう。メンデルが遺伝の研究にエンドウを使ったのも昆虫が邪魔しない自家受精する植物だから。この写真ではめしべの先端が分かれているのが見えるので、花としては後半のもの。

イネ科の草が同じ方向に曲がってリズムをつくっている。これを生かそうと考えた。後方にある別の個体と花が重ならないように、背景を選ぶ。カメラ位置を下げて画面の下の方は手前の草を前ボケとする。自分なりに考えた画面構成で満足しているけれど、風景写真や花のある風景写真と並べられると、どうしても地味な印象。日本の花はひそやかで地味なのが多いんだよ!それがいいの、分かる人には分かると心の中で叫んでいる。

 

成田市 房総風土記の丘

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3-6

きつりふね

(黄吊舟)

(黄釣舟)

名前は黄色いツリフネソウの意味。千葉県ではツリフネソウは9月末頃から赤紫色の花を葉の上に出して咲き、キツリフネは10月上旬頃から葉の下に黄色い花をつけて咲く。どちらも花茎から横向きの壺型の花を吊りさげる。その様子から名前がついたのだろうか。ホウセンカの仲間で湿地や湿った場所に咲く。実は熟すと果皮が割れて種子が飛び散る。多年草で地下茎でも増え、繁殖力は旺盛。群落状になる。花の後方に距(きょ)という弧を描く長い突起があり、蜜を含んでいる。マルハナバチなどが潜って蜜を得るときに花粉を運ぶ。

花の中央部の模様と距の両方が見えるように撮りたい。できれば透過光で葉の緑や花の色をきれいに見せたいのだが、この日は霧雨状態でそれはかなわなかった。

 

千葉市 都市緑化植物園

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3-7 

つくばとりかぶと(筑波鳥兜)

 

 トリカブトといえば有名な有毒植物。狂言の中で「ぶす(附子)」として登場。有毒成分は根に多いが全草にふくまれ、春の山菜取りの際、他の食用の植物と間違える事故があるという。花の形が頭巾に似ている。沢筋や湿地など比較的湿ったところに多い。トリカブトの仲間にはヤマトリカブトなど多くあるが、関東地方の平地ではツクバトリカブトというものらしい。10月初旬ころから咲き始める。

斜面に生え手前に倒れ掛かってきていた。その様子を後方に葉を取り入れて花の正面から撮影してみた。花弁が薄いのでやわらかな透過光でみるときれいだ。

 

千葉市 泉自然公園  10月中旬

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3-8

りんどう (竜胆)

 

 桜の落ち葉が早々と散り積もるころ、秋の花も終盤を迎える。

11月初旬,雑木林の林床にりんどうが咲き始める。日がかげると花を閉じてしまう。茎がしばしば横に倒れてしまい、花は地面近くに咲いていることが多いたまたま直立していて異なる高さに2つ花がついている個体を見つけた。少し斜め上から撮るとリンドウ独特の花弁の小さな白い斑点模様も筒の内側の模様も見える。2つの花の両方にピンが来るようにカメラ位置を厳密に捜す。木漏れ日が結構強く花に当たっていた。花の色が赤っぽく見える。そこで自分の体で陰をつくってみた。どうやらリンドウらしい色に見えた。背後まで全部日陰では陰鬱な感じになるので、左上は光が当たったままにする。セルフタイマーで撮影。しっとりとした花と少し華やかさをもった背景の取り合わせが演出できたのではないか。

 

四街道市   11月初旬

 秋の午後は早くも陽が西の空へ傾きかけていた。リンドウの花の背後の林に差し込む光は少し暖色系に変わっていた。

 写真ではリンドウの花の色はなかなかでないが、この場合はホワイトバランスを微調整してそれらしい色がでた。

 手前の花にピントを合わせ、背後の花や木々はぼかして柔らかく表現した。

 

赤城自然園  11月初旬

90mmマクロレンズ  F3.5 +0.3EV   ISO400

WB5800

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3-9

 紅葉

 千葉の紅葉は関東地方でも最も遅い11月末から12月初旬。信州の山や東北地方のように全山紅葉などは望むべくもないが、1本1本なら十分色づいて楽しめる。佐倉藩110万石の城跡は緑あふれる散策路になっており、春の野の花、花見、花菖蒲、夏の緑陰と四季折々楽しめる。隣接地に国立歴史民俗博物館、近くには武家屋敷も残っている。

 夕方近く斜光線に浮かび上がったモミジの木はところどころ微妙な色の違いがあって、一面のあかい紅葉とは一味異なった趣があった。樹形がきれいに広がって見えるように幹を右下に置き、左側に向かって枝が展開するように画面構成を考えた。

 

佐倉市 佐倉城址公園

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 3-10

 にら

 学生時代、大学の駅前の中華料理店でしばしば「レバニラ炒め」を食べた。ほろ苦い豚レバーに香りのあるニラがよく合って食欲をそそったものだ。

 このニラ、じつは野生植物としてあちらこちらに生えている。普段は目立たない。存在感をアピールするのが、9月初めの花の頃。明るい緑の葉を背景に咲く真っ白な星のような花は十分に美しい。ここではめずらしく群落状に広がっている。縄文の貝塚遺跡である「荒屋敷貝塚」である。

 ところでこの遺跡は破壊されそうになった歴史がある。ここを突っ切って京葉道路を通そうとしたのだ。しかし市民の反対で遺跡の下をトンネル状に通す案に変更された。文化財より経済という時代にあってよく守られたものだ。反対した市民に敬意を表したい。

 地形的には谷津田に向かって舌状に延びた台地。6000年前くらいは今よりかなり温暖で、海水面が高く、海は埼玉県の大宮辺りまで広がっていた。そこで縄文の人々は、目の前の谷津田から丸木舟で容易に海に出られた。干潟でアサリやハマグリなどの貝を取ってきたようだ。多摩川や江戸川などの河川が運んできた砂は千葉県側に多く堆積したので、浦安から船橋、そして千葉、木更津あたりに干潟が広がった。このことが貝塚の発達の背景にあると考古学者にうかがったことがある。陸奥湾では急に深くなるので干潟が発達せず、三内丸山遺跡では貝塚がないとも伺った。

 

 ニラの花を撮影していたらキアゲハがやってきた。それからはチョウにそっと近づき、マニュアルフォーカスで目にピントを合わせては連写することに。この花は蜜もたくさん出すようで、キアゲハはしっかりストローを伸ばして吸蜜していた。シャッター速度を稼ぐため、しぼりを開けたので、チョウの周りの花だけにピントが来て、まわりはやわらかにぼけてくれた。

 

千葉市若葉区荒屋敷貝塚 9月中旬

24-105mm F4.5 -0.33EV ISO800 手持ち 

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3-11

 つゆくさ 

 つりふねそう

 

 9月下旬 谷津田の一角に整備されたビオトープでツリフネソウに囲まれたツユクサの花を見つけた。

 ツユクサの花からは青い水性染料がとれる。熱で消える性質があるそうで、栽培種のオオボウシバナが染物の下絵に使われるとか。4つの黄色いおしべが目立つが、いずれも花粉を出さない。花粉を出すのは下の方に伸びている2本だけ。花は半日花で昆虫により受粉しないと閉じる前に自家受粉する(NHKのすばらしい映像がある)。

 ツリフネソウはホウセンカの仲間。「属」名はインパチエンス。栽培植物のアフリカホウセンカがしばしばこの名前で園芸店に並ぶ。語源は impatient(形容詞)(短気な、我慢できない)。実に触るとはじけて種子を飛ばすことからついた。

 花の後方に渦を巻いたような距が伸びており、蜜はそこにある。撮影しているときにクマバチがきた。彼らには入口が狭いので、距の横腹に口を刺して受粉をせずに蜜を横取り(盗蜜)していた。またスズメガの仲間のホシホウジャクも花を訪れる。ときにホバリングしながら長い口を伸ばして蜜を吸っていたが、この場合は受粉に協力していない。ときには花の中に頭を突っ込んでいることもあった。この場合は受粉に協力しているのだろうか。植物も蜜をただ取りされては大変である。

 

千葉市若葉区  9月下旬

180mmマクロレンズ しぼりF5.6 露出補正なしISO800 三脚使用 

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3-12

のこんぎく

(野紺菊)

 

 秋風が吹くころ田んぼの周辺や草はらに咲く「野菊」の仲間の多くはこれまで冠毛の長さが短いヨメナ属と長いシオン属に分けられていたが、DNAをもとにした分類学ではともにシオン属(Aster)に含まれるようになった。

 一番多くみられるのがノコンギク。葉は3本の主脈がめだち、両面がざらつく。縁はまばらな浅い鋸歯をもつ。葉柄は明らか。冠毛(タンポポの綿毛に相当する)は、5~6mm。花色は白~うす紫色。

 水田跡など湿った所に生えるのがカントウヨメナやユウガギクでヨメナ属とされていた。前者の葉はすべすべして、葉柄はほとんどない。冠毛は短い。後者の葉はうすく、ざらつかず、下部の縁は鋸歯というより深く入り込んで羽状である。花はつぼみを含めて白色。冠毛は短い。

 ほかに花数の少ないシラヤマギク、花の小さいシロヨメナ、花期が11月頃で葉に樟脳に似た香りをもつリュウノウギク(Chrysanthemamu 属)などがある。

 写真はノコンギク。終わった花のないものを捜していて、ススキ草原の中に草刈りしてつくった小路の脇に生えているのを見つけた。3本の茎が左から右に同じような曲線を描いて伸びている繰り返しのリズム感に、どこかなつかしい野菊の雰囲気が表れているように思えた。

 彼岸過ぎて少しした頃、午後の太陽は早くも傾き始める。穏やかな秋の日が射しこむ草間の小路を背景にして、花が重ならないようにカメラ位置を決める。背景が明るいので花の中心部がやや暗くなる。しわしわにしたアルミホイルをボール紙に貼った手製のレフ板を使い花に弱い光を当てて明るさを補った

 

千葉市若葉区 9月下旬

180mmマクロレンズ   F5.6 +0.5EV  ISO400 三脚使用

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 左の写真はシロヨメナ。ノコンギクと比べると花の大きさは明らかに小さい。葉はほとんどざらつかない。葉柄はほとんどない。


 ユウガギク。下部の葉が見えるように、単独で生えているものを撮影した。

水田の畦に咲いていた。

 花はノコンギクに似ているが、茎の下部の葉では縁が深く羽状に入り込んでいる。群落を形成している場合、下部の葉は枯れてしまっていることが多い。その場合は識別に使えない。上部の葉は細く、鋸歯はない。葉の裏側が多少ざらつく気がするが、ノコンギクとは形も含めて明らかに違う。小枝は主軸の茎に真横に出ているのも識別ポイントの1つ。

 


3-13

かりがねそう (雁草)

 変わった形の花で一度見たら忘れられない印象が深い花。花の時期は9月上旬から10月上旬頃。名前は花の形が飛ぶ雁を連想させるから。左右に開いた花びらが翼で、長く伸びたおしべ、めしべが首をイメージするのだろう。花の優雅さに誘われて近づき触れようものなら、強い臭気に 驚いてしまう。高さ1mほどにもなる。

 小枝が主軸から横に長く広がり、写真を撮る立場で見ると何ともまとまりをつけにくい。しかも複数の花がいい形で展開しているものが少ない。ちょっと時期を逸すると花の終わった跡が目立つ。というわけでなかなか手ごわい植物だ。

 撮影で一番注意することは、長く伸びたおしべ、めしべが曲線を描く様子が見えるようにすること。それには花の上下に長い向きとおしべの向きが重ならないようにカメラ位置を設定することが肝心。もちろんピントは複数の花に合わせる。花弁にある模様にしっかりピントを合わせれば、しべは形が分かる程度で十分。その上で背景にも気を配る。周囲の個体の枝が交差するように入り込むなどは絶対避ける。この写真では主役の右後ろにぼかした花を入れられた。このようにいくつもの条件を満たす枝はそうそう見つからない。よいモデルに出会うまで何年もかかるのに、さらによい背景、よい光条件を求めるので、ある程度納得のいく花の撮影は野の花では何年もかかるのは覚悟しなければならない。 

 

千葉市 都市緑化植物園

180mmマクロレンズ、ISO 400, WB 晴天、しぼりF4.5AE、+0.5EV 三脚使用 

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3-14

 こすもす

 その日、海辺にある三陽フラワーミュージアムは台風の影響で風が強く、前庭のコスモスは大きく揺れていた。しかも初めはほとんど雲もなく日射しばかりが強い、花写真撮影にはあまり適さない条件だった。そんな中でも受講者や撮影実習に参加された高浜写真同好会の皆様は意欲高くシャッターを切っていらしたのに、私の方は「これじゃ無理だよなあ」と例によってひとりぶつぶつ言いながらうろちょろするばかりだった。終了時刻が近づく頃、ふんわりした綿雲がでてきた。前ボケに白いコスモス、背後に綿雲を配置して、露出をややハイキー気味にすれば、ちょっと「ゆるかわ」写真風になるのではないかと思いついた。それから1時間、手持ち、マニュアルフォーカスで揺れ揺れる花の中心部にピントを合わせようとシャッターを切り続けた。

 

千葉市 花の美術館

180mmマクロレンズ、 しぼりF5.6 露出補正+0.5 ISO800、手持ち 

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3-15

いそぎく(磯菊)

 

 文字通り磯に生える菊。ほかに咲く花のあまりない11月中旬ころにピークを迎える。海岸の近くの岩場や風衝草原に生育。葉の縁が白く隈どりされており、なかなかおしゃれで庭にも植えられている。千葉県から静岡県に分布。千葉県に住むものとしては身近な花だが全国的にはめずらしい。

 野の花は植物園に植栽されているのではなく、できるなら本来の生息地で撮影したいものだ。そこで磯の花は銚子や野島崎に出かけて撮影する。ところで花は太陽に向いて咲くので、海辺の花も南に広がる海の方を向いていることが多い。そこでたいていは海を背にしなければ写せない。なんども出かけて南西を向いている崖をようやく見つけ西から覗いて背後に海を少し入れて撮影できた。

 

銚子市  11月中旬

24-105mm(29mm) しぼりF16 露出補正なし ISO400

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3-16

なんきんはぜ

 

 近年、街路樹として増えてきているのがヤマボウシとナンキンハゼ。前者は端正な白い花の美しさ、後者は秋の紅葉の美しさによる。

ナンキンハゼの紅葉は緑、黄、赤、紫と色とりどりに染まるのが魅力。葉が落ちた後は実が裂け表面にワックスを帯びた白い種子が現れる。これをシジュウカラがくちばしでこそいで食べる姿を見たことがある。食料の少ない冬場に貴重なエネルギー源としての脂質が含まれる。

 日本の街路樹の常で、樹冠を電線が通り美観を損ねていることが多い。この写真も電線を避けて樹冠の下半分で切り取っている。道の両側に植わっているので、手前の枝葉の隙間を道の反対側の葉で埋めることができた。幹は画面左3分の1に寄せた。やや逆光気味で光が葉を透過するようにした。色どりの美しさが一層引き立つ。順光ではこの美しさは出ない。

 その後この街路樹は秋に色づく前に丸坊主に剪定されるようになり、このような光景は見られなくなった。落ち葉の処理が迷惑と沿道の市民からの苦情でもあったのだろう。

 

四街道市 鷹の台

170mm相当F10、 露出補正;+0.33Ev 手持ち、ISO800

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3-17 

えぞみそはぎ

 

水辺や田んぼのわきなど湿った環境を好む。高さ1.5mにもなる。ミソハギ科。この科にはサルスベリが含まれるという。8月の上中旬に花の最盛期を迎える。

よく似た種のミソハギは盆花として田んぼの周辺に植えられる。エゾミソハギは茎、葉、萼などに短い毛が生えることと、葉が茎を抱く(ミソハギと違って葉の付け根に短い柄がない)ことおよび蕚(がく)の先端が上向きであることでミソハギと区別できる。ちなみに千葉市花の美術館ブログに両者の違いが写真付きで詳しい。

 太陽はすでに高く上がり強い光を降り注いでいる。そのまま撮っても光のあたる部分と陰になる部分のコントラストが強く、色もいたずらに濃くなって美しく見えなかった。そこで背景は明るいまま主役とする花に蔭を落として撮影することにした。カメラを三脚に取り付け構図を決めピントを合わせてセルフタイマー2秒設定にする。シャッターを押すとすぐに手に持った帽子で蔭をつくる。花が暗くならないように露出をプラス補正する。補正量を変えてなんども撮影。プラス1.33EVを適正露出と判断。あとは背景に余分なものが入っていないか、多くの花にピントが合しつつ背後はボケるか、プレビューボタンを押してモニターで確認しながら絞り値を決めた。

 

千葉市若葉区  8月中旬

90mmマクロレンズ  ISO200  F4  +1.33EV 三脚使用 

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3-18

せんにんそう

(仙人草)

 

 明るいススキ原や林縁などに生えるつる性植物。茎からのびた葉柄に3~7個の小葉をつける。この葉柄が他の植物にからみつき、安定する。8月下旬ころ白い花が咲く。白い花びらのように見えるのは蕚。葉や茎に皮膚かぶれを起こす有毒物質を含むという。茎をちょっと触ったがそのような症状はなかった。しかし気をつけたい。

 花が終わるとめしべの先端がのび、そこに白い長い毛が生える。これを仙人のひげあるいは白髪にたとえて名付けられたともいわれている。

 撮影に際し花にかぶさるススキの葉をどけたり、はさみで少しカットしている。自然感は減ったが花はよく見えるようになった。道端の土手に生えたススキにかぶさり、上から下がるように広がっていた。花の並びが弧を描くように見えたので、その点を強調するような構図とした。左奥には萩の花が見えている。白い花は強い直射日光が当たるとみな「白とび」してしまう。そこでやわらかな光のもとで撮影した。

 花写真は限られた花の時期によい光条件に恵まれることが前提。今回は近所だったので、撮影しては構図や光の当たり方を検討し再度撮影をするということができた。はじめてカメラを向けてから1週間経って花つきもよくなり、やわらかな光も得られて撮影できた。

 

千葉市若葉区 8月下旬

FujiXーT10(APSCサイズ) 18-55mm(29mmで使用)

 F13 +0.67EV 

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3-19

 たちふうろ

(立風露)

 

 ゲンノショウコの仲間。草原や林縁に生える。花びらに濃紅色の脈が入る。基部には白い毛がある。

 この仲間には高山植物としてハクサンフウロ、タカネグンナイフウロがあり、中部地方に赤みの濃いアサマフウロがある。いずれも美しい花である。草むらの中にあってひとつひとつの花が離れて咲くことが多く、写真に撮りづらい。

 めずらしく1株から2輪がそろって並ぶように咲いていた。後ろがボケているだけでは単調ではあるが、他の草が写りこんでもきれいな画面にはならないので、絞りを開けて撮影した。

 

千葉市若葉区

90mmマクロレンズ F3.2 +0.33EV  三脚使用

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3-20

森 静か

(そばな)

 ツリガネニンジンと同じくキキョウ科  Andenophora  属。

 

 7月末八ヶ岳の縁をぐるっと回るように旅行した。絹のような雨が時折降ってくるような日、森の縁に静かに咲いていた。

 ここ八千穂高原は白樺林の美しいことで有名。その一角にある自然園は森の中に散策路があり、季節ごとにいろいろな野の花が楽しめる。

 荷物が重くなるのを避けてミラーレスカメラを持参。18-55mmレンズをつけても700gほどとはありがたい。絞りはF3.2と開放気味にしてもレンズの焦点距離が短いので背景のボケは弱い。その分、森の雰囲気が表現されていると思う。右上に明るい緑の中に木漏れ日が玉ぼけで入り、右下には水の流れが写ったので、全体が暗いトーンにならずに済んだ。

 

長野県 佐久穂町八千穂自然園 7月下旬

XーT10 18-55mm しぼりF3.2 露出補正+0.33 

手持ち

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 3-21

秋来ぬと

(おみなえし(女郎花))

 

 かつてはオミナエシ科に分類されていたが、最近のDNAによる分類体系ではスイカズラ科になっているようだ。日当たりのよい草地に生える。山上憶良の歌による秋の七草(萩の花尾花葛花なでしこの花女郎花また藤袴朝貌の花)のひとつ。枝分かれした茎の上部に多数の黄色い小花がつく。

 写真では絵にしにくい花である。普通草むらに1株、2株と立っているが、なにしろ一つ一つの花が小さくて茎ばかりがめだってしまいまとまりがつかない。多くの花写真のように横から撮ることはせず、やや上方から見下ろし気味に撮影した方が小花の展開ぶりがよく見えるし画面に広がりが出ると思われる。

 夏、津南町(新潟県)にすむ大学の後輩を数十年ぶりに訪ねた。有数の豪雪地帯として有名であるが、景色と水のきれいな町、おいしい米の産地としても知る人は知るところである。信濃川とその支流によって形成された河岸段丘は日本一といわれる規模である。近隣には風景写真によく登場する「松之山の美人林」や「松代、星峠の棚田」がある。規模の大きな「ひまわり広場」も有名。訪ねたが駐車場満車のため諦めてほかの名所に回ろうとしたとき、道の奥に黄色い色が視界に入った。なんだろうと車を回してもらったら一面のオミナエシだった。出荷用の栽培畑のようだったがなかなか見事な光景。密度のある部分に十分近づき、やや覆いかぶさるようにカメラを構え、しぼりを絞って撮影。青空と白い雲がくっきりするようにPLフィルタを使用した。

 

新潟県中魚沼郡津南町

Fuji X-T10  18-55mm しぼりF14 露出補正+0.5EV 

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 3-22

いもかたばみ

(芋傍食)

 

 ご近所写真! このサイトは野の花を中心に紹介しているし、花の時期も4~10月と長いので、秋の花として紹介するのはちょっと場違いかもしれない。けれども花写真は遠くまで行かずとも撮れるという点で紹介しようと思った。南アメリカ原産で庭先によく植えられるようになった。地下部に茎が変形した「芋」(塊茎)がある。ちなみに同じカタバミ科でやはりピンクの花をつけるムラサキカタバミは、地下部に葉が変形した球根(鱗茎)をもつ。タマネギが同様の構造をもつ。

 雨の降りそうな曇天だったが、WB(ホワイトバランス)は晴天モードにしてある。主役の3つ花を中央部に置き、後方にある花は主役と重ならないように画面のやや上辺に配置した。華やかな明るい雰囲気になるようにピンクの花を画面に多く取り込んだ。

 

千葉市若葉区

90mmマクロレンズ しぼりF2.8 露出補正+0.33EV ISO400 手持ち 

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3-23

のはらあざみ

キク科

 

 アザミの種類は多いが北総台地でふつうにみられるアザミは限られている。春はノアザミ、秋はノハラアザミ、トネアザミくらいだ。

 ノハラアザミは花のすぐ下の総苞にあるとげ(総苞片)が斜め上向きに開いている。春に咲くノアザミは総苞が粘っているので区別は容易。ススキ草原のような日当たりの良い草はらに見られる。茎から複数の花茎が枝分かれする。1つの花茎に1つの頭花をつけ1つの頭花が終わると別の花茎の頭花が開くので、1つの個体で複数の花が同時に開いていることはない。頭花には雄性期と雌性期があり、雄性期が先に来る。虫が花の表面を刺激すると、花粉がでてくる仕組みがある。この時期が写真撮影に向いている。

 写真はススキ原に生えているものでカラスウリの葉がからまっている。日の当たらない黒っぽい樹林が花の背景になるようにカメラの位置・高さを選んだ。

 

千葉市若葉区 9月下旬

90mmマクロレンズ F3.2  露出補正ー0.3 ISO400

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3-24

さわひよどり

 

 フジバカマやヒヨドリバナのなかま。湿った環境に生える。 

 このなかまは頭花に2裂した白い糸状の花柱が伸びている。

 やや厚みのある細長い葉が対生している。表面はざらつく。葉柄がないのは識別ポイント。

 大昔の海食崖。砂の層と粘土層の間から常に水が滴っている。一連の崖の大部分は樹林で覆われているが、この一角だけはしばしば崖がはがれるため特異な環境に適した植物が生育している。背後に崖が迫っているので、後ろをぼかして主役を目立たせるという撮影方法があまり効果を持たない。

 

千葉県旭市 10月下旬

90mmマクロレンズ しぼりF4.5 露出補正+0.5  ISO800

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3-25

せいたかあわだちそう

(背高泡立草)

 

 やや湿った環境を好むようである。休耕田などで大群生する。北米原産であるが戦後急速に全国的に広がっていったようである。地下茎を伸ばして増えていく。根から分泌する化学物質が他の植物の生育を抑えることが知られる。このような作用を「他感作用(アレロパティ)」という。この作用のせいで70年代には人里の荒れた草地はすべてこの植物に覆われてしまうのではないかと思われた。ところが年月が経ってみると必ずしもそうはならず、古来からあるススキの方が優勢になっている場所が少なくない。

 強い雨が降った翌朝、水分を含んで重くなった花が手前に倒れていた。まるで黄色い波がしらが押し寄せてきているように感じた。やや高い位置から見下ろし気味で群落全体をとらえた。後方に木々が入ってアクセントになった。曇り空であったのでカメラのモニターで確認した花色は実際より青みがかって見えた。WB(ホワイトバランス)を色温度で5800にしたら目で見た印象の色になった。

 

千葉市若葉区 10月中旬

24-105mm(40mm) しぼりF16 露出補正-0.5 

ISO1250 三脚使用

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3-26 

さざんか

(山茶花)

 ツバキ科

 

サザンカと椿のもっとも大きな違いは、サザンカが花びらをひとつひとつ散らすことである。近年都市公園によく植えられている。花の少ない冬に少しでも色を添えたいからであろう。おかげでこの花の蜜を求めてメジロがよく見られるようになったので散策の楽しみが増えた。

 晩秋の日も傾き始めた頃、背後から明るく光が降り注ぐ1本のサザンカが目に入った。花密度の大きなサザンカはなかなか見つからないだけに魅力的だ。こうした被写体ではサイド光か逆光気味で多くの花にピントを合わせて撮影したい。サイド光では立体的に、逆光では小春日和の暖かさが演出できる。一方順光では平板になってしまう。

 

千葉市若葉区 富田町   11月中旬

70-200mm(88mm) しぼりF8 露出補正なし ISO800 

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3-27

兆し(やまはぎ)

  

 ヤマハギはすでに3-1で掲載しているが、ここでは別の撮り口の作品を紹介。

 立秋の頃から秋の半ばまで咲くハギの花はマメ科の花なので立っている旗弁、左右から包む翼弁、船のへさきのような形でおしべ、めしべを包み込む竜骨弁(2枚の花弁が合わさって1つのように見える)から成り立っている。千葉県では何種類かのハギが見られるが、もっともふつうにみられるのがヤマハギ。翼弁より竜骨弁が長いことと花の茎が長いのが特徴。多くの枝はこの写真のように立ち上がっている。ミヤギノハギは庭園などでよく植えられている。一般に花つきが多く豪勢である。枝の多くはしだれる。葉の形はヤマハギが幅広い楕円形なのに対し、ミヤギノハギは細長い。マルバハギは翼弁の方が竜骨弁より長く、花の茎が短く、枝にしがみついている感じである。見かける機会は少ない。庭園では交雑によって作り出された園芸種がいろいろ植えられているので、ここで挙げた特徴がはっきりしないものもある。

 今回取り上げたのは雑木林の中にある野生のヤマハギ。背後にある木々の枝の間に見える青空をバックにして、花のついたハギの枝が扇のように展開する面白さに着目して画面構成した。絞りを開けたので被写界深度が浅くなり、空が水のように背後の木の枝は水に映り込んだ黒い影のように見える不思議な雰囲気になった。ピントのあった花は少しになったが、枝にはピントが来た。ヤマハギの花は色は目立つが小さいので、開けた空間を背景に持ってくる方が見た目がすっきりする。

 

千葉市若葉区

180mmマクロレンズ しぼりF4.5 露出補正なし ISO400 手持ち 

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3-28

やまほととぎす(山杜鵑草)

 

この仲間の花は花被に斑点模様がある。これを鳥のホトトギスの胸の斑点模様になぞらえて名付けられたという説がある。花被からおしべとめしべが束になって上に伸びる。おしべは6本。めしべは3つに分かれそれぞれが先端で2つに分かれている。めしべには粘性のある腺毛状の突起があり花粉を受け取る。めしべにも斑点模様がある。

 ヤマホトトギスはおしべの下の部分(花糸)に斑点模様があるのが特徴とされているが、写真の個体では模様はわずかである。花被の斑点模様の数や色の濃さは個体差が大きい。色が薄く数の少ないものは白っぽく見える。花は多くの場合、先端付近の葉腋(ようえき)から穂を出し、その先に数個の花をつける。この写真ではいくつもの葉腋から穂が出ているので珍しいかもしれない。花被は先が下向きに反り返っているのが特徴とされるが写真の個体はあまり反り返っていない。念のため典型的な花の写真を下に載せておく。

 似た仲間にヤマジノホトトギスがある。こちらの花は花被が反り返らない。花は基本的に葉腋から直接数個の花がでる。おしべの花糸には斑点模様がない。こうして比べると、写真の個体はヤマジノホトトギスとの雑種の可能性があるかもしれない。

 茎が斜めに流れ、その上にいくつもの花が上向きに咲いており、明るい広場を背景に透明感のある姿を見せていた。複数の花にピントが来るようにカメラ位置を決めた。明るい背後の露出に引っ張られるので花が黒くならないようにプラスの露出補正をした。

 

千葉市若葉区 泉自然公園

90mmマクロレンズ しぼりF3.5 露出補正+1.3EV ISO800

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3-29

たまあじさい

 

アジサイの仲間。つぼみが球形をした苞に包まれているのが特徴。玉がはじけるようにしてつぼみが顔をだし、やがて開花する。花の時期は8~9月。白いのは萼からなる装飾花である。中心部の紫色をした部分が両性花。千葉県では養老渓谷など房総半島の中部から南部の湿った林縁にみられる。

 この写真は9月中旬鹿野山神野寺付近の水がにじみ出るような斜面で撮影。多くの花は咲き終わっていたが、一部まだつぼみをつけていた。花に明るく日の当たってさわやかな印象がしたので、その雰囲気を高めるように斜め下から背後の草越しに明るい青空が見えるように撮影した。

 

君津市 神野寺付近  9月中旬 

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3-30

  おけら

 

雑木林の中でひっそりと咲いていた。花の色は白、葉の色は暗めの緑とキク科の中では珍しく地味な花である。頭花の下の総苞片は魚の骨のような形をしている。 

 9月下旬。日差しの乏しい午後の雑木林。せめて背後は明るくしたいとカメラ位置を決める。木々の間から垣間見える明るみの中に奥に咲く個体を写し込んだ。

 

千葉市若葉区  9月下旬

90mmマクロレンズ

しぼりF3.2 

露出補正+0.3

ISO400

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3-31

さくらたで

(桜蓼)

 

 水辺や湿地に生える。以前印旛沼に近い休耕田の縁に生育していたのを見たことがある。繊細な花序に淡い紅色の小花をつけた姿は秋にふさわしく魅せられた。植物園で保護栽培されているものに再会した。 

    曇り空のやわらかな拡散光がこの花の撮影にふさわしい。枝分かれした1本の花序にピントを合わせ、背後に他の花序をぼかして配置した。縦構図にすることでほっそりした姿が存在感を持って表現できた。

 

 

 

千葉市都市緑化植物園 10月下旬

135mm しぼりF3.2  ISO200

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3-32

ほとととぎす

 

 3-28で紹介したヤマホトトギスの仲間。葉は茎を抱き、その付け根(葉腋)に数個の花がつく。花被片の内側に紅紫色の斑点が密にあり、斜め上向きに開く。下部には黄色い斑紋がある。めしべにもおしべにも紅紫色の斑点がある。賑やかな感じがする。

 斜面に生え、斜めに伸びた茎の先に花がついていた。ともすると多数の花がつきごてごてした印象を与えるので、ここではあえて咲き始めで花数の少ない個体を選び、花に透明感を表現しようと明るい背景の中に置くようにカメラ位置を決めた。

 

千葉市都市緑化植物園

200mm F3.2 0EV ISO200  10月上旬

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3-33

みぞそば

 

田のあぜや水辺など湿ったところに生育する蓼の仲間。葉が同じタデ科のソボに似ることから。 枝先に小さな花が10数個集まって咲く。花弁はなく萼が花弁のように見える。上部は通常薄いピンク色、下部は白っぽい。茎や葉の裏面の葉脈には小さなとげが生えている。葉は鉾型で基部は耳のように張り出す。葉柄に狭い翼が生えることがある。

 ここに掲載した花は色が濃く美しかった。てっきり別の種だと思って仔細に観察し図鑑の記載と比べると、葉の状態はなんと近くに生える通常型の個体より図鑑の記載に一致した。ずいぶん個体差があるものだとびっくりした。

 バックに同じ色の花が点在するように配置を考えて撮影した。

 

千葉市若葉区 

90mmマクロレンズ F2.8 0EV ISO400

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3-34

 みそはぎ

 

 3-17でエゾミソハギを紹介した。そこで2つの種の識別点に触れておいた。

花の写真はアップもよいが、まとまって生えている場合はこの写真のように背景も含めて撮影するのもありだろう。ここではやや広角気味で撮影。こうした写真では手前にボリューム感を出すようにできるだけ花に近づくのがお勧め。水辺に咲く花なので背景に水面を入れるとすっきりして花が背後から浮かびあがってくる。1つ1つの花は小さく上の方にまとまって咲くので横から全体を撮ると茎が目立ってしまう。花の量を多めに見せようとやや斜め上から撮影してみた。

 

 那須高原CoppiceGARDEN コピスガーデン 5/19~6月末は入場料500円

APS18mm f10 -0.3EV ISO400 8月上旬

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3-35 

くず(葛)

 

秋の七草のひとつである。河原や雑木林の縁などで他の草に覆いかぶさってしばしば大繁茂する。伸びたつるが地面に接触するとそこに根を張る。管理者からすればなかなか手ごわい植物である。北米で緑化に導入したものが逃げ出し繁茂し、大変迷惑がられていると聞いたことがある。日本には米大陸からセイタカアワダチソウやらハルジオンなど数多くの植物が入ってきて放棄水田跡や空き地にはびこっているが、逆の立場になっているものもあるとは。

 8月下旬ころから空き地で甘い香りが漂ってきたら、この花を捜してみよう。多くは込み入った葉の間に隠れるように咲いているので写真には撮りにくい。初夏のフジの花と同じくマメ科の蝶形の花であるが、穂の向きは逆に上向きである。

 花は下から咲いていくので、気づいたときにはしばしば下の花は終わっており、見た目に美しくなくなっている。ここで紹介した写真では花の終わった部分が葉で隠れて見えないものを撮影した。2輪並んでいたので周りの葉を含めて写した。

 

千葉市若葉区 9月中旬

 (27mm) F4.5 ISO1600

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3-36

いぬしょうま

(犬升麻)

 

 やや湿った林内に見られる。葉はキイチゴ(カジイチゴ)を小型にしたような形。キンポウゲ科。

花はブラシ状の穂に白いおしべが目立つ。つぼみが開くと萼、花弁が落ちる。

 多くは穂が直立しており写真映えがしない。めずらしくカーブしているものを見つけたので、その曲線と根元近くに展開する葉の両方が見えるように撮影した。

 

千葉市若葉区 10月初旬

F5.6 +0.3EV  ISO400 

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3-37

きばなあきぎり(黄花秋桐)

 

 秋に黄色い花をつける。在来種のサルビアの仲間。葉は三角形の鉾型。ハチの仲間が花に潜り込もうとすると赤紫色の2つのレバー(退化した葯)を押すことになり、花の中に収納されている葯が上から降りてきてハチの背中に花粉をつける。鉛筆などを挿入して確かめることができる。その仕組みの見事さに感嘆するだろう。

 雑木林の林床にぽとぽちと見られるが、元来日当たりの良い環境を好むのであろうか。この撮影地は数年前に林が伐採されてむき出しになった。すると大増殖して群落状になった。

 

 後日談:林が切られてむき出しになったせいもあるのだろうか。2019年房総半島を直撃した台風のもたらした大雨でこの場所は広範囲に斜面が崩落した。いまではキバナアキギリの個体数も激減したしまった。その後、堆積した土砂にいろいろな草が生えてきたが、その勢いに圧倒されたようでキバナアキギリはもはや勢いがない。結局、林縁に近く木漏れ日が数時間は当たるような林床が他の植物があまり繁茂せずキバナアキギリが群生できる環境のようである。

 

千葉市若葉区泉自然公園 10月初旬

70-200mm(185mm) F5.6 -0.5EV ISO800 

色温度5600K

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3-38

つたうるし

 

 日本のウルシの中でもっとも強くかぶれると言われている。学生時代の野外実習で何かの拍子に触れたのであろう、その手でさわった瞼が大きくはれ上がりお岩さんのようになったことを忘れることはできない。

 同じく赤く紅葉するツタとは葉の形が全く異なる。こちらは三枚複葉である。葉に鋸歯はない。ただし夏場、若い葉は一見キヅタ(フユヅタ ウコギ科 常緑)やツタ(ナツヅタ ブドウ科 落葉)に似ているので要注意。

 識別は葉の鋸歯の先端に短い赤い針状突起があれば、ツタである。 

 先日群馬県のみなかみ町に行ったら真っ赤に色づいたツタウルシがあちこちで見られた。ところが全部が赤くなっていると意外に美しく思えない。多少黄色や緑色が混じっていた方が赤い色の美しさを引き立てるのではないだろうか。

 この写真を撮影後しばらくして直射日光が当たるようになった。すると赤い色が褪せたように見えた。なお背後に陽のあたる明るい森を少し入れることで全体が軽やかな印象になったと思う。写真には光が大きく影響すると改めて感じた次第。

 

千葉市若葉区     F3.5 -0.5EV ISO800

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3-39

つわぶき(石蕗)

 

 11月初旬。野の花もずいぶんと少なくなるころ黄色い鮮やかな花が目を引く。葉は分厚く、表面につやがある。常緑。元来海岸に生える植物だが庭に好んで植えられる。

 

花の写真撮影の基本は花と同じ高さで写すものだが、この花は花の下の茎が長く葉もついていないのでよほど茎の並び方がきれいで背景に恵まれないと何か間の抜けた写真になりがちである。そこで今回は花の密集感を生かして上から写してみた。花の下に地面が写り込まないほど密生した葉があったからである。広角レンズを用い上から接近しつつ、展開する葉がなるべく広く写るようにした。

 

佐倉市 くらしの植物苑 11月初旬

24mm F5.6 +0.3EV ISO400 

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3-40

しゅうめいぎく

(秋明菊)

 

菊の仲間ではなくキンポウゲ科のイチリンソウ属。

もともとは古い時代に中国から入ってきたようだ。品種改良されていろいろなタイプがある。庭に好んで植えられる。

 花弁のように見えるのは萼。草丈が80cmにもなって茎がごちゃごちゃと絡み合うようなこともしばしばあるが、この撮影地では立ち姿がすっきりして撮影向きな株が多い。品種の違いだろうか。

 秋の日差しを浴びている庭を透明感のある雰囲気に表現したいと思ったので、露出をプラスにもっていき、ピントは中央の2つの花だけに合わせ、望遠レンズでしぼり開放で撮影。背後に咲く花を主役の花を妨げないように配置できる位置から撮影した。構図としては、このサイトで繰り返し強調しているように主役の花を大きく写すのではなく、周辺にある花や光のもたらす微妙な色や明暗の違いなどを配置することで主役の花の美しさを高めるように工夫している。

 

佐倉市 川村記念美術館 9月下旬

175mm、F2.8、+1・7EV ISO200 三脚使用 

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3-41

りゅうのうぎく

(龍脳菊)

 野菊の中ではもっとも遅咲きで、千葉県では11月に入ってから見られる。野菊の仲間は識別が難しいが、この菊は葉の形が園芸種の栽培菊に似ていることで他の「野菊」と識別できる。葉をもむと樟脳に似た香りがする。樟脳に似た香りの香料である龍脳に似ていることから名付けられたと言われている。

 野草園での撮影。周りにジャノヒゲが生えていて野趣を感じさせていた。地面近くの低い位置にカメラをセットしてしぼり開放で撮影。背景をすっきりさせると同時に、近くに咲く花がバランスよく入り込むように構図を考えた。

 

 千葉市 泉自然公園 11月上旬

 120mm F2.8  -0.3EV  ISO320

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3-42

からすうり

【里山のモビール】

 

 放棄田跡や雑木林の縁にしばしば見られる。夏の花2-27で雄花を紹介したように花は夏の夜に咲く。秋の日差しを浴びて朱色に輝く実は里山の秋の風情の一つである。

 写真に撮るときは実が立体的に見えるようにサイド光が当たっている時が望ましい。また実が形よく複数個ぶらさがっているとなおよい。この写真では横にのびた茎に実がぶら下がっており、左と右にそれぞれ縦にぶら下がっている実をつなげて画面に広がり感が見られた。めずらしいことである。これがないと画面は左右で分かれてしまい1枚の絵にはならない。

 

千葉市若葉区

105mm F3.5  +0.3EV  ISO800

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3-43

ゆうがぎく

 

 川の土手、道端などに生える野菊。茎がよく枝分かれし、上部では小枝は横に広がるのが特徴。

 上部の葉は披針形で鋸歯が目立たないことが多いが、中・下部の葉はしばしば羽状に切れ込む。

 

地下茎で増え、群落状になることも多い。群落を表現するように絞りを絞って撮影。

 

千葉市若葉区 10月上旬

90mmマクロレンズ 16   0EV   ISO800 

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3-44

こうやぼうき

 

 雑木林の明るい林床に見られるキク科の低木。よく枝分かれする。葉は1年目と2年目では形態が異なる。1年目の枝には葉が互生して付くのに、2年目の枝には葉が3~5枚束になってつく。

 花は1年目の枝につく。名前は奈良の高野山で箒として用いているということに由来する。目立たない花で花の写真を撮っている方でも野の花に興味を持っている方でないとカメラを向けないのではないだろうか。写真グループで紹介したら「野草オタク」と言われたほどである。

 

 枝分かれしてところどころに花がついているので、正面から撮るとまったくまとまりがつかない。ななめ横から見るとたまたま2つの花が等距離にあるものを見つけたので背景をぼかすことで花を浮き立たせることができた。

 

成田市 房総風土記の丘  11月上旬

90mmマクロレンズ  F3.5  +0.3EV  ISO400 

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3-45

たこのあし

ユキノシタ科

 

湿地に生える。花の茎の上部が、外側にカールしており吸盤のついたタコの足に見立てての名前。秋には赤くなってまさにゆでだこのようになる。絶滅が危惧されている地方も少なくない。

 ここでは逆光気味の光条件で明るく輝く花を暗い背景に配置した。花びらのない地味な花で明るい背景では目立たないから。

 

千葉市若葉区 8月下旬

90mmマクロレンズ  しぼり F3.5  露出補正-0.5 ISO800

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3-46

ががいも

キョウチクトウ科

 

つる植物。茎を切ると白い液が出る。湿った場所にも乾いた場所にもみられる。花びらの内側に長い毛が生えている。

 写真としてはつるが目立つように撮れることが望ましいが、一方で絡みついた状態が藪のようになっているのはできれば避けたい。今回はあえて低い位置から仰ぎ見て白い雲の湧く青空というシンプルな背景を選んだ。

 

四街道市 吉岡  8月下旬

90mmマクロレンズ

しぼりF5.6

露出補正+0.7

ISO400

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3-47

おとこえし

スイカズラ科

 

 オミナエシの花の色の白いバージョンといわれるほどよく似ている。小さな5弁の花がたくさんついている。茎には毛が多いのが特徴。葉は対生し、羽状に避けている。葉の幅はオミナエシより広い。

 雑木林にしばしば見かける。オミナエシともどもやや上から見下ろすように写さないと花の形がわからない。

千葉市 平和公園 10月上旬

24-105mm(50mm) しぼりF5.6 露出補正ー0.5 ISO800 

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3-48

こしおがま

ハマウツボ科

 

 ススキ草原など日当たりの良い草地に見られる。

さわるとべたつく。

 半寄生植物で根の一部が突起状に伸びて他の植物の根に食い込んで養分を摂るという。

 千葉市内ではめずらしい植物。夕方にススキの穂が逆光で輝くことを期待して訪れたが、すでに周囲の樹木に太陽がさえぎられて期待した状態ではなくなっていた。あきらめてススキの原の中の小道を帰り始めたときに、ピンクの花を見つけた。二つの花の両方にピントを合わせるようにカメラ位置を探すが手持ちではなかなかうまくいかない。結局三脚を使用してようやく目的を達した。

 

千葉市若葉区 10月中旬

90mmマクロレンズ  しぼりF2.8 露出補正+0.5 ISO800

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3-49

さらしなしょうま

(晒菜升麻)

キンポウゲ科

 

若芽をゆで、水にさらして食べたことから名づけられた。○○ショウマという植物が少なからずある。もともとはこの植物の根茎を生薬として用いる際の名前だそうだが、葉の形などがサラシナショウマに似ていることなどからついているものが多いようだ。3-36で紹介したイヌショウマはサラシナショウマに似ているが薬効がないことからイヌと名付けられたようだ。植物の名前でイヌのほかにキツネ、ヘビなどとつくのは同じような理由でつけられたものが多い。

 アイスキャンディーのような白い穂をつける。茎から花柄がでてその先に白いおしべをたくさんつける。イヌショウマは葉がずっと大きく、花柄がない。

 

 泉自然公園の北向き斜面の一角に群生状態が見られる。柵があって近づけない。ならば周りの雰囲気も写しこんでやろうと中望遠レンズで撮影した。

 

千葉市 泉自然公園 10月中旬

90mmマクロレンズ しぼりF3.5 露出補正0  ISO800

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3-50

やくしそう

(薬師草)

 キク科

 

10月下旬 里山の農道の脇の日当たりの良いところで秋の日差しを浴びて黄色い花が咲いていた。

 めずらしく密度感のある集団があったので、真正面からとらえてみた。順光ぎみである。こういう光条件では平板になりがちなので絞りはやや深くした。花の間に黒い隙間があっては絵にならない。

 多くの場合これほど花が密集していない。よく分枝するので花が離れてしまう。その場合は横から枝の枝の流れがわかるように写す。やや日陰にある花を明るい背景で写したい。一般に強い日差しを受けている花の撮影では花の微妙な色合いが表現されにくく平板な印象になりがちだから。背景が明るい時はやや露出をかける。そのことによって秋の野に咲く花のさわやかさが表現できる。

 

千葉市若葉区  10月下旬

90mmマクロレンズ しぼりF8  露出補正+0.3 ISO800

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3-51

やまらっきょう

ヒガンバナ科

 

ネギ坊主のような花でわかる通りネギ属。手元の図鑑では山地の草原に生えるとあるが、撮影場所は湿原。ネット上で検索してみても湿原で撮影したものがおおいようだ。花の色は見頃を迎えると鮮やかな紅紫色になる。草紅葉に染まった湿原になかなか魅力的で、この花を見るために来る人も少なくない

 全体が細長いので縦位置で全部を入れると間延びする。横位置で撮るには1輪では絵にならない。少し丈の異なる複数の株が並ぶのが理想。しかも太陽が斜め横から差せば立体感が表現できる。しかしこの時は花の時期としては1週間早かったので、望ましい被写体はあまりなかった。2輪の両方にピントが合うようカメラ位置を決めるのが大変。しかも撮影地は海に近いせいかいつも強めの風が吹く。手持ちで何度も試みたがどうしても難しく、三脚を使うが遊歩道の幅が狭く思うような位置で脚を広げるのも苦労した。結局たくさん撮影してようやくうまくいった。フィルム時代では考えられない。

 

千葉県 山武市 成東東金食虫植物群落 10月末

90mmマクロレンズ  しぼりF4  露出補正+1.3  ISO800

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3-52

あきのきりんそう

キク科

 

 セイタカアワダチソウと同属。高原では8月上旬から下旬にかけてごく普通に見られるが、千葉市内ではほとんど見ることができない。高さ30~80cmとセイタカアワダチソウよりかなり低い。花のつき方は大きな違いがある。セイタカアワダチソウは、茎から水平に張り出した枝に多くの頭花が上向きに並んでつく。枝の長さは茎の上部に向かうにつれ短くなるので全体として円錐状の花序を形成する。アキノキリンソウの方は、茎に直接頭花を斜め上向きにつける。ごく短い枝を出す場合もあるがそこにつく頭花は2つくらいである。全体として茎の上部に細長い花序が形成され、きゃしゃな印象を与える。葉の形も異なる。セイタカアワダチソウの葉は細長く、先端がとがる。一方アキノキリンソウの葉は短く少し幅広。さらに葉の基部は細長く葉柄が翼を持ったようになって茎につく。撮影場所はススキや背の低いササの生える草地。ごく狭い区域だがキバナアキギリやイカリソウ、ノコンギク、キンラン、ホタルカズラなど数十種類の野草が生育している。アキノキリンソウは3個体しかなかった。

 背景の草地は日の当たると黄色っぽく見える。花の真後ろに黄色い背景が来ないように少し工夫した。

 

千葉市若葉区  11月初旬

90mmマクロレンズ  しぼりF3.5  露出補正1.3  ISO800 

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3-53

せんぶり(千振)

(リンドウ科)

 

 健胃薬として名前は知っていたが実物を見るのは初めて。名前の由来はティーバッグのようにして千回振り出しても苦いということからだとか。

 

 2005年にまとめられた貴重植物の調査でも市内には現存していないと思われていたほどめずらしい。

 図鑑にはただ2年草とだけ記されていてどういうことかわからなかったが、武蔵丘陵森林公園のカエデ園の脇の土手で増殖が試みられており、そこにあった写真付きの生活史の紹介看板では、4月に発芽し夏ごろに特徴的な葉を持つロゼットとなり、そのまま1年を経過して2年目の秋に開花し12月末に結実して枯れるとあった。

 リンドウの仲間といっても属は異なり、花は基部まで深く裂けており筒部はごく短い。しべの根元に緑色の長い毛が生えている。葉は細く対生。

 

 日の当たる条件で斜め上から接近して撮影。周りにあるセンブリも画面に少し入れた。背後の崖は露出差で暗めになったので、花が目立つようになった。 

 

千葉市 若葉区 11月初め

90mmマクロレンズ  しぼり F3.5  露出補正+0.3  ISO400

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3-54

ふゆいちご(実)

 

 11月中旬 樹林の下に赤い実がめだった。特徴のある葉の形がわかるように画面構成を考えて撮影した。いわゆる木苺の一種で地面に這いつくばるようにあった。

 

 

千葉市 泉自然公園   11月中旬

90mmマクロレンズ  しぼり3.2  露出補正+0.3  ISO800 

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3-55

ときりまめ(実)

 

秋の里山散策の楽しみの一つはいろいろな木の実が見られることである。

 トキリマメは赤い実がはじけると中から黒い丸い種子が出てくる。逆光で見ると透過光で赤く見えるさやをバックに黒い種子が一層映える。やはり赤いさやと黒い種子が目立つ植物にタンキリマメがある。葉の形が異なり、先がとがっているのがトキリマメ。そこで撮影では葉が一緒に写るようにした。背景をぼかして逆光の中で葉やさやが浮き立つように工夫した。

 

 

 

 

 

千葉市若葉区  11月中旬

90mmマクロレンズ    しぼりF3.2      露出補正+0.7 ISO400

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3-56

きっこうはぐま

(亀甲白熊)キク科

 

樹林の林床に生える。葉の形が五角形で亀の甲羅をイメージしての命名かと思われる。頭花は3個の小花からなる。林床にあって葉が小さいので目立たないのかあまり見かけることがない。しかも花はしばしば閉鎖花となって開いた状態を見かけるのはなお少ない。

 葉から10cmくらい高い位置に小さい花がつくので花と葉の両方を写すのは難しかった。このためしぼりを深めにして花の左下に五角形の葉の輪郭くらいはわかるように入れてみた。

 

千葉市若葉区 

  11月中旬

90mmマクロレンズ

 しぼりF8  露出補正なし ISO800

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>3-57

きんもくせい

モクセイ科

 

 毎年かおりによって開花を知る。2021年は9月中旬と10月上旬の2度同じ樹に花がついた。例年も2度咲いているかどうか、あまり意識したことがないのは咲いているとしても一方の時期に偏っているのかもしれない。雌雄異株で日本には雄株しかないといわれている。挿し木で増やされているのですべてクローン。ソメイヨシノ(桜)と同様に同じ地方ではほぼ一斉に開花するのはそのせいか。

 写真に撮るには光条件はサイド光から逆光気味がお勧め。厚手の葉も透過光で明るい緑色に見えオレンジ色の花が引き立つ。手前にあってほかからちょっと離れた花にピントを合わせ、奥の花をぼかして背後にちりばめる。大きな木でないとこうはできない。

千葉市若葉区

70-200mm しぼりF11 露出補正+0.7    ISO1600

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3-58

つるふじばかま

マメ科

 

 葉の先がつるになっているマメ科植物。ススキ原の中に生育していた。小葉の数が10~16枚で、似たクサフジの18~24枚より少ない。

 ススキの上に出ているものを探す。夕方の逆光を透過して見ると花の美しさが際立つ。毎年楽しみにしているが、草刈りの関係か見つからない年もある。種子が熟する前に毎年草刈りされてしまうのが残念だ。 

 

千葉市若葉区 9月上旬  

90mmマクロレンズ  しぼりF4.5  露出補正+1.5 ISO 800

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3-59

こむらさき

シソ科

 

 ムラサキシキブの仲間で実が小さく、背丈も低い。本来の生育環境はヨシが生えるような湿ったところだが、しばしば庭木として植栽されている。夏に小さな花をつける。

 

 この写真も庭に植えられたもの。光あふれる方が背後になるようにカメラを置き、斜め下の伸びる枝の特徴を表現するように縦位置に構えた。右下がりの2本の枝にピントを合わせ、光の当たっている葉をぼかしている。

 

青葉の森公園 9月末

 

90mmマクロレンズ しぼり2.8 露出補正 +1.5  ISO800

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3-60

こまつなぎ

マメ科

 

 マメ科の低木。ススキ原の中にも出現するのを見ているが、この写真は植栽されたもので高さが数メートルになる。

 張り出した枝に斜め前方に花序をつける。目立つ色の花なので背後は暗い色はもちろん明るめの色でもすっきりしてさえいれば問題なく撮れる。ススキの原の中にうずもれるような個体では空を背景に選ぶしかない。

 

千葉市緑化植物園 8月下旬

90mmマクロレンズ しぼり F3.5 露出補正 +0.7 ISO800

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3-61

つりばな(実)

 

 秋にはいろいろな木の実がなる。花の少なくなる季節の楽しみである。特に赤い実は背景から目立ち鳥を引き付ける。種子の散布を託すためである。

 里山を歩いてツリバナの花を見つけたことがある。緑白色の5弁の小さな地味な花が長い柄の先にぶら下がっていた。実を楽しみにして秋に再訪したが残念ながら実を一つも見つけることができなかった。それだけにこの実を目にしたときは栽培しているものであってもうれしかった。果皮が割れて中から赤い種子がぶら下がるようにつく。

 午後の高度を下げた日の光が色づいた木々の葉を通る。そうした色の背景から浮き上がるように露出をプラスして撮影した。

 

赤城自然園  11月初旬

70-200mm(200mm) F5.6 露出補正+1.7 ISO400

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3-62

つるうめもどき

 

 生け花の素材としてよく見かけるが野外で見かけることはあまりない。雑木林で低木層を切り払いた区画の植生調査でたまたま1本見つけた。印をつけて今後の成長を見守ることにした。

 

 この写真は休耕田の畔に生えていたもの。黄色い果皮が割れて中から赤い実が顔をだす。朝日に当たると一層鮮やかに映える。

 

千葉市若葉区  11月下旬

70-200mm(165mm) F3.5  露出補正なし  ISO200

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3-63

つるぼ

 

 8月の下旬から9月上旬に草はらに出現する。淡いピンク色の小さな花を穂状につける。群生するとそれなりに見ごたえがある。

 

 サイドからくる光で立体的に表現される。背後からの光も好ましいが、しばしば手前の花が暗くなりがち。そうした場合はレフ板かLEDライトで少し光を補ってやるとよい。背景は常緑樹のような少しアンダー気味を選べば一層目立つ。数本をアップ気味でとらえるのも群生を斜め上から俯瞰的に撮るのもよい。後者の場合は夕方の斜光線でないと花が目立たない。いずれにしてもつぼみの残っているうちが撮りごろで、先端まで花が開いてしまっては下の方の花が終わっており美しくない。

 

千葉市若葉区  9月初旬

24-105mm(24mm)F8 露出補正し  ISO200

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3-64

しろよめな

 

 「野菊」の1つ。千葉県ではノコンギクの次によく見かける。落葉樹林の下に集団をつくっている。頭花は「野菊」の中では最も小さい。

 日当たりの悪いところで生育しているノコンギクは頭花が小さいくなることがあるので、ちょっと迷うことがある。ノコンギクの葉はざらざらしているが、シロヨメナはそれほどではないし、生育環境がノコンギクは林縁からさらに明るいオープンな場所で見られる点でも区別できる。

 逆光気味で撮ると木漏れ日が背後に入って変化が得られる。手前に生える花の間から撮影すると前ボケが得られる。

 日当たりが不足しがちだったので色温度を5700とした。

 

千葉市若葉区 10月下旬

90mmマクロレンズ F4.5   ISO800  色温度5700K

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3-65

十月桜

 

 春にも秋にも咲く桜。秋の花はより小さく、花密度が小さい。数輪集まって咲いているものを探してアップで撮影することが多い。

 ただこの写真のように離れたところからみても花がまとまって見えるような場合には紅葉と合わせて撮影したい。その場合絞りは開け気味にして背後の紅葉の形をぼかして色として表現すれば小さな花も存在感が増してくる。

 秩父地方の城峰公園はまさに紅葉とセットで十月桜を楽しめることで有名。

 

佐倉市川村美術館  11月初め

280mm  しぼり8  露出補正+0.3 ISO1000 

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3-66

いぬたで

 

 タデの仲間は多くが湿ったところに生える。ひとつ一つの花は小さく目立たないが穂状に多くの花をつける。萼に色がついており、花が終わってもそのまま残るのでいつまでも花が咲いているように見える。イヌタデは萼が赤く、「あかまんま」といわれることもある。子どものままごとで赤飯に見立てられるからであろう。田の畔ややや湿った空き地ならどこにでも見られるが写真に撮ろうとするとよい被写体がなかなかない。密度があってできれば穂が同じ方向に傾いているのが絵になりやすいからだ。

 撮影地は古い休耕田だが草刈りが適度に行われているので、いろいろな一年草が生えてくる。この年は例年になくイヌタデが繁茂した。しかも色が濃い。そこで背後が明るくなる条件で露出はプラス補正をし、しぼりは開け気味で背後をぼかすことで主役を目立たせた。

 

千葉市若葉区 10月下旬

90mmマクロレンズ  しぼり3.5 露出補正+0.5 ISO200

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3-67

われもこう

バラ科

 

高原、湿原、平地のススキ草原などに見られる。赤みを帯びた小さな花が茎の先端に密集してつく。花が終わってもややくすんだ色でそのまま残っている。生け花の材料としてもよく使われる。

 枝の数はさまざまで、1,2本しかない場合は画面に広がり感が出ないし、数本出ている場合でもあっちこっち伸びるので、なかなかまとまりがつかない。茎が長いのでその扱いも悩むところ。初秋の風情を表現するには良い素材なのに絵になる被写体になかなかめぐり合わない。この写真では枝の出方はまあまあでサイドからの光で背景のススキの原から浮かび上がらせることができた。

 

千葉市若葉区   8月末

90mmマクロレンズ  F3.2  ISO200

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3-68

きんみずひき

バラ科

 

 草はら、空き地に普通に見られる。小さな黄色い花を房状につける。花が終わった後、UFOのような形の実をつけるが、小さな棘が多数ついていて衣服にしっかりついて厄介だ。こうした ”ひっつき虫” と称される種子散布の植物は秋に多いようだ。いわゆる ”けもの路” に生えて動物の毛について運ばれるので、生育する場所もそのような場所になる。よく似ているが花が小さく少し湿ったところで見かけるヒメキンミズヒキという種もある。

 花茎が長く葉から離れた位置に花をつけるので、丈の低い個体でないと葉と花を一緒に写すのは難しい。ここでは小群落になっているうちの1本にピントを合わせ、背後にほかの花をぼかして入れてみた。

 

千葉市若葉区  9月中旬

90mmマクロレンズ  F3.2 露出補正+0.3 ISO200

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3-69

ぽんとくたで

 

 湿ったところでふつうに見られるタデの一種。特徴は花の穂先が垂れること。地味で野草に関心のある向きでないと無視されるだろうが、よく見ると秋の雰囲気を漂わせている。

 写真撮影では集団になっているのを狙いたい。花の穂先が同じ方向に垂れているのを見つければ、絵にリズミ感が出てくる。向きが不ぞろいだと画面がごちゃごちゃした感じがする。ここでは雨上がりで水滴をまとっている。さみしさが漂っている。こういう被写体は背景がすっきりしていないと目立ってこない。

 

千葉市若葉区  9月上旬

90mmマクロレンズ F5.6  露出補正+0.5 ISO400

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3-70

ひれたごぼう

アカバナ科

 

 田の脇などで見られる北米原産の外来種。関西から広がってきたようだが、千葉県でもよく見られる。しばしば大きな群落をつくり黄色い花が目立つ。

水田耕作は植物相をかく乱するからこうした外来種が入り込みやすいのだと思われる。ひれのついた田牛蒡(たごぼう)の意味で葉のついた茎のへりにひれ状の出っ張りがある。

 写真では全景を撮っても、1輪のアップでも撮ってもいいが、ここでは背景に田の水面が入るように中間の画角で撮影した。

 

千葉市若葉区  8月末

24-105mm F4  ISO200

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3-71

やぶまめ

 

 林縁やススキ草原などで見られる。青っぽい旗弁をもつこのちいさな花は特別に目立つわけではないが、意外とあちこちで見かける。

図鑑によれば花のタイプが3つある。1つはこの写真のような地上花、もう一つは閉鎖花、そして3つ目は地下茎につく閉鎖花。地上花にできる種子は数mも弾き飛ばされ新天地へ進出する。地下茎につく種子は地上花の種子よりずっと大きく、一年草である親個体が枯れた後に同じ場所で生育する役割を持つ。とまあ命をつなごうといろいろな戦略をとるようだ。

 ツル植物を写真に撮るときはツルが分かるようにとるのが大切。草むらの陰に生えていたので、花の手前や脇にあってツルが巻き付いていない草を少しわきにどけて花が見えるように整理した。ツルが右上から左下に斜めに伸び、葉腋から花枝を出している様子がわかる写真になった。

 

千葉市若葉区   10月初旬

90mmマクロレンズ F4.5  ISO400

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3-72

ふじかんぞう

 

 落葉樹の林内に見られる。奇数羽状複葉をもつ。花の時期は8月上旬から9月初旬。茎の頂点から長い花茎をのばしマメ科の特徴である蝶型のピンク色の花を下から順に開いていく。先端の花が開くころ下の方はすでにヌスビトハギを大きくしたようなマメ果をつけ始める。

 花茎が長いので花をある程度大きなサイズで葉と一緒に写すことは難しい。離れて写せば一緒に撮れるが花のサイズが小さく写ってしまう。ところがたまたま花茎がやや短い個体があったので撮影できた。淡い色の花の背後に強い日差しが注いでいる状況では花が目立たないので、花に柔らかな光が当たり、背後にもほどよい木漏れ日が注ぐという運もあった。

 

千葉市若葉区  8月上旬

90mmマクロレンズ  F2.8  ISO800

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3-73

すすき

イネ科

 

 カヤともいわれかやぶき屋根の材料にする。

 ススキの穂は2度開く。一度は花が咲くとき、もう一度は種子が熟して白く見えるとき。

 ススキの原を維持するには毎年秋から春先までに刈り取るか野焼きをしなければならない。そうすることで、林へと変化していく遷移を止めることができる。春は遮るものがないので、スミレ類やフデリンドウなどの丈の低い植物が生育できる。ススキが成長し始めても、葉が斜上しているので根元まで太陽の光が届き、初夏にはタツナミソウなど、夏にはカワラナデシコやヤマユリなど、秋にはワレモコウやツルフジバカマなど、多くの野草が生育できる。多様な植物のコミュニティが成立するススキの原は大切に残していきたい。

 ススキ原の写真といえば白い穂が風に揺られる様を思い浮かべるでしょう。まあそれが定番。ところが今回用意したのは花の時期の写真。拡大してよく見ていただくと逆光に光る黄色や赤褐色の小さな粒が穂から垂れているのがわかるかと思う。これは花粉を放出した後の葯(やく)。写真でははっきりしないと思われるが、葯の根元には小さなゲジゲジのような柱頭がある。花粉が放出されてから柱頭が成熟する。自家受精を防ぐようになっている。イネ科であるススキの花は葯と柱頭なのである。

 撮影は夕方の逆光条件が必須。望遠レンズでしぼり開放にして手前も奥もぼかし、主役の穂の広がりのみを表現した。葉の照り返しが玉ぼけとなって画面を飾ってくれた。

 

千葉市若葉区  9月末

70-200mm(200mm) F2.8  ISO200

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3-74

のあさがお

 

秋も深まっても咲き続ける朝顔? 種子はできないので、沖縄由来のノアサガオと思われる。千葉県南端の野島崎の灯台付近でにも見たことがある。

 つる植物の写真はその特徴であるつるを見せたいと常に思っている。今回は画面の上方になんとか入れることができた。

 背後には青空に秋らしい筋状の雲があった。PLフィルターを使うことで空の青と雲の白さを出すことができた。

    空き家の塀の脇に咲いていたが、空き家は取り壊され、もう花は見られない。

千葉市若葉区西都賀  11月初旬

24-105mm   しぼり4   ISO200

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3-75

ふじばかま

キク科

 

秋の七草の1つ。花は夏の項で紹介したヒヨドリバナとそっくりで区別がつかないが、葉の形や色つやが異なることで識別は可能。

谷津に面した里山で普通に見かけるヒヨドリバナは葉が少しざらついてつやがない。一方フジバカマの葉はなめらかでつやがあり、多くは下方の葉が鉾のように三つに分かれている。葉を刈り取って半生乾きにすると桜餅の香り(成分;クマリン)がする。野生状態でみかけることはほとんどない。園芸店で売っているものも本当のフジバカマではないことが多いらしい。

 この写真は谷津の湿ったところに自生しているもの。NPOが守る活動をしている。花を結ぶ線が斜めになり、背後にツリフネソウの赤い花が入るように立ち位置を決めて撮影した。

 

千葉市若葉区  9月下旬

24-105mm  しぼりF5.6  ISO800

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3-76

えぞりんどう

 

 高原の湿原の秋を彩る。品種改良されて栽培種として生け花やお供えに用いられている。

 茎頂や上部の葉腋に上向きの花をつける。晴れないと開かない。すくっと立って青い花をつけるさまは気品を感じる。

 この写真の背景の黄色い花はクサレダマ、右端の青紫の花はサワギキョウ。

前ボケと背景にクサレダマを配し、黄色と青色の補色関係で鮮やかさを表現した。

 

長野県 入笠湿原  8月上旬

90mmマクロレンズ  F2.8  +0.5EV  ISO200

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3-77

かんとうよめな

キク科

 

 野菊の一種。名前の通り関東地方の水田の周りなどの湿ったところに見られる。薄紫の舌状花と黄色い筒状花からなる。あまり分枝することなく、花は他の野菊ほどは密生しない。葉はノコンギクと異なりざらつかない。似た環境に出るユウガギクは舌状花は白っぽく、茎はよく枝分かれし群生状態になることが多い。

 このように筒状花が盛り上がっている花はピントを舌状花の手前側に合わせる。マクロレンズで絞りを開けると被写界深度が浅くなるので、中央に合わせると後ろの花びらにはピントが合っても手前がぼける。全体にピントが合っていないような感覚になる。画面に多くの花が入るような群生状態を探すが、ふさわしい被写体は多くないので難しかった。

 

千葉市若葉区  11月下旬

90mmマクロレンズ  F2.8  ー0.3EV   ISO400 

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3-78

しらやまぎく

 

 房総半島にある野菊は6種類。すでに紹介したノコンギク、ユウガギク、シロヨメナ、リュウノウギク、カントウヨメナ、そしてシラヤマギク。

 シラヤマギクは最も大きく高さ1.5mにもなることがある。茎の下部には翼のある葉柄をもつ大きな葉をつける。花はまばらで絵になりにくい。草はらや明るい落葉樹林の林床に普通にみられる。

 ここではめずらしく高さの異なる2株が近くにそろっていた。なるべく多くの花にピントが合う位置に立ち、それでいて背後から浮き出るように絞りを浅くする。それでも背後の緑の草むらからなかなか浮き上がらない。

 

千葉市若葉区  9月下旬

90mmマクロレンズ F4.5  ISO400

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